自分流・日々のことば

日々のことば、「付」 Posted on 2025/10/06 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
昔、作家の日野啓三先生の家に遊びに行ったことがあり、先生が面白いことを言ったのです。
「辻くん、小説ってね、アイデアとかヒントが不意に浮かぶことがあるよね。思い付くっていうけれど、あれだね、思いが付くんだ。だから、不意にアイデアが浮かんでもおかしくないよね」
ぼくはほぼ、思い付きで書いている作家なので、この時の日野さんのことばに、日野さんのような先生でも「思い付く」を大事にされているんだ、と思ったので、忘れられない思い出となっています。
同時に、思い付く、っていうのは、じゃあ、どうやったら思い付くのか、ということになりまして、簡単じゃないですよね。
ぼーっとしていても、思い付かないわけです。
「思い付く」は「ひらめき」のことですから、どうやって閃くのか、ここですよ、もっとも大事なことは・・・。
思い付くためには、それだけの引き出しを常に満杯にしておいてこその、「思い付き」なのでしょう・・・。
もちろん、そんな野暮な会話にはなりませんでした。
「辻くん、思い付く、なんだよ、大事なのは・・・」
ことばの裏側にある意味を思う時、物語を作ることの大変さを知った気がしました。

引き出しとは好奇心であったり、チャレンジであったり、習得であったり、あらゆることから得られる無限袋のようなものを持つことだったり・・・、「思い付く」道程は険しいわけです。
「あ、思い付いた!」
いいですね。「思い付き」には、バカでかいヒントのようなものが隠されているような気がします。
大事にしましょうね。

日々のことば、「付」



思い付く、みたいなことばに
思い出す、
思い当たる、
思い浮かぶ、
などがあります。
思いがどっからか出てきて、思い出す。忘れていた過去のこととか、そうですね。
思い当たるは、記憶の中になんかちょっとその件に該当するようなことがある場合に、使いますね。
思い浮かぶは、何も意識していないのにそのことが不意に頭の中に出てくることです。
付くか、出るか、当たるか、浮かぶ、似ていますが、微妙に違ってます。
ちなみに、「思い浮かべる」というのは、意識して考えていることなので、思い浮かぶ、とは非なるものです。
難しいですね、日本語。笑。

ぼくは今、ほぼ毎日、小説「泡」をここで連載しているんですが、このくらい大長編の連載になると、新聞小説の連載並みに過酷ですね。
だから、計画的に書くというよりも、「思い付く」ことを大切にしています。
でも、うまく付かず「思い悩む」こともしばしばです。
ひらめきこそ、創作のもっとも重要な手段なんだと信じていますが、閃くためには、日々の観察力がものを言うのでしょう。世の中をどう見て、世の中とどう向き合って、世の中をどう生きるか、
さて、まさにこの時代を生きる我々に必要なものは、「思い付く」発想力なのかもしれません。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

自分流×帝京大学

日々のことば、「付」



久しぶりに、NHK「パリごはん」の再放送が決まりました。

「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2023SP」
今回は、NHK BSP4Kでの放送となります。
「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2023SP」
【再放送】 NHK BSP4K  
10/13(月・祝) 午前9:30~10:59

辻仁成、個展情報。

パリ、10月13日から26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」2週間、開催。

1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、6点ほどを出展させてもらいます。

日々のことば、「付」

ラジオはツジビル!

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posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。