欧州アート・カルチャー情報

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」 Posted on 2026/04/01 Design Stories  

 
アーティストたちが集まり、アパルトマンでともに暮らしながら制作を行う「芸術家コミューン」。パリでは、そうしたアトリエ兼住居の共同体が、歴史遺産に近いかたちで今も残されている。パリ15区、モンパルナス地区にある「La Ruche(ラ・リュシュ)」も、その一つだ。
花冷えのする3月28日、ここが特別に一般公開されるということで、胸を弾ませながら訪れてみた。
 

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

※La Rucheのエントランス

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

※広さは約5,000平方メートル



 
緑ゆたかな場所にあるLa Ruche。本棟には、エントランスに2体のカリアティード(女性の石像)が設置されていて、ここが単なる住まいではないことを語りかけてくるようだった。
そもそもLa Rucheは、フランスの彫刻家アルフレッド・ブーシェが1903年に設立した由緒ある芸術家コミューン。その目的はただ一つ、「若く貧しい芸術家の、最低限の生活を支えること」だった。アルフレッド・ブーシェといえば、女性彫刻家、カミーユ・クローデルの最初の師としても広く知られている人だ。
 

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

※カリアティード

 
「芸術の世界には、部外者など存在しない」
そんなブーシェの理念のもと、La Rucheは当初からさまざまな国のアーティストを受け入れてきたという。かつて暮らしたメンバーには、ザッキンやシャガール、モディリアーニといった巨匠たちの名前もあった。
当時のパリでは、国内外から多くのアーティストが集まったことで、モンマルトルやモンパルナスのアート界隈が一気に盛り上がったのだそう。彼らがここでどんな会話をしていたのか、どんな苦楽をともにしていたのか。あの時代を少しだけでも追体験できたら‥と思わずにはいられなかった。
 

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

※アーティストたちの住まい兼アトリエ。各部屋に日が当たる、ドーム状の設計

 
こうして歴史深いLa Rucheは、普段はそのほとんどが秘密のベールに包まれている。居住区を訪れることができるのは、年に1、2度の特別公開日か、9月のヨーロッパ文化遺産の日のみ。運良く予約ができた日には、ガイド付き(必須)で見学ツアーに参加することが可能だ。ガイドとはいっても、学芸員ではなく、実際にLa Rucheで暮らしている現役のアーティストが敷地の隅々まで案内してくれる。
 

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

※案内役のアーティストと参加者と



 
この日の案内によれば、かつてLa Rucheには、100人ほどの芸術家が暮らしていたという。ただ創設者ブーシェの死後は、建物が徐々に荒廃していった。のちにシャガールが発起人となって取り壊しを阻止するも、十分な資金を得られずに多くの作品が売却されてしまったそうだ。
しかし当時の文化大臣が介入したことで、土地の再開発をなんとか免れる。それから人々の支援を受けて修復がすすみ、今のような形になったということだった。
 

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

※本棟以外にも長屋タイプ、一軒家タイプがあった

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

 
現在、La Rucheに暮らすアーティストはおよそ40人。以前は「若いアーティストを支える」という方針だったが、今日では年齢に関係なく居住できるそう。実際に案内していただいたムッシュも、すでに5年ほどLa Rucheで制作を続けており、デッサンを専門とする現役のアーティストであった。
ほかにも、彫刻家、モザイク画家、作家、陶芸家、フォトグラファー、ファッションデザイナーといったさまざまな分野の作り手たちがともに暮らし、それぞれの制作を続けているという。
 

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」



パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

 
庭は広く、牧歌的ながらセンスにあふれていて、「ここに住めたらどんなに良いことか」と、アーティストでなくても思ってしまう。
とはいえ現在のLa Rucheは、希望者が誰でも住めるアパルトマンではない。入居には選考があって、むしろ現代では、すでに実績のあるアーティストが“長く制作を続ける場”として機能している。その間口は、決して広くない。

さらに、不動産市場とは異なる仕組みなので、賃料は一般のパリ相場より明確に安いという。幅はあるが、案内をしてくれたムッシュが払う額は1期で300ユーロ程度。これも文化財+支援モデルとして存在する、フランス流「芸術家コミューン」の特徴だ。La Rucheの中ではアーティスト同士で結婚する人も、更新を続けてここで生涯を終える人もいるらしい。
 

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

※アーティストたちの作品を展示したスペース

 
2017年からは入り口付近にアーティストたちの展示スペースが設けられ、インビテーションがあれば、一般の人々も訪れることができるようになった。居住区の公開は年に数回のみだが、こうした場に足を運ぶ体験は、美術館とはまた違った学びをもたらしてくれる。
今回は、アーティストがそのままでいられる空気に触れられたことが何よりも嬉しく、非常に心に残る訪問となった。(大)
 

パリ・アート情報「普段は入れない、パリの芸術家コミューン“La Ruche”を訪ねて」

自分流×帝京大学