PANORAMA STORIES
q.b.レシピのないレシピ帳~オリヴィエ風レモンのパスタ~ Posted on 2025/09/26 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア
今夏の猛暑も束の間の午睡ように過ぎ去り、朝晩はタオルケット1枚では肌寒く感じるようになってきました。帰宅するなり浴びていた冷水のシャワーは何時しかお湯に変わり、シーズンも終盤であることを実感しています。今シーズンは最近のユーロ高にもかかわらず、例年以上に多くの日本人のお客様がご来店してくださりました。中でも意外と多かったのが、このデザインストーリーズを読んでわざわざ足を運んでくださった方が結構いらっしゃったことです。こんなに不定期に書いている記事なのに本当に有難い限りです。
さて、今年もたくさんの出会いがありましたが、毎年来て下さるリピーターさんの中に、ゆう子さんとオリヴィエさんという国際カップルのお二人がいらっしゃいます。いつも事前にメールでやり取りして僕のおすすめメニューを提供させて頂くのですが、今年はたった一つだけリクエストがありました。それは、「レモンとパルミジャーノだけのシンプルなパスタが大好きなので、作っていただけませんか?」ということでした。
詳しく聞いてみると、イスキアの別の行きつけのレストランでそのパスタを食べるのが毎年の楽しみの一つとのこと。参考までに写真を送っていただいたところ、具も何もない本当に素朴なパスタでした。生クリームや卵の入ったレモンのパスタは結構メジャーで、うちのレストランのメニューにもあるのですが、ここまでシンプルなものを出しているお店はそんなに無いのでは?という感じでした。しかし、これはシンプルがゆえに逆に難しく、しかも近所のレストランで毎年食べられているのでプレッシャーがかかる、、、と思った瞬間、僕のやる気スイッチが点灯しました。率直なところ、この手のパスタで僕が好きなのは、茹でたてのパスタをお皿に盛って美味しいオリーブオイルとパルミジャーノをたっぷりかけ、レモンをぎゅっと絞って胡椒を挽くだけというもの。けれどもレストランで出すからには“フライパンで調理したい”という思いがありました。
そしてその日以来、ある時は深夜の帰宅後に、ある時は昼休みの合間にと計5回の試作を繰り返し、その末にできたのがこのレモンパスタでした。バターをひとかけ入れてみたり、ピンクペッパーを加えてみたり、混ぜ方の順番を変えてみたりと試行錯誤しましたが、最後は出来るだけシンプルに、でもレモンのパンチの利いた味付けに落ち着きました。僕はもともとあっさりした味付けが好みでしたが、歳を重ねるにつれ、その傾向が強まってきた気がします。近年の凝ったグルメブームや様々な流行とは逆行して、料理も人も素朴な方が性に合うなあと、このレモンパスタを頬張りながら思うのでした。
因みにオリヴィエさんが最近覚えた日本語の中に“すっぽんぽん”という言葉があるのですが、このパスタの命名をお願いしたところ、「具も何もないので“すっぽんぽんパスタ”はどうですか?」という冗談交じりのお返事がありました。さすがにそれはちょっと、、、なのでお名前をお借りしてオリヴィエ風レモンのパスタに決まりました。それではレシピをどうぞ。
オリヴィエ風レモンのパスタ
材料(1人分)
○太めのスパゲッティ(又はリングイネ)90g ○中くらいの無農薬レモン 1個
○オリーブオイル q.b.(適量)○パルミジャーノチーズq.b. ○好みで黒胡椒 q.b.
○にんにく ひとかけ
作り方
① レモンを洗いキッチンペーパーで拭きます。おろし金で皮の黄色い部分だけを半個分削ります。目の1番細かいところで削った方が口どけが良いです。別の小鉢などに4分の1個分のレモン汁を絞っておきます。パルミジャーノチーズも削っておきましょう。
② パスタを茹で始めます。その間にフライパンにオリーブオイルを2回し程とにんにくを入れて熱します。ニンニクが色づいたらパスタのゆで汁をお玉1杯ほど入れます。にんにくは取り出して(ほのかな風味付けなので)強火にして乳化させます。
③ アルデンテに茹でたパスタをフライパンに入れます。ゆで汁はとっておきましょう。レモンの皮のすりおろしを加えて強火で手早く混ぜ、パサつくようならゆで汁を適量足し、とろみが出てきたら火を止めます。
④ レモン汁とパルミジャーノチーズを加えてよく混ぜ、全体がトロっとしてきたら出来上がりです。お皿に盛ってパルミジャーノチーズをさらにかけ、好みで黒胡椒を挽きましょう。
さっぱりした味わいなので食欲のない時にもおすすめです。肉料理などの付け合わせにもよいでしょう。試してみて下さいね。それではまた普段着の食卓でお会いしましょう。
※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピにして頂けたらという思いを込めて。
Posted by 八重樫 圭輔
八重樫 圭輔
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シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。