PANORAMA STORIES

父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽) Posted on 2025/10/17 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
父ちゃん画人です。
パリで個展がはじまり、5日目となりました。
画廊の近くに、あきら君(俳優の小栗旬様にちょっとだけ、ちょっと、似ている青年)がおりまして、ええ性格しておるんですが、ちょっと個展の来場者が少なかったので油を売りに行ったわけです。
「あ、辻さん、おっす」
「おっす、あきら君、スタッフ差し入れカフェ三つね。お菓子適当に」
「了解っす」
と彼が背中を向けてコーヒーを淹れ始めたんですが、なんと、なんと、彼の場所に仏語の辞書が開いているじゃーあーりませんか。おおお!
「おぬし、仕事しながら、勉強してんの?」
「ええ、まー」
うおおお、すげー。しかも、この辞書、かなり本格的なやつやん、三省堂?
似合わん、あきらに・・・。

なんで俺はこの努力を25年も放置してきてしまったんやろ。
あきら、すごいな。
恥ずかしい・・・。

父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)

父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)



父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)

そして、あきら君が作ったケーキが大評判で、お客さんの目の前で、最終的な仕上げをやるんですが、みんなが、おー、とどよめくわけです。
日本から、10000キロも離れた場所で、がんばる、あきら君、素晴らしいし、頼もしいですよね。まだ、日本大丈夫じゃないか!
パフェみたいなものを作っていましたが、前に僕も食べたことがあって、ケーキ屋さんに負けないかなりのクオリティなのでありました。
おすすめです。
父ちゃん的には、あきらに負けないように、自分も今夜から仏語の単語を覚えなきゃ、と思った次第で、この年で、奮起させてもらえ、あきらに、感謝なのでありました。まず、辞書探さないと・・・。えへへ。

父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)



父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)

帰り道、いつもとは違う方に歩いたところ、不意に見覚えのある公園に辿りついてしまいました。
ああああ、ここ、もしかして、ボージュ広場じゃない?
ボージュ広場の近くに画廊があったんだ!

ぼくはこの公園で、実は、大昔、小説「サヨナライツカ」の冒頭の詩を創作したのです。
公園内のベンチに座って、書いた詩から、あの小説が生まれたんですけれど、そのあと、タイのバンコクに移動し、そこで取材をして、物語を作りました。
まず、最初の「傘を用意しなさい」という詩の発祥地なんですよね。
画廊とボージュ広場は目と鼻の先だったわけで、びっくり・・・。
やれやれ、今まで気が付かなかったのはなんでだろう・・・。

父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)

父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)



父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)

ところで、今日、フランス人の50代後半くらいのご夫婦が不意に入って来たのです。
ぼくは遠くから眺めていたのですが、このご夫婦は、絵を買いにきた、のだとスタッフに話しておりました。
で、なんとなく、耳を欹てていたんですが、
「わたし、この絵嫌い」
と奥さんがはっきり言うんです。ぼくが画家だと思ってないようでした。ご主人も、頷いています。
「この絵も嫌い、趣味じゃない」
というんです。悲しいですな。笑。
ま、しかし、趣味の違いですから、気にしません。
そういうことはままありますよね。だから、そこから離れて、バックヤードで仕事をしていたんですが、15分くらいして、スタッフがばたばた走ってやって来て、「なんか、先生、下の絵を買いたいと言っています」と言うではありませんか・・・。
え、どの絵? 
え、あのご夫婦が?
慌てて、下に降りたら、緑色の大きな絵(サイズ80号)の前で、ぼくを待ち構えていました。
「ああ、その絵かぁ~」
実はその絵は、初日に売れてしまっていたんですね。
WA/KOSMOSというシリーズの通称「ガーデン」という作品で、2年くらい制作に時間が掛かりました。
「残念。またいつか、チャンスがあれば・・・」
その方たちは、芳名帳にサインを残して帰って行かれましたが、ぼくは、とっても嬉しかったです。大満足。
一枚でも買いたいと思ってくれたんですから、「勝ったも同然」です。
でも、同じ絵は二枚と描けないのが、父ちゃんのいいところなんです。きっと、値が上がることでしょうね。
おしまい。
えいえいおー。

父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)

※ ちょっとわかりずらいですが、右の絵です。

父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)

父ちゃん、パリ個展日記(学ぶ日本男児に脱帽)

辻仁成、個展情報。

パリ、10月26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」現在開催中です。
住所、20 rue de THORIGNY 75003 PAROS
地下鉄8番線にゆられ、画廊のある駅、サンセバスチャン・フォアッサー駅から徒歩5分。
全32点展示。残り数点になりました。

1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、6点ほどを出展させてもらいます。

辻仁成 Art Gallery
自分流×帝京大学



Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。