PANORAMA STORIES

父ちゃんが激怒した夜 Posted on 2026/02/05 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
仲がよくいから、甘えるというのはよくあります。
人間ですから、本当に好きな人には怒りをむけても、赦すものです。
しかし、大変な夜でした。
聞いてください、父ちゃんの愚痴を・・・。
話せば、数日前、野本こと呑もちゃんが休みの日なので、「呑もうぜ、作戦会議だ」とやりとりをしていたのですが、その日、一向に連絡がありません。
何度もメールしたら、
「呑む気、満々」
という意味不明なメッセージが・・・。
仕方ないので優しい奥さんのところに、
「のもちゃんと呑む約束をしていて、今、お宅の前にいるんですけれど、三四郎と・・・」
と伝えました。その後電話で、
「申し訳ありません。その辺にいるはずなんですが、すぐに連絡させます」
と言い残して電話が切れた。
雨・・・。どしゃぶりであった。
レイン、レイン、雨がふる~♪

のもちゃんの家の前で三四郎を抱えて、待っておりましたら、まもなく、通りの反対側から、千鳥足で現れたのもちゃん、でありました。(たぶん、奥さんが思い当たるカフェに電話をしたんでしょうな)
すでに、べろんべろんに酔っている。
でも、友だちだから、怒らない。優しい父ちゃんでありました
「あ、じゃあ、家族も誘って、みんなでイタリアンに行こう」
と言い出し、奥さんにお店の予約を頼んでおりました。
「ま、みんなの準備があるから、一杯、その辺のカフェで」

父ちゃんが激怒した夜



父ちゃんが激怒した夜

で、そこで、また、意味不明の人生の力説を聞かされ、(おにぎりや国虎握りが順調と自慢をさんざ聞かされ)こっちは素面だから、微笑んで聞いていた、という次第です。
「そろそろ、イタリアンに行った方がいいんじゃないか?」
「あ、ああ、そうやな」
ということで、移動。
イタリアンに行くと、店員さんが、また来たか、という顔をしたのが気になった、父ちゃんです。というのも、最初の店でも、同じ視線を感じました。だれも笑顔じゃないのに、マリアはいいやつ、とか、言っているんですが、マリアさんはぶすっとした顔でのもとをじっと睨んでいるじゃないですか、なんか、変だな・・・。
ま、だいたい、想像がつきますね。素面だと真面目ないい男なんですよ。
「七人くらいになると思うよ。野本の家族全員来るから。大きなテーブルにしてください」
と一応、ぼくが言ったんですが、店員さんは半信半疑・・・。奥の二人掛けの狭い席に、とりあえず、と座らされました。
「奥さんから予約が入っていますが、二人、となっていますので、まず、こちらで、どうぞ」
すると、野本が、はいはい、という感じで、そそくさと、そこに着席。
その時、ああ、酔っぱらっているのはわかっているから、みんな、来ないのかな、と思った父ちゃん。
娘さんたちも忙しいから、当然です。
それでも、野本はどこ吹く風と、プロセッコ(泡)を一本頼んで、豪快に呑んでいます。酔眼ですが、酩酊の手前。
店員さんのきげんをとるのが大変でしたから、
「ラーメンでも食べてお開きにしようか」
と提案。
野本と二人でイタ飯という感じでもなかったので、しかし、店員さん、最初から、そう思っていたのでしょうね。驚きもせず、お勘定となりました。
で、三件目は一風堂まで歩いていったのです。

父ちゃんが激怒した夜

父ちゃんが激怒した夜



のもちゃんの注文の仕方が凄い。
メンマ、辛みそ肉、きくらげ、卵、餃子、おしんこ、みたいな小皿のサイドディッシュばかり、10皿くらい注文をし、赤ワイン一本、頼んでました。
「ひとなり、あー、ま、こういうところでの呑み方をフランス人は知らんから、こうやって、ちびちび呑んで、最後に、ラーメンでしめるのが、じゃっぱにーずスタイル、な」
ところが、途中から酩酊状態となり、絡まれるのです。なんか、人が触れられたくないような古傷のような昔話をつつく、つつく。
黙って聞いていたんですが、しつこいので、文句を言いましたら、
「で、君はどんなふうにがんばったの? 今の君はなに? どんなことやったの?」
とワインを片手に明後日の方をむいて、説教というか、
「なにか、りっぱなことしたのか? 」
と言い出して、ついに、父ちゃんぶちぎれました。笑。
「え、それで今の君があるの? そんなんでいいの?」

父ちゃんが激怒した夜

※ この顔の時の会話です。目はしっかり閉じていますが、ワインは溢さない・・・

「は~」
「お前な、だれにむかってそんなこと言うとんねん」
と激怒すると、
「あれ、お前、だれ?」
と不意に目が覚めたのか、ぼくの顔を覗き込んで、お、ひとなりか、と言い出し。
「あわわ、ひとなりだと思わなかった。俺はひとなりに説教してたんか。なんで?」
とか、もう、めちゃくちゃ・・・。
ビーガンラーメンは美味しかったです。

よくじつ、床で寝込んでいる写真が本人から送られてきて、
「よく、呑んだ」
と一言添えられておりました。奥様が、呆れて撮影し、酔っていたことをぼくに伝えた方がいいと言い聞かせたのでしょうね。
優しい奥さんがいる実に、幸せな男です。いいなー、羨ましいなー。

普通なら、怒って二度と会わないところなんですが、
「気にせんでええよ」
とメッセージを返しておきました。奥さんのますみさんに大きな男だな、と思われたくて・・・。
しかし、たまに激怒しとくのも、人生、大事ですからね。ある意味で、いい友達です。
またいつか呑むとは思いますが、半年くらい、ほっときましょうかね・・・。笑。

父ちゃんが激怒した夜



はい、父ちゃんからのお知らせです。

父ちゃんの2026年のスケジュール。
現在は、パリの日動画廊でグループ展に参加中。電子書籍「海峡の光」パリのオランピア劇場ライブ盤、各配信サイトで配信中。
3月11日に、文庫「父ちゃんの料理教室」3月18日に、エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」
8月5日から三越日本橋本店特選画廊A全面で「辻仁成展、鏡花水月」。
10月、パリ、アートフェア出展の予定
同時期、仏文学イベント、予定。
11月、リヨンでの個展、予定。同月、パリでのライブ、予定。この頃、小説「泡」刊行予定。他、予定多数・・・。

自分流×帝京大学

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Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。