PANORAMA STORIES
日々のことば「濁」 Posted on 2025/09/15 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
人間は何事も、引き際が肝心である、と思います。
今ままで割と長く生きてまいりましたが、人徳者というのは、別れ際がスマートですね。
未熟者は、人間関係を破壊しまくって、去っていきます。やれやれ・・・。
揉めたとしても、お互いいつか仲直りできる余白を残して去っていくような人とは、また、何年か後に再会しても、気まずいということはなく、時がお互いの心を許しあえているわけですから、再び一緒に歩くことが出来たりするわけです。
しかし、徹底的に関係を破壊し尽くし、憎しみを植え付けられた場合、残念ながら、回復は不可能となります。
ま、フランス人の多くは、一度揉めると、生涯元には戻さない場合が多いです。彼らの頑固さ故でしょう。これはこれで、潔い、と思うわけです。
喧嘩をした人は、もう二度と目を合わせることもなくなります。渡仏して25年、ぼくがフランス人のこの徹底した姿勢には、いろいろなことを考えさせられてきました。
終わりは終わり、というある種の美学なのです。
でも、日本人の美徳というのか、やめ際が大事だという考え方も素晴らしいですね。
こういうことばがありますよね。
「立つ鳥跡を濁さず」
非常に日本的な別れの美学だと思います。
「立つ鳥跡を濁さず」とは、「立ち去る時は後始末をきちんとして、出来るだけ揉めないで、清らかに離れなさい」という戒めです。
それは再びやり直そうとか、というより、自分自身の心のために、そこはおさめて次へ行け、という意味なのでしょう。
水辺で棲息する水鳥は、飛び立ったそのあとは、彼らがいた水面は濁ることもなく、澄んでいます。
今日も、朝、美しい鳥さんと出会いましたが、羽を広げて、優雅に飛び立ち、慌てて水面を確認しましたが、波打つこともなく、実に清らかな去り際だったものです。
人間はこうありたいものです。
そうすれば、揉めていたとしても、後味が薄まります。そして年月がその人の良いところだけを心に残してくれることでしょう。
☆
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
大丈夫ですよ、マイペースで。
今日のひとこと。
「立つ鳥跡を濁さず」
今日のごはん。
「空心菜炒め」
最近、絵ばかり描いていたので、小説のことを忘れておりました。小説と絵というのは、同じ表現ですが、ぜんぜん、違うんですね。どっちがいいというわけじゃないですが、もう100冊くらい小説を書き続けてきたので、今は好奇心が絵に向かってもしょうがない時期です。自分のコピーを繰り返す表現者にはなりたくない、というのがぼくのポリシーです。ということで、作家としての空白が長かったからでしょうか、不意に書きたいという衝動にかられ、ライブ的な感じで、ある日、突然、小説をスタートさせたのが、今、ここで連載中の「泡」になります。この時代の代表作にするべく、のんびりと仕上げていきますので、お付き合いください。「日々のことば」は週に一度のアップを考えております。よろしくです。
☆
そして、ちょうど、一月後になりました。パリでの一年ぶりの個展です。自画自賛雨霰のすごい傑作が並びますので、お楽しみに。
辻仁成、個展情報。
☆
パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催。
☆
1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、6点ほどを出展させてもらいます。
そして、月三回の定期ラジオ・ツジビルはこちらから、どうぞ。」
☟
Posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。