PANORAMA STORIES

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ Posted on 2026/02/17 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
先週、呑みの席で、父ちゃんを激怒させた悪友の呑もちゃんこと野本(国虎屋代表)氏と仲直りしましたので、ご報告させていただきます。
先週、梯子酒の三軒目で、父ちゃんに悪態をついて、(どうやらそれは自分のスタッフさんに向けての上から目線の悪態だったことがのちに目撃者によって判明)、切れた父ちゃんは、一風堂のどまんなかで、
「アディユー!」
と怒鳴ったのです。仏語には二種類の「さよなら」がありまして、「オルヴォア」と「アディユー」なんですが、後者は「二度と会わない永遠の別れの時」に使うのです。
べろべろに酔ったこの悪友は、「あ、ひとなりだったとはおもえへんかった」と周囲に漏らしていたそうですが、後の祭り。父ちゃんはぷんぷん怒って帰ってしまいました。
でも、ま、ぼくも酔っ払い相手にマジで喧嘩をするような小さな男ではないので、こちらから、呑もうか、と誘って、一週間ぶりに再会となったわけです。
もっとも、その前に、奥様から、「主人は猛省しておりますので、お疲れさまでした」という連絡も来ていたのだ。愛されておるね。笑。いつも、マジで、羨ましい。いじわるしたくなるのは、俺の10倍、人に好かれる男だからかもしれへんなあ~。なんで大阪弁?
「あ、あ、あの、その節は、た、たいへんに、失礼つかまつった。おぼえとらんって、マジで、呑んだ。呑んで、だれにむかって暴言はいてたか、あ、あ、あ、あ、わからんくて、あとで、しまった、と思って・・・すまん」
という謝罪から始まったのです。
「なんも、気にしてないよ。俺はそんなに小さな男じゃなか」
「あ、よかった、今日は俺が全部、驕る」
確かに、カフェにつくと、シャンパンが用意されていたのでありました。あはは。わかりやすい男であります。

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ

※ 前回、一風堂で大騒ぎになる直前のべろべろ野本氏。目は閉じているが、グラスは掴んでいて、「それでお前は何を立派なことをしたんか」とぼくを弄ってうるさかったわけです。

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ

※ シャンパンを一本ご馳走になり、「もう一軒行こう」と連れていかれている途中です。哀愁漂う、背中、撮っておきました。なんか、体調はいいらしいですが、心が人間関係で不調のようで、寂しい、と呟いていたので、こちらも、帰るに帰れず、同行・・・。

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ

※二軒目は、タパスでした。いい店をよく知っているパリのおやじ連合。



ということで、ぼくはたしかに怒りましたが、根には持たないタイプです。ほぼ、98%は許します。恨みを持って死んでもつまらないからです。ごめんね、と言われると、いいよ、といつも赦すんです。そうしてください、ぜひ、みなさんも。裏切られても、いつでも戻ってきていいよ、と言っちゃう人間ではあります。ま、恨みって、この世界で終わらせましょう。それが、よか、ですよ。

といういことで、野本は野本、別に、面白いから、怒ってやりましたが、そういう人生の起伏は時に大事ですね。

二軒目のスペインのタパス、カキフライとか、生ハムのコロッケが、美味しかった~。

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ



絶交から一週間、ついに仲直り、早っ

※ 目の前にでかいバターがあって、それを炭焼きのパンに塗って食べながら、もうすっかり、元通りの二人でした。

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ

「あのな、ひとなり」
「なんや」
「あんな、昔はな、こういう問題が起こると、相談出来る先輩がパリにはたくさんいたんやけど。でも、みんな死んだ。今、俺が、相談できるのは、ひとなり、だけや」
「そうか、たしかに、そうやね。俺らより、上はもう、相談しても、仕方ないし、下の連中には恥ずかしくて、言えんわな」
「おお」
こういう会話をしながら、ワインを一本、あけて、三軒目に向かうことになった、とです。あはは。呑むね。

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ

※ もうご満悦な、おやじ。でも、なんか、寂しい風情があって、いろいろと相談されましたが、
「お前が、悪い」
と友だちだから、言っときました。
「そうか」
「お前がずるい。ちゃんと相手に謝った方がええ」
父ちゃんあまり、人におせっかいはしないんですが、友だちですからね、はっきりと言ってやりました。ぼくを怒らせたことなどは、もう、どうでもいいんです。ぼくは強いから、いいけれど、人を悲しませるのはよくない。
あはは。
男はつらいよ、虎次郎でございますね。がんばれ、呑もちゃん。

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そして、3軒目は御存じ、一風堂に行きますが、ラーメンは食べないんです。
ここで、前回、ぼくが激怒したこともあり、入店した後、まずは、お店の責任者さんに、ごめんね、前回うるさくして、と謝りました。☜大人ですね。
角の席に陣取った二人、ラーメンは食べないんですな。メンマ、きくらげ、餃子、チャーシューなど、小皿を居酒屋風にずらりと並べて、呑みました。
ここでは、ハイボールを4杯。

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ

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そして、仲直りを記念して、4軒目の梯子酒は、イタリアンのバルです。ここでは、プロシュートハムをつまみながら、赤ワインを一本、あけましたよ。
バローロというけっこう、しっかりとしたワインで、最高でした。全部、野本のおごりです。あはは。ちなみに、いつもは僕が出すことが多いかな、? ま、半々ですね。

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ

もう、酔っぱらって、何を言っているかわかりません。呑み始めてから、6時間を超えています。やれやれ、困った人だ。
「俺は、あと20年、頑張って仕事したいんや」
「無理でしょ。君は毎日、この勢いで酒飲んで、朝から晩まで仕事、仕事、・・・。そりゃあ、後20年は無理やて」
「そうだな」
「長生きしたいとか?」
「いや」
「そやろ。短くても楽しい人生を生きよう。少し、仕事も減らして、のんびり、写真でも撮って暮らせよ」
「ああ、そうやな。俺なブラッサイ野本と呼ばれるような写真家目指してみるわ」
「それがええ。仕事ばかりじゃあかんて」
「ひとなり、ありがと」
あのですね、野本は実はカメラマンとしてフランスの写真展覧会で金賞をとったことがあるんです。能ある鷹は爪を隠す、というやつです。大好きな写真に戻ったらええよ、と言って、ぼくは三四郎の散歩があるので、先に店を出ました。
「お前が悪いんだから、ちゃんと、困らせた人には謝りなさいよ」
と最後に言い残しておきました。
店を出ると、夜の街、振り返ると、野本は背中を丸め、考え込んでおりました。おお、ブルースやな~。
彼なりに、大変な人生を航行中なのです。それはみんな一緒です。その背中に向けて、
「わが友よ、おやすみ」
と言い残した、酔いどれ父ちゃんでありました。明日、ノルマンディに戻りますね。えいえいおー。

絶交から一週間、ついに仲直り、早っ

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父ちゃんからのお知らせ。

3月7日までになりました。日動画廊でグループ展に参加中ですので、ぜひ!
電子書籍「海峡の光」
パリのオランピア劇場ライブ盤、各配信サイトで配信中。
3月11日に、文庫「父ちゃんの料理教室」大和書房。
3月18日に、エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」光文社。
8月5日から三越日本橋本店特選画廊A全面で「辻仁成展、鏡花水月」。
10月、パリ、アートフェア出展の予定
同時期、「24時間日仏仏文学イベント」。詳細、決まり次第お知らせします。
11月5日から22日まで、リヨンでの個展。会場の住所や、画廊連絡先については、また後日、ここで発表します。
同月、パリでの何かのイベント、予定・・・。
この頃、小説「泡」刊行予定。現在、校正作業中・・・。
他、予定多数・・・。あくまでも、予定ですが・・・。

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Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。