自分流・日々のことば

日々のことば「善と悪」 Posted on 2025/08/28 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
いいお天気でしたから、画材を買いに車で出かけました。
パリはバカンス中ということもあり、いつも渋滞なのに、今日はガラガラなので運転が楽で、おもいがけず楽しかったわけです。
だからか、ちょっと赤信号でつかまってしまうと、逆に、「最悪」と思ってしまったんですね。
人間が出来てないもので・・・。
青信号ですっと通過できると「やった」と嬉しくなりました。
浅はかな人間でございます。
で、思ったのですが、信号で停止させられたくらいで「最悪」とは、ことばの使い方を間違えていませんか?
こんなもの「最悪」でもなんでもないわけです。
ちょっと信号につっかかっただけで、人間社会のルールですから、当たり前なのに・・・。
でも、車がぜんぜん走ってないパリの珍しい交通状況の中で、赤信号につかまったのだから、「最悪」感が半端なかった。
こういう時、思わず「最悪」と呟いてしまうのもまた人間です。

じゃあ、本当に最悪な時はどう言うのでしょうね。
超最悪~、と若い女性が口をとがらせて言う時も、実は、そこまでひどい状態じゃない場合がほとんどです。
本当の意味で最悪の時って、もはや、最悪、なんてことばは使いません。
ぼくが横転し頭を激しくうち、血だらけになった時、ぼくの口を突いて出てきたことばは「これはやばいかも」でした。笑。少なくとも「最悪」ではなかったわけです。
日本語の「最悪」は、思い通りにいかなくて、ちょっと躓いた時に、思わず口から出るものにすぎません。
最も悪、ではないのに「最悪」が飛び交うこの世界で、「悪」とは何か、考えてみましょう。

道徳的倫理的常識を否定する行動に対して「悪」という定義がなされていますよね。
じゃあ、「善」はなんですかね。
一般的には個人や集団が社会などに対し良い影響を与える全般的なことを「善」と指しています。
興味深いことに「善と悪」によってわかりやすい二項対立の世界が生み出されているというわけです。

日々のことば「善と悪」



最高の善は、「最善」になりますね。
最高の悪が、たいしたことのない「最悪」ですから、「最善」も確かにことばにするとたいしたことがない気がします。
「それが最善だ」
と誰かが言うんですが、「最悪」に似た印象を持ちます。
そこまで最高の善ではない時に、人間は「最善」を使うことが多いです。
何かと比較して、まだましな時に「最善」になるような・・・。
「ま、それが最善だよね」

ちょっと注意しないとならないのは、この「善と悪」が、本当にことば通りなのかどうか、人間はしっかりと見極めないとならない、ということなんです。
人間を抜きにしてこの世界を眺めてみるとよくわかることなんですが、自然界に「善悪」はありません。
ライオンが小鹿を食べるのは自然です。
弱肉強食と言われていますが、それは自然だからなんです。
「かわいそう」と思うのは、人間だからです。
そこに人間が社会文明を持ち込み、ルールを作り、「善と悪」が生まれたにすぎません。
時間の概念もそうやってできました。
悪と決めつけているものがそうじゃなく、善と思われているものが実はそうじゃない、こともかなりあります。
どの規範で、そこに関わる人間を見るかで、「善悪」はまったくことなってしまいます。
戦争だって、そうです。
とくに現代は複雑化しているので、情報を鵜呑みに出来ません。
まるで質の違う善悪がはびこっているからです。
「善悪とは合わせ鏡で覗いた自分のうなじ」
かもしれません。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
良い1日を。

今日のひとこと。
「善悪とは合わせ鏡で覗いた自分のうなじ」

自分流×帝京大学

日々のことば「善と悪」



今日のごはん。
「味のない野菜スープ」

日々のことば「善と悪」

ちょっと、健康を意識して、野菜だけをことこと煮て、梅をおとして、食べました。健康を取り戻したい時に作る食べるスープです。こうやって、胃腸を整えています。味が無い、と書きましたが、実はすごくあるんです。ぼくは調味料も使いますが、使わない料理も大好きなんです。二刀流です。善と悪に似ています。どっちが善とは決めません。どっちも必要なんですよ、生きる上で。


ということで、個展情報です!!!
近づいてきましたよ。今は、ここだけが、ぼくの希望です。笑顔でお会いしましょう。

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23点の渾身作で行くよ。笑。

辻仁成の美術サイト、昨日、更新されました。

辻仁成 Art Gallery

そして、父ちゃんがみなさんの悩みや質問にこたえるラジオ、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。

TSUJI VILLE



posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。