欧州アート・カルチャー情報
パリ・カルチャー情報「パリに新オープン、香りとコスメの劇場ミュゼ “Théâtre du Parfum”」 Posted on 2026/05/14 Design Stories
2026年5月4日、パリのオペラ座近くに、小さな美術館がオープンした。とてもフランスらしい、香りとコスメの美術館「Théâtre du Parfum」だ。
日本語で「香りの劇場」を意味するこの場所は、19世紀末に建てられたパリの小劇場を改装してできたミュゼ。古代から現代にかけての香水・コスメティックの歴史を、興味深くたどっている。

Théâtre du Parfumは、オペラ・ガルニエから徒歩3分、オランピア劇場のほぼ真向かいのところにある。エントランスをくぐるとすぐに心躍る光景が広がっていて、香料となるバラやジャスミンの写真が、まるで本当の劇場ポスターのように掲げられていた。
ちなみにThéâtre du Parfumは、フランスの香水メゾン「Fragonard(フラゴナール)」の提供によるもの。ほかにも2つの香水美術館が同地区にあって、すべて入場無料というのが嬉しい。

※エントランス部分の写真パネル

※かつての劇場入口が現代風に
パリのオペラ地区は、古くから劇場街として有名だった。そんな場所に位置するこちらの劇場は、かつて「カプシーヌ劇場」と呼ばれていた。
カプシーヌ劇場の誕生は19世紀末。内部は非常に小ぶりで、席数も200席ほどしかない。そのため俳優・歌手との距離感が近く、紳士淑女の大人の遊び場のような存在だったという。1973年には閉館しているが、キャリア初期のセルジュ・ゲンスブールやバルバラも舞台に立っていたそうだ。

※深紅のベルベットがトレードマーク

※ステージ
面白いのは、演劇のためにあった舞台が、そのまま展示物のための舞台として再利用されていたこと。 ステージ、緞帳、真っ赤なカーペット、バルコニー席といった劇場の骨組みを残したまま、古代から現代までのコスメティックが展示されている。これは今までに見たことがない展示方法であったし、劇場と美術品との相性が実はとても良いという、新たな発見にもつながった。

※昔のチケット窓口も、事務室としてそのまま再利用

1階はブランドの香水ブティックになっているため、見学は2階からスタートする。2階ではまず、古代エジプトなどの香料・コスメティックがどんなものだったか? を紹介していた。続いて、17世紀ごろの「ポマンダー」と呼ばれる香り袋(銀製の容器に香料を入れたもの)が登場するなど、日本とはまったくもって異なる香りの歴史に、さらなる興味が掻きたてられる。なんでも中世のヨーロッパでは、悪臭こそが病気の原因と考えられていたため、人々は強い香りで身を守っていたそうだ。

※フランスやドイツのポマンダー 。香り=防御という認識があった時代を紹介

また、フランスの南部・グラースの花々(バラ、ジャスミン、ネロリなど)と、フランスの香水産業の発展についても詳しい紹介があった。一方で、18世紀以降の貴族の身だしなみに関する展示はとくに面白くて、香水瓶やかつらケース、そしてつけぼくろケース(!)まで、当時と現代の大きな美意識の違いを見つけることができた。

※中央が「つけぼくろ」ケース。ほくろはメッセージ性や視線誘導など、メイクの一つだったそう
Théâtre du Parfumは小さくて回りやすいため、時間にして30〜40分あれば十分だと思う。説明パネルはフランス語のみだが、コスメティックの歴史に興味がある方であれば雰囲気だけでもきっと楽しめる。19世紀〜20世紀の激動期を駆け抜けたカプシーヌ劇場に、直接足を運べるというのも素晴らしい。

※当時のヨーロッパでは赤が格式の色だった
香りの美術館なので、良い香りが館内中に漂っているのは当然といえば当然のことなのだが、今回はそれよりも目に入ってくる「深紅色」の方が、つよく印象に残ってしまった。シーンと静かで、ベルベットの生地ですら音を吸収している感覚になる。この「包まれる感じ」 が、他の美術館との違いをとくに際立たせているように感じた。
2026年オープンと最新のはずなのに、なぜか過去のパリに思いを馳せてしまう美術館。パリの再利用物件には、こうした歴史を尊重した場所が実はいくつもある。(オ)
【Théâtre du Parfum Fragonard】
住所:39 boulevard des Capucines, 75009 Paris
開館時間:月曜~土曜、9時~18時
入場無料、予約不要


