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パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」 Posted on 2026/03/07 Design Stories  

 
シャンゼリゼ通り、オペラ通り、サン・ジェルマン大通り……と、パリの道には、すべてに名前がついている。そして、その通り名を示しているのが、「plaques de rues(プラーク・ドゥ・リュ)」と呼ばれる青×緑のプレートだ。
 

パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」



 
一見すると、パリの通り名プレートは「どれも似ている」と思われるかもしれない。しかし、視線を上げてよく見ていると、プレート一つとってもさまざまなフォント・形式があることに気づく。
 

パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」

 
紙芝居の枠のようなかたち、ブルーとグリーンの背景に、真っ白な文字。目立つ存在ではないのだが、それでも通り名プレートは“緑色のベンチ”や“ウォレスの泉”と同じように、パリの風景に欠かせないディテールの一つになっている。
今回はそれらを探しに、パリ中心部をぐるりと巡ってみた。
 

パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」

※看板のようにポツンと立っていることも



 
街の景観にあまりに馴染んでいるせいか、普段はほぼ気にかけることがない通り名プレート。とはいえ、グーグルマップを見てもなお道に迷ったときなどは、この小さな表示に大いに助けられることがある。

文字のフォントは、大きく分けて2種類(セリフ体とArial)。カラーも形状も統一されてはいるものの、そうした違いを見ていると、「掲げられた時代が違うのだろうな」となんとなく想像がつく。
実際、パリ4区のシャルルマーニュ通りでは、同じ道に3種類のプレート表示があるのを発見した。
 

パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」

※シャルルマーニュ通り

 
写真のいちばん高いところにあるのは、19世紀に掲げられたプレート。そして、石壁に直接刻まれた長方形の枠は、それより以前のもの(この通りのかつての名称が彫られている)。さらに、もっとも低い位置に表示されているのが、近年の新しいモデルだ。装飾性は弱まり、より標準化されたデザインになっている。
 

パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」

※うっすらと見える石壁の刻み文字。昔のパリでは、通り名を“刻む”ことがスタンダードだった



 
こうした「通り名表記」がはじめて採用されたのは、1728年のことだった。プレートを掲げるように命じたのは、当時のパリの警視総監。しかし、かつてのプレートはブリキ製で、黄土色とブラックの色を使用しなればいけなかった、ということだ。
ここで「パリの通り名プレートがもし違う色だったら?」と、考えてみた。しかし、赤でも黄色でも紫でもないこのカラーだからこそ、落ち着いたパリの街なみに合っているのだと感じる。
どうやらこれには、当時の住民たちも猛反発したらしい。結局、パリ警察はブリキ板の代わりに石板(もしくは石壁)に通り名を刻むことを命じる。ナポレオンの時代になると、この制度がさらに広がることになった。※白文字+青地+緑枠のプレートで統一されたのはその後1844年から。
 

パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」

※ル・ルグラティエ通り。「昔はノートルダム島と呼ばれていた場所で、現在のサン=ルイ島にある通り」と説明文が書かれていることも

 
パリの通り名プレートについては、その「名前の由来」にもぜひ注目したい。というのも、そこで活躍した人、著名人、あるいはどんな商売が栄えていたか? などが名称としてよく使われているためだ。
 

パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」

※rue de la coutellerie(刃物屋通り)

 
たとえば、写真の「rue de la coutellerie」という通り。これは、「刃物屋(刃物職人)通り」という意味である。中世のパリから伝わる通り名で、職人の職業・業種が由来になっている。こうした名称は現在でも、そのまま使われていることが多い。

同じタイプだと、ほかに「rue de la poissonerie(魚屋通り)」や「rue de la cordonnerie(靴職人通り)」などがある。つまり昔の人々は、その通りに行けば、目当ての職人や店に出会えたというわけだ。通り名プレートは、そんな役割もあわせ持っている。
 



パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」

※Avenue Victoria

 
しかし最近では、通り名の名前ごと新しいものに変える作業がすすんでいる。パリの通り名にある歴史上の人物は、ほとんどが男性名に由来しているため、それを女性の名前に置き換えていこうとする動きだ。そのため現在では、女性の名前を冠した場所が2000年の6%から約15%(2025年)にまで増えている。
 

パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」

※通り名プレートとリンクする、レストランの壁画風メニュー

パリ・カルチャー情報「パリの通り名プレート、街に刻まれる小さな歴史」

 
このように、パリの通り名プレートは、単なる案内板を越えた存在だと思う。ちょっとした歴史資料でもあるこのプレート。小さいけれど、パリの風景になくてはならないものになっている。(こ)
 

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