ノルマンディ、ツジ村便り

辻村相談窓口、「犬を飼うか悩んでいる」 Posted on 2026/04/06 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
パリに戻り、日常生活を取り戻しつつあります。ノルマンディに早く帰りたいのですが、大きな仕事があるので、あとちょっと頑張っています。
さんちゃんは元気でした。知り合いの超犬好きなムッシュの家族の家に居候していたんです。この子はみんなに愛されるから、本当に、楽でいいです。

さて、本日も「辻村相談窓口」を開きたいと思います。
匿名希望Gさん
「辻さん、こんにちは。毎日、デザインストーリーズを開くのが日課、というか、楽しみなんです。とくに、三四郎の話題が大好きです。三四郎との日常、憧れます。私たちは40代で、子供もいないので、実は、自分も犬を飼いたいと思っているのですが、辻さんも書かれていたように、生き物を飼うことの難しさを思うと、今一つ勇気が出ません。住んでいるところも狭いので、それも心配です。犬を飼うことが出来るかわからない私に何かアドバイスをください」

辻村相談窓口、「犬を飼うか悩んでいる」

おこたえしまーす。

「たしかに犬はかわいいですが、何度もここで書かせてもらっているように、育てるのと、かわいいは別のものかもしれません。犬には人間と同じく感情があります。飼い主の気持ちもわかってくれるだけに、こちらもある程度は対人間と同じように愛情をもって育てないとなりません。生半可には手を出してはいけないペットだとは思います。かわいいですが、人間の子供のように育てればいつか独立していく、ということもありません。学校にも行きません。話せるようにもなりません。ずっと犬は犬のまま、死ぬまで同じ犬なんだ、ということです。ただ、年月が犬とのあいだに、強い感情の絆を作ってくれます。人間はけっこう裏切りますが、犬は余計なことは言わないし、犬は離れることもありませんし、犬はそれでも寂しさを埋めてくれるかけがえのない存在であることは間違いないです。ぼくは、三四郎に自分の悩みを話すこともあります。「あの人に、騙されたかもしれないんだよ」と言うと、首を傾げて理解しようとしてくれます。他の犬もそうするかわかりませんが、三四郎は首を傾げ、ぼくが向き合おうとすると必死で理解しようという仕草をとってくれます。もっとも、言葉は通じないんですが、一生懸命、わかってくれようとするので、涙が出そうになることもありますよ。それに、よくため息もつきます。人間みたいなため息なので、ちょっとびっくりします。他の犬がどうかは分からないですが、三四郎は、嘆息をよくつく犬です。それから、食事の時間は毎日、18時と決まっていますが、その5分前くらいになると、そわそわしだし、ぼくの前にやってきて、見つめます。「なに?」と訊くと、目力を強めて、念力を送ってきます。「あ、ごめん、そうか、ご飯の時間だったね」と思い出すと、尻尾を振ります。とにかく、霊感で生きている感じなんです。テレパシーがあるかわかりませんが、思いを念力で送ってくるので、こちらもそれを見逃さないようにするのが大変です。ぼくが人に裏切られて落ち込んでいる時、三四郎はやって来て、ぼくにお尻をくっつけて、「よしよし」ポーズをとります。何も言いませんよ。ただ、お尻をくっつけて、座っているだけですが、その温もりに癒されます。なんて、かわいいのだろう、と思う一方で、やっぱり犬なので、外に連れ出すと野生が爆発して、言うこと聞かなくもなります。そもそも、外では歩きませんしね・・・。進む方向の反対を向くので、同じ場所をくるくると彷徨い続けることもあります。疲れさせられますが、それが犬だ、とこちらも理解してやることが出来ると、犬との暮らしも変わってきます。
あなたの質問におこたえしましょう。たとえばですが、一度、犬というものになれるため、親戚や友だちの犬を預かってみては、どうですか? 2,3日、一緒に暮らして、自分をテストしてみたらいいんじゃないでしょうか? 知り合いの犬を時々預かって、その子に慣れたら、次の段階に進めばいいと思います。
犬と人間は、フィフティフィフティの関係で、魂で、通じられるようになるとベストかもしれません。ぼくは三四郎から教えて貰ったことがたくさんあります。三四郎を通して、自分の未熟さを思い知ることも出来ました。あと、10年ちょっとは付き合いが続くと思うので、焦らず、のんびりと日々を楽しく、生きていけたら、と思っています」

辻村相談窓口、「犬を飼うか悩んでいる」

辻村相談窓口、「犬を飼うか悩んでいる」

「近況のようなもの」
とくに目新しい情報はありません!
新しい音楽活動がスタートしますが、辻仁成は引退をしたので、新しいライブのためのユニットを結成しました。言葉と音楽の融合を目指します。今年から、日本ではその名義で活躍しますが、もう少し、お待ちください。
文庫「父ちゃんの料理教室」が重版となり、新刊エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」も好評です。
8月5日から11日まで三越日本橋本店、特選画廊にて、個展。
集英社から9月4日発売小説「泡」。
10月22日頃、パリで、アートフェアに参加。
11月5日から、リヨンで個展。
11月、フランス人バンドのライブにゲスト出演の可能性、パリです。
TPAもスタートしています。

帝京×パリ・オンラインアートカレッジ

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辻仁成 Art Gallery

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