自分流・日々のことば
日々のことば、「急ぐべからず」 Posted on 2025/11/09 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
若い頃、母親に、「お前は生き急いでいるから心配じゃ」と言われたことがあります。
生き急ぐというのは死に急ぐということだからのんびりやれ、ということでした。
とはいえ、小生、急がない日がないんです。別に、本人的には、急いでいるつもりはないんですが・・・。
ただ、いわゆる、創作(仕事?)を休んだことがありません。
要は、1年、いっつも働いているわけです。そりゃあ、女性にもてないわけです。
嫌ですよね、休めない奴なんか、笑。
毎日、仕事(創作)をしていないと、落ち着かないので、365日、何にもない日でも、こういう雑文を書いており、ゼロ、という日がありません。
たぶん、ずっと、そうです。
小説家って、日曜日も考えたり書いたりしますから、その上、画家を生業にするようになると、目に絵がとまったら、日曜日でも、気になって、ずっとキャンバスに向かっています。
やっと満足したな、と思って横を見ると、パソコンがあり、書きかけの小説やエッセイが気になり、キーボードを打ち始めるのだから、そんな男についてきてくれる人なんかいませんね、きっと。
でも、フランス人も、日本人も、土日に、仕事のメールをすると、
「ただいま、休暇中ですので、お急ぎの方は月曜日までお待ちください」
という機械的なメールが戻って来て、それが編集者だったりすると、
「あの野郎、俺に働かせて」
となるわけです。
しかも、その締切日が「月曜日の午前中まで」だったりすると、頭にくるわけです。
週末頑張って書かせているあいだ、自分は休んで旅行とかしているわけでしょうからね、ま、いいんですが・・・。
でも、ぼくは働くのが好きだから、文句は言ったことがありません。
締め切りも守ります。
そもそも、そんなこと、どうでもいいんですね。
創作をしている瞬間が「生きてる」実感のかたまりだからです。
今も、毎日、このデザインストーリーズで「ほぼ毎日連載(日曜日休むのは構想の日だから)」をやっています。
ある日、やると決めて、はじめて、お金にもならないのに、笑、もう、50本くらいになりました。(総字数、15万字越えました)
日々、達成感の連続で、その時に、生きている実感を得ています。
これが、リゾート地とか行くと、何もすることがなくて、めっちゃつらいんです。
家族旅行に向かないダメな男でした。
今は、バカンスでさえ、絵を描いてられます。こういう男はもてません。
あきれられて当然ですな。
同業者がパートナーならば、どうだったかな、と思うことはあります。過酷でしょうね、想像しただけで、過酷です。
やっぱ、三四郎がベストかな・・・。


※ 散策中に牛さんと出会った三四郎君。

英語に「Make haste slowly」という言葉があります。
「急がば回れ」という意味なんですが、これをうちの母は、若い頃に、
「ゆっくり急げ」
と訳して小生に教えたわけです。ま、同じですけれど、「ゆっくり急げ」とか「のんびり急げ」って、ちょっとニュアンスが違いますね。
悪くないことばです。
悪くない、ぼくにはちょうどいいんですよね。さすが、母さんです。
「だって、お前はどっちみち、休みなしで生き急ぐんだろ。ならば、長生きを心がけつつ急げ、出来れば、のんばりと急げ」、と言ったものです。
☆
で、英語で、
「Hitonari,Make haste slowly」
と言いました。
のんびりと急ぎたいと思っています。
だから、ノルマンディに住処を買ったわけです。
そこだと、毎日、沈む夕陽を見ることが出来ます。
疲れたら、窓の向こうの夕焼けを見て、のんびりし、回復したら、再び、急ぐ構えなんです。
ぼくは自分の人生を生き切ります。
みなさんも、みなさんのペースで楽しんで急いでください。笑。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。

※ パリの展覧会情報
2026年1月16日から3月7日まで、パリの日動画廊において、フランス人画家のグループ展に参加し、8点ほど出展させてもらいます。うち、一枚は、すでに売約となり、展覧会、初日に撤去されるということのようです。ご了承ください。
☆
日動画廊さんはパリ8区にあります。
住所は、61 Rue du Faubourg Saint-Honoré, 75008 Paris
となり、ええと、ブリストルホテルとエリゼ宮のあいだくらいの交差点角にあり、だいたい、警察官さんが立っています。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。



