自分流・日々のことば
日々のことば、愛 Posted on 2026/01/18 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
おつかれではないにしても、あまり無理をされないでください、とくに過度な人間関係は人の心を疲れさせますので特に近くにいる人たちのせいで・・・ですよね。
一人になると、そこが楽ではあります。さみしいですが・・・。ま、どっちがいいのでしょうか。
ということで、今日の「日々のことば」ですが、愛、について、フランス語の格言、ことわざ、言葉から学んでみたいと思います。ま、学ぶというより、そうよね、と納得したらいいだけの話で、言葉で愛を表現するのは無理だと個人的には思っています。でも、しかし、フランス人はこと愛については情熱者ではありますが、同時に、皮肉交じりで語り合うことが多いのも事実でございます。
ジャンコクトーが広めたと言われている、
「Il n’y a pas d’amour, il n’y a que des preuves d’amour.」
について、今日はお話をしましょうかね。

Il n’y a pas d’amour, il n’y a que des preuves d’amour.
これを翻訳しますと、
「愛というものなんかない、あるのは、愛の証だけさ」
となります。証は、証明でもいいし、証拠でもいいし、この場合は愛を示すこと、と解釈できますね。
フランス人でさえも、これはコクトーの言葉だと思っている人が多いのですが、実はこの言葉は、詩人、ピエール・ルヴェルディが書いた詩の一節なんです。
それをコクトーがガストン・ルル―の小説「黄色い部屋の謎」の再販に寄せた序文の中で、引用し、広まりました。もちろん、コクトーはルヴェルディの言葉が好きであえてそれを引用したのです。
☆
コクトーは、詩人、小説家、劇作家、映画監督、画家と、幅広く活躍したアーティストですが、父ちゃんに似てますかね、あはは。父ちゃんは歌手もあるから、ちょっと勝ってる? 笑。あはは。
実は、コクトーは個人的にはそこまで好きなアーティストではないのですが、でも憎めない存在だし、あ、詩はいいですね。そして、可愛いイラストが人気ですし、ぼくも彼のイラストが使われたお皿を1枚持っています。それは素敵です。イラストは素敵ですね。むしろ、彼はエスプリに飛んだ哲学的ウイットの人じゃないか、と思っています。だから、こういう言葉を彼が紹介しただけで、コクトーが呟いたのじゃないか、と思われてしまうわけですね。
Il n’y a pas d’amour, il n’y a que des preuves d’amour.
ですが、ただ、「愛している」というだけじゃ、愛は物足りないもので、行動や態度で愛を示さないとならないし、つまり、愛の証、が求められているんだよ、という皮肉?
でも、やっぱり、言葉だけで愛しているを言われても、言わないで愛してくれているのが分かる方が素敵だったりしますね。そういう皮肉を込めたフランス風哲学かもしれません。
ただね、ここが難しい。証拠をくれ、といってたくさんプレゼントをもらっても、行動が伴わない愛に、人は、心が動かないものです。金で心が動く人もいるでしょうけれど、やっぱり、本当に愛されていると思う瞬間というのは、思いもよらない時に受ける優しさなんですが、この言葉はつまり、優しさの足りないご主人に対して使うとより有効かもしれませんね。
奥さん、最近、ご主人はあなたの手を繋いでくれましたか? あなたのあでこにキスをしましたか? あなたの肩をそっと抱き寄せましたか?
ご主人、奥さんはどうですか? 一緒にベッドで寝てくれますか?
フランス人はみんな、おじいちゃんになってもおばあちゃんの肩を抱き寄せています。それがない人たちはさっさと次を探している感じです。
もう一つ、こういうことわざがあります。
「Un clou chasse l’autre.」
意味は
「一つの釘が別の釘を追い出す」
釘が前の釘を押し出す、みたいな。なんにもしない古い夫を抜いて、その穴に、新しい男を打ち込め、とでもいうような、めっちゃパリジェンヌが言うと怖い、皮肉ですかね、‥いや、震えますっ。
アムールの国、フランスらしいことばだと思いませんか?

今日のことば
「愛というものなんかない、あるのは、愛の証だけだ」
今日のごはん
「とろろそば」

辻仁成展覧会情報
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フランス日動画廊パリでのグループ展に参加中。3月7日まで。途中で、作品が入れ替わる予定です。
GALERIE NICHIDO paris
61, Faubourg Saint-Honoré
75008 Paris
Open hours: Tuesday to Saturday
from 10:30 to 13:00 – 14:00 to 19:00
Tél. : 01 42 66 62 86
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それから、8月5日から、一週間程度(予定)、三越にhン橋本店特選画廊Aにて、個展を開催いたいます。
今回のタイトルは「辻仁成展、鏡花水月」です。
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そして、11月初旬から3週間程度、リヨン市で個展を開催予定しています。詳細はどちらも、決まり次第、お知らせいたしますね。
お愉しみに!
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そして、電子書籍で「海峡の光」が配信されております。文学の方もどうぞ。
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posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。


