ノルマンディ、ツジ村便り
辻村相談窓口、「愛されたい」 Posted on 2026/04/09 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
ノルマンディに戻ってまいりました。
日本滞在は短かったのですが、短いとやはり、疲れますね。
心を落ち着かせるために、三四郎と海を見に行ってきましたよ。
しばらくは、浜辺を歩いて、夕陽でも眺め、英気を養いたい、と思います。
さて、相談窓口を開く時間です。
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匿名希望Oさん
「辻さんは、無理して人に好かれるような生き方をする必要はない、とよく書かれていますが、私は、敵を作りたくないし、出来ればみんなと仲良くしたいのです。八方美人と言われれば、それまでですが、多少我慢してもみんなに好かれることはそんなに悪いことなんでしょうか? 私は、無理はしていない、と思っていますが、時々、疲れるな、と思うことも確かにあります。今日は相談というより、辻さんは、どうやってそういう強い生き方が出来るのか、それは楽しいのか、最初から人を遠ざけているのか、いつから、そういう考え方になったのか、誰かを好きになった時はどうするのか、ちょっと聞き難いこともありますが、参考にさせてもらいたいので、よろしくお願いいたします。えいえいおー」

おこたえしまーす。
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「なるほど、これは答えにくい質問ですね。結論から言えば、みんなに愛されるのが一番ですが、みんなに愛されようと無理をすると、きつくなることもあるから、時には八方ふさがり美人になる場合もあるので、ぼくは別にそこまで好かれなくてもいい、というのがスタンス、というだけで、自然と、みんなに愛されている人は確かにいらっしゃるので、それは素晴らしいことだと思っています。ただ、自分にはそれが出来るキャパシティがないので、無理してみんなに好かれる必要はない、との結論に至っただけです。あなたは、そのままで苦しく、辛く、きつく、ないなら、最高じゃないですか、ぼくがこのことを口にしたのは、みんなに愛されようとして自分を殺している人へのアドバイスに過ぎません。
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ぼくは今回も日本で様々な人たちとお話をさせて頂き、みなさん、話をするからには、ある程度、懇意にさせて頂いている方々ばかりなんですが、あゝ、これ以上、自分に出来ることはないかもな、自分が辛くなるかもしれないから、ここらへんで身を引こうかな、と思うこともありましてね、率直に、相手にそのことを伝えたりもしました。仕事が関わる人間関係が圧倒的に多いので、「みんなに好かれる必要はない」というの話は、とくに仕事上のことだ、と思ってもらってもいいかもしれません。
自分に出来ることの限界を悟っているので、無理をしない、というのはそういうことで、相手の人のことを嫌いになりたくないからこそ、最近は、熱血もそこそこ、にしています。
実は、TPA(アートカレッジ)も去年の暮れぐらいに一度ばっさりと手を引いたんですよ。いろいろと人間関係がございまして。でも、やっぱり、言い出しっぺの自分がやらないとこれはダメになるという出来事が続きましてね、思い直して、校長を引き受けることになりましたが、多少の責任もあるから、軌道にのるまではとことんやらせて頂くつもりですが、初志貫徹のため、と決めて始めました。スタッフを信頼し、彼らに任せる手法で今は船出しました。この距離の取り方も大事かな、と思っています。
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仕事でメールとかラインとかよく使いますが、既読になっても返事が返ってこない人っていませんか? いくら待っても返事が戻ってこない時は、相手が悩んでいる時なので、同時に、その仕事の件がぶれている証拠ですから、そういう時はそっと離れるようにしています。なんとなく、相手の気持ちを察してあげる、ことも大事ですよね。深入りをすると、面倒くさいことが戻って来るので、離れる時は(縁がなかったと思って)思い切って離れたりします。「それが自分らしい生き方じゃん」と言い聞かせ、ぼくは前を向きます。プライベートでも、同じようなことはあります。つまり、野心とか欲望ばかりを優先する世界にぼくも片足を突っ込んでいるので、どこかできちんと線引きをしておく必要があるかな、と思っているからです。あなたがおっしゃるみんなというのがぼくにはわかりませんが、ぼくは友人が少ないので、みんなというのは仕事の知り合いも自然含んでしまいます。それでも、大した人数じゃないんですよ。笑。
実は、恋愛なんかも一緒ですね。恋愛よりも、今のぼくがとくに大事にしているのは家族と絆ですかね。無償の愛というものです。
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他人への愛は難しいです。まぁ、恋愛も一緒で、恋という字が付くようなものは疲れますから、笑、それにもうぼくはおじいちゃんですからね、孤高のおじいちゃん、誰にも愛されなくてもいいや、と思うと、面白いことに、逆に、広範囲の人に愛されたりもするんですよ。敵も多いが味方も多い、といいますからね。不思議ですね。あゝ、この人、本当にぼくのこと好きなんだな、と思う人には同質の感謝を持って接するようにしています。ぼくが言う、みんなに愛されようとしない、という言葉は、実は、そういう深い意味が隠されています。ないがしろにされているのに、無理して繋がっている必要はない、というだけ。だから、当然、めんどくさいやつだ、と思われがちですが、面倒くさいというのは自分を守っているからであって、とくに問題はありません。その分、気を使うことは一切ないですから。損得で繋がろうとしてくる人は、わかりますからね、そこまでひっくるめてみんなに愛されようとする必要はないというのが、ぼくの基本の生き方なんです。えいえいおー」




「近況のようなもの」
音楽グループを作ったので、辻仁成は引退しましたが、そのグループで少し活動をしようと思っています、歌っていると健康になれますしね。今年から、その名義で活躍しますが、現在、仲間と協議中。
文庫「父ちゃんの料理教室」が重版となり、新刊エッセイ集「キッチンとマルシェのあいだ」も好評です。
8月5日から11日まで三越日本橋本店、特選画廊にて、個展。
集英社から9月4日発売小説「泡」。タイトルがもしかすると変更になるかもしれません。
10月22日頃から三日間、パリで、アートフェアに参加予定。
11月5日から、リヨンで個展。
11月、フランス人バンドのライブにゲスト出演の可能性、パリです。この辺を網羅するツアーを熱血しげちゃんが、4月25日に、発表予定。
TPAも元気に、スタートしました。いい感じです。木曜日に第二回目の授業があります。校長は、来年度以降のグランドイメージを練っています。
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