PANORAMA STORIES

父ちゃん、パリ個展日記(版画制作) Posted on 2025/10/25 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
秋深し、パリはアートの紅葉中です。

今日は、仕事&打ち合わせがあり、画廊にはちらっと顔出しただけでしたが、フランス人がたくさん来てくださいました。
そして、フランス語の堪能(???)な父ちゃん、英語を混ぜながら、偽ギャラリストになって、接客をまたまた、やったりしておりました。
「この赤い点はどういう意図で描かれたんですかね?」
とお客さんが言うので、
「ムッシュ・ツジは、赤い点は何か、とお客さんに思わせることが大事だ、と考えておられるようです。というのも、抽象画というのは難しいので、入り口が必要。赤い点は何かと疑問を持つことで、その入り口となるわけです」
「なるほど。それは面白い」
「はい、ムッシュ・ツジはとっても面白い人で、お料理も得意です」
「まあ、それは面白い」
「わたしも食べたことがありますが、彼の料理はアートのようです」
あはは、ま、どっちもアートですものね。
そして、みなさん、真剣に絵にくぎ付けになって御覧くださっています。
ご近所の絵画好きなご夫婦がまたまた来てくださいましたよ。
「いや、買えないんだけれどね、明日には終わるだろ? だから名残惜しくてね。目に焼き付けておきたいんじゃよ」
嬉しいですよね。
「はい、作家も喜ぶと思います」
「どんな人だい? ムッシュ・ツジは?」
「気さくな方で、シャイですからね、表には出てきません」
「だよね、テレビとか出ないでしょ?」
「出ませんね、仙人辻と日本では言われております。孤高のアーティストです」
「素晴らしい。そういう絵だものね」
「どうです? カタログだけでも」
「いいね、カタログ一冊頂戴」
でへへ。
ギャラリストむいてるかもしれませんね。辻仁成のことを知らない方々ばかりなので、写真もプロフィールも貼ってないから、謎のまま、個展は終わるんです。
そういう「泡」のような人生いいですね。
もうすぐ、SNSもやめようと思っていますし、マジで、仙人になる日が、ちかづいております。

父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)

父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)

この母娘さんは、ウクライナ人だそうで、むずめさんが在仏15年、たぶん、お母さんを呼び寄せたのでしょうね。
この絵はいくらか、といくつかの絵が気に入られたみたいで、質問を受けました。
でも、すでにどれも売れていたので、もう売ってないんです、というと、来年も来るね、とおっしゃってくださいました。
一つ、ウクライナカラーの絵があり、それが一番好きだ、とのことでした。青と黄色の絵があるんです。たまたま、ですけれど・・・。

画人は、嬉しいな、と思いました。昨年はロシア人の人が観に来てくださり、波を浮かべていたのがいまでも、忘れ荒れません。今回は、ウクライナ人・・・。
世界中の人が、感じてくださいます。
「ムッシュ・ツジの絵は、確かに暗いんですが、希望を描いているんです、今の時代の。
この希望は、明るい色では表せない希望なんですよ」
偽ギャラリストは説明をしています。
えへ。

父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)



父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)

「この絵は、どうやって描いているのでしょうね」
「ええと、ムッシュは描いている姿を人にはさらしませんので、我々もわからないのです。普段はノルマンディの山奥にこもって自炊をしながら、愛犬の三四朗と暮らしています」
「いいですね。そういう静かな暮らし。パリでは毎年やっているんですか?」
「ええ、来年一月にグループ展があり、11月くらいにリヨンで個展の話がありますので、ご連絡さしあげます」
ということで名刺をいただきました。
美術関係の方とか、ワイン屋さんとか、画廊経営者さんとか、様々です。
そういえば、迎えの画廊のニコラさんと仲良くなり、いつか、君の絵は好きだから、グループ展に参加してよ、と言われました。
新しいファンの獲得に、グループ展は重要ですから、参加したいですな。
それにしても、みなさん、熱心に絵を見てくださいます。
一時間くらいは、在画廊されている方ばかりです。
そして、友だちと来た方々が静かに絵を見て、語り合っています。
ひそひそ、・・・。素敵な空間です。

父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)

父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)

ところで、父ちゃん画伯は、地下にあるスタッフ控室で、ひそかに、グラビュール(版画)の制作をやっています。(日本での販売は2027年以降になる予定です)
この版画は、中学生の頃に版画クラブに所属していたので、その頃は木版画でしたが、そこが始まりとなります。
版画のいいところは、油絵よりも安価で売ることが出来るので、みなさんも家に飾りやすいですね。
20枚から50枚のエディションになり、そして、油絵より可愛らしいので、若い人にはむいています。
とはいえ、彫るのはものすごく体力とセンスがいるので、大変です。
版画プレスの機械も購入予定です。
絵と同じで下書きはしません。いきなり、カットしていきます。
刷った時の感動を求めて・・・
ふふふ。

父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)



父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)

26日、日曜日が最終日となります。
17時には撤収開始しますので、いつもより早く閉館となりますから、日曜は15時から16時くらいが最後の展示となるでしょう。
お時間のある在仏の皆さん、旅行者の皆さん、このチャンスにどうぞ。
では、失礼いたします。
おほほ。
えいえいおー。

いよいよ、最終日迫りました。
辻仁成、個展情報。

パリ、10月26日まで、パリ、ピカソ美術館そば、GALERIE20THORIGNYにて「辻仁成展」現在開催中です。
住所、20 rue de THORIGNY 75003 PAROS
地下鉄8番線にゆられ、画廊のある駅、サンセバスチャン・フォアッサー駅から徒歩5分。
全32点展示。残り数点になりました。

1月中旬から3月中旬まで、パリの日動画廊において、グループ展に参加し、6点ほどを出展させてもらいます。

父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)

辻仁成 Art Gallery

父ちゃん、パリ個展日記(版画制作)





Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。