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パリ・アート情報「彫刻家、ジャコメッティの気配を感じる、小さな美術館を訪れて」 Posted on 2026/04/21 Design Stories
スイスで生まれ、パリで活躍した彫刻家のアルベルト・ジャコメッティ。ロダンの弟子だったアントワーヌ・ブールデルに学び、「細長い人間」の作品を数多く残したアーティストだ。
ここパリでは、ロダン美術館、ブールデル美術館、そしてジャコメッティ美術館と、3世代にわたる彫刻家の美術館をめぐることができるのも素晴らしい。

※アルベルト・ジャコメッティ

※ジャコメッティ美術館の建物ファサード
パリ・モンパルナス地区にあるジャコメッティの美術館「ジャコメッティ・アンスティチュ(Giacometti Institute)」では、彼の制作空間が見事に再現されている。
なお、ジャコメッティが実際に暮らした邸宅は別の場所で、ここから徒歩圏内にあるとのこと。※そちらは非公開。
現在ある美術館は、20世紀初頭に建てられたアールデコ様式の邸宅を、ジャコメッティ財団が保存・修復し、2018年にオープンしたものだった。

※アールデコの装飾が美しい扉

※展示ホール。現在は企画展『Huma Bhabha / Alberto Giacometti』が開かれている
ジャコメッティは1926年から約40年間、モンパルナスの土地で暮らしたという。
ちなみに以前、ロダン美術館やブールデル美術館を訪れたときに感じたのは、それぞれの場所にただよう「圧倒的な存在感」であった。
ロダンの邸宅は、まるでシャトーのように気品があったし、ブールデルの邸宅は「アトリエ兼学校」のような、教育者としてのブールデルの強い性格が表れていた。
しかしジャコメッティ美術館は、先の二つとはまったく違う。時代背景が違うというのもあるが、師匠たちのアトリエよりも一番わたしたちに距離が近いのだ。

※再現されたジャコメッティの制作アトリエ

というのは、入ってすぐに現れる「ジャコメッティのアトリエ(再現したもの)」を目の当たりにしたから。彼の制作空間は、およそ20㎡・12畳しかない。ジャコメッティは、この狭いアトリエで寝て、彫って、描いてを繰り返し、生涯ここを手放さなかったという。「20世紀、もっとも成功した彫刻家の一人」と言われたにもかかわらずだ。


ジャコメッティの人生と創作は、決して単純明快ではなかった。が、彼の人間らしさと空間美の二つがうまく合わさったのが、ジャコメッティ美術館(Giacometti Institute)のいちばんの魅力かもしれない。廊下などは人の肩と触れ合うほど狭いものの、細部に現れるアールデコの装飾は、心を掴まれるほどに美しい。

※ジャコメッティ作『Annette』(アネット、ジャコメッティの妻)

※フーマ・バーバの作品
「細長い」彫刻にたどり着いたのは、40代半ば以降だったというジャコメッティ。館内にはそんな彫刻だけでなく、彼が描いたいくつかの絵も展示されている。幸せそうなアール・ヌーヴォーの植物模様と、緊張感ある絵画との対比がまたしても面白いところだ。これらは、ジャコメッティの没後、妻アネット・ジャコメッティが保管していた貴重なアーカイブや写真資料に基づいている。
なお、2026年2月6日から5月24日までは、アメリカ人アーティスト、フーマ・バーバの作品が、ジャコメッティ作品と向き合うかたちで展示されている。時代の異なるアーティスト同士を並べることで、来場者は一つの解釈に縛られずに、自由な視点で観ることができるという。

とはいえ、ジャコメッティ美術館は、他の邸宅美術館よりもかなり小さめ。1時間あれば十分に回れるため、体力的にもまったく辛くはない。1点1点とじっくり向き合いながら、ジャコメッティが愛した空間をぜひ楽しんでほしい。

実はパリでは、ジャコメッティの美術館が、今後もう一つ増えることになっている。アンヴァリッド駅旧駅舎と地下空間を活用した、新しいタイプの文化施設「ジャコメッティ美術館&スクール」の計画がすすんでいるのだ。当初は2026年の開業予定だったが、ジャコメッティ財団によれば、開業は2028年に延期される見込みなのだそう。
館内には、世界最大規模となるジャコメッティのコレクションが集結予定とのことで、今から完成が楽しみだ。(オ)


