自分流・日々のことば
日々のことば「因と縁」 Posted on 2025/09/06 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
一昨日のことですが、愛犬と散歩をしておりましたら、大雨にふられたので、困って木陰に逃げ込み、雨をやり過ごそうとしていたのですが、雨がどんどん強くなり、びしょぬれになったのです。
すると、どこからか、傘をさした若いマダムがやって来て、
「入りませんか?」
と・・・。
すごい雨ですからね、ありがとう、と言って傘に入れてもらいました。(三四郎は抱いています)
でも、雨がますますひどくなったので、どこかの家の軒先に退避したわけです。
二人とも(一匹も)びしょびしょでした。
すると、そこにそのマダムのご主人から電話が入りました。どうやら、心配してむかえに来てくれるのだそうです。
まもなく、大きなワゴン車を運転する素敵なムッシュがやってきました。レスキュー隊員のような感じで。
すると、マダムが、おくりますから、乗ってください、と言うのです。
ご主人も、窓をあけて、どうぞ、どうぞ、と言いました。
豪雨でしたからね、ぼくひとりならなんとかなりますが、さんちゃんがかわいそうで、甘えることにしたわけです。
すると、ぼくが借りているアトリエのすぐ近くのご夫婦だったんです。
新しい家が出来ているな、と思っていた家でした。
最近、そこを購入されたのだとか、・・・。
「ご近所さんだったんですね」
「ぜひ、近々、アペロでもやりましょう」
連絡先を交換して、別れました。
それが、ステファニーとパトリックとの出会いということになります。
「一樹の陰一河の流れも他生の縁」
ということばを思い出しました。
同じ木陰で雨宿りをし、同じ河の水を飲むのは、前世からの深い因縁によるものだ、という仏教の教えなんです。
「袖振り合うも他生の縁」
と一緒ですよ。
まさに、古いことわざ通りの出来事になりました。え、ということは、前世で何か縁があった、ということ?
ぼくは仏教徒ではありませんし、特定の信仰はないのですが、この仏教における「縁」の哲学には興味があります。
この宇宙における、すべての存在や現象が相互に関係し合って生じている真理を仏教では「因縁生起」と呼んでいるようです。
すべてのものは「因」と「縁」が結びついて生じるという考え。
因とは、直接的な原因
縁とは、間接的な原因
になります。
因がなければ結果は生じません。
縁が結果を生み出すのを助ける力になります。
たとえば、ぼくが今、ここに生きていられるのは、ぼくを生んだ親が「因」にあたります。
そして、学校に行ったり、海外で暮らしたり、誰かと仲良くなったり、離れたり、犬を飼ったり、こういうその後のすべてのことが「縁」にあたるようです。
壮大過ぎて、わからなくなるくらい、縁の結びつきは果てしのない連なりの結果なのですね。
☆
そして、おととい、雨が降りました。
豪雨に見舞われた瞬間、ぼくは慌てて犬を抱き上げ、木陰に入りました。
そこに、たまたま通りかかったステファニーがいたんです。
そして、彼女のご主人の車にのせてもらい、ぼくは家に戻ることが出来た。すると、彼らはご近所だった。
これは明らかに「ご縁」ですね。
こんなに宇宙は広大なのに、その雨も、縁、であり、その木も、縁、全部が何かのご縁を繋いでいると考える時、ぼくらは孤独でしょうか。
結論ですが、ぼくら人間はこのご縁の世界で生きている、ということを忘れてはならない、ということじゃないでしょうか。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
誰かとの、何かとの、縁、を見失わないように。
大丈夫です。
今日のひとこと。
「一樹の陰一河の流れも他生の縁」
今日のごはん。
「普通のそうめん」
ちょっと、疲れたので、今日は、そうめんでした。最近、そうめん食が流行中です。生姜をたっぷりといれるのが、父ちゃん流ですよ。生姜、ニンニク、大事ですね。
☆
いよいよ、来月、パリでの大個展が開催されます。いつも行く、画材屋さんのお兄さんに、案内状を差し上げましたら、行く、と言ってくれました。やっぱり、あなたは画家だと思っていたよって。えへへ、嬉しいですね。わかるんだな~。笑。
☆
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催します。
だいたい、午後の14時から、18時くらいまで開画廊いたします。みんな長く働かないので、午後、お越しください。
今回は、浮世絵にヒントを得た新しいシリーズ、ボタニカルな美しいノルマンディ世界、など、今までにない辻ワールドでおおくりします。全23~24点の渾身作で行くよ。笑。
☆
1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、6点ほどを出展させてもらいます。
一部の作品は、辻仁成の美術サイトで確認できますので、どうぞ、御覧ください。
☟
そして、父ちゃんがみなさんの悩みや質問にこたえるラジオ、毎月3回やっている人生を語り倒すラジオ・ツジビルはこちらから、です。どうぞ。
☟
posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。