PANORAMA STORIES
日々のことば、「行動」 Posted on 2025/11/19 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
もう、バレている、とは思いますが、ぼくはめったに休むということがない人間なんです。
なんにもしないでいい、と言われたら、きっと恐ろしくて辛くて病気になってしまうことでしょう。
365日、いっつもノートに何か書いていたり、パソコン開いて文章を書いていたり、キャンバスに絵を描いたり、料理をしてもそれをレシピにしたり、未来の計画を練ったり、何か、創作をしています。それを仕事と思ったりはしてなくて、ただ好きで勝手にやっていることなんです。
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リゾート地に行き、何にもしないで、ぼうっと海だけみて、ビーチマットで寝ているだけとかって、ものすごく苦痛だったりする人間です。
だから、そういう旅行をほとんどしたことがない。でも、たまに、何かを探す旅には出ます。もしくは、人生をリセットするための「旅」、旅行じゃなく・・・。笑。
旅先では、宿で何か創作しています。スケッチしたり、詩を書いたり、パソコン開いて書きかけの小説の続きを書いたり、笑、救われない男です。
デザインストーリーズをはじめて10年以上経ちますけれど、このウエブサイトマガジンは、ぼくにとって、救世主のような存在で、だって、毎日、最低2本はここに記事を書いてアップしているんですからね、それがメインの仕事ではないにしても、毎日ここに何か自分の痕跡を残す、ことに喜びを覚えています。
ほぼ「滞仏日記」のようなものなんですが、これを書くことで、ぼくがなにを得ているのか、というと「自分が経験したこと」を知る、ということなんです。
だいたい、ここには、今日、こんなことをパリで経験した、ということを書いているわけですが、経験した、と人は言いますけれど、それはだいたい、何か出来事があって、その出来事に対して自分が行動せざるをえなかったり、考えて方向性を変えた時に、その起こった出来事が「経験」というものになるということなんですよ。起こった出来事を素通りしていると本当の経験にはなりません。
日記を毎日書くということは、つまり、今日起こったことが、そこでなんらかの形になって行動に移された証拠を意味します。
難しい話ではありません。経験は、行動のあとに生じるものだからです。

常日頃、自分が自分に言い聞かせていることがあります。
とくにそれは若い頃に自分に言い聞かせていたようです。
「無駄なことは、ただ計画を持つことで、行動しないこと」
ただ、このことだけでした。
計画やアイデアはたくさんあって、実現しないこともたくさんありましたが、中には、必ず実現したもの、させたものもあります。
その違いが何か、と考えると、ただ計画を持った、時と、その計画を行動に移した時の差でした。
「ああいう小説を書いてみたい」
と計画をしても、一行も書かなければ、小説は生まれないわけです。

今、「泡」という小説をここで連載していますが、書こうと思いたって、三日後から連載を無謀にスタートさせましたが、50回くらい(第三部まで)すでに書き終えています。
ここから完結させるために、ここ数日は筆を置いて、慎重に駒を進めているところですが、間違いなく、今まで書いたことがない小説が生まれる予感に包まれています。
それをライブで読者の皆さんに読んでもらうことで、ぼくの計画は、実現に大きな舵を切ったわけです。
賭けでしたが、ゴールは見えています。
与えられた人生を無駄にしない、というのはぼくの生き方で、みなさんに推奨するものではありませんが、ぼくは苦難にある時にこそ、楽しんできたように思うのです。
困難は常にチャンスの入り口でした。
だから、あと何年生きるかわかりませんが、生きているあいだに、あと数千点の絵画、あと十作ほどの長編小説、他にもいろいろと持っている「計画」をすべて実現させるために「行動」を起こし続けたいと思っています。
若い頃に持っていた「計画」もそこに含まれています。
人生は楽しく生きるためのものだからです。何より、自分のものですからね。
はい、今日も精一杯生きたりましょう。
えいえいおー。
今日のひとこと。
「無駄なことは、ただ計画を持つことで、行動しないこと」
今日のごはん。
「けいじ君による、こはだの握り」


辻仁成、展覧会情報
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2026年、1月15日から、パリ、日動画廊、グループ展に参加。(辻仁成以外は、Henry Zers, Pierre Lesieur 彫刻のPatrick Blochの3氏)
2026年、11月には、リヨン市で個展が決まりそうです。版画なども出す予定。情報解禁になったら、まっさきにお知らせいたしますので、リヨン周辺在住の皆さま、お楽しみに。
2026年、夏に日本でも個展を開催する予定ですので、8月前半、スケジュールあけておいてくださいまし。

Posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。



