欧州アート・カルチャー情報
パリ・カルチャー情報「パリ、地上階のデザインに目を向けてみると」 Posted on 2026/05/09 Design Stories
旅行では、歩く時間が一段と増える。歩いて街をまわるのはどの観光地でもそうだが、パリではそれが負担にならず、むしろ楽しく、はやる気持ちで続いていく。オスマン建築1階のデザインが、歩行者目線で素敵であることが大きいと思う。

商業ビル、というものがあまりないパリ中心部。代わりにあるのは、建物の地上階にひしめくカフェやブティック、ブーランジュリーやフローリストなどだ。2階以上には住宅とオフィスが入っているため、地上階よりもだいぶトーンが落ち着いている。
ということで、各カルチエの暮らしやすさは、地上階部分の活気によって測られることが多いのではないだろうか。うるさくないことが第一条件としても、パリ特有の店舗デザイン、看板やテラスの美しい外観は、歩いて眺めているだけでも楽しい。


その背景には、パリが「歩く都市」として設計されたことにあるそう。19世紀のオスマン県知事によるパリ大改造後、街は広い歩道、街路樹やベンチ、カフェ、ショップ等がセットとして置かれることになった。
パリのオスマン建築にいたっては、高さは最大6階建て。いちばん下の地上階(レ・ド・ショセ、日本でいう1階)には、必ずといって良いほど商店が入っていて、その上階(日本の2階)には以前、地上階にあるブティックのオーナーの住居、または在庫保管場所があったという。


地上階では、今でもその伝統が継承されていて、本当にさまざまなタイプの店舗を見ることができる。厳しい制約がある中でもショップごとの個性が光っていて、ひさしのカラーや看板・文字のデザインで、それぞれの工夫をこらしている。
パリに滞在していると、数ある店舗から一つや二つは「お気に入りのデザイン」を見つけてしまう。カフェに入るとしても、外観が素敵だから入ろう、とか、落ち着く雰囲気だから座ってみよう、と思うことが多々あって、デザインが大きな決め手になっていることは間違いない。


そこで見えるファサードの看板も、歩いていて気になるものの一つだ。これもまた、地上階店舗のトレードマークになっていて、高さとサイズにたしかな規則があるという。パリ市が「地上階の景観をかなり厳しく見ている」証拠でもある。
とはいえ、パリのもっとも魅力的なエリアでは、チェーン展開がすすみ均質化されてしまっているのが事実。逆に商業性が低いカルチエでは、空き店舗がどんどん増えているという現象も…。


それでも、地上階を活性化する試みは少しずつ増えている。たとえば、パリを拠点にした都市研究・協同組合である「Sens de la Ville」。こうした組合は今、地上階部分を「都市の共有財産」として捉え直そうとしているのだとか。
取り組みとしては、家賃を抑えたかたちで小規模な事業者・アーティストに場所を開いたり、地域の人々とシェアするショップを考えたり。地上階部分を、都市プログラムのまさに中心として考えているそうだ。

こうして見ると、パリの地上階は他の都市よりも、公共性が随分と高い。この街の統一性は“人々の努力の賜物”だとつくづく思うのだが、商店が立ち並ぶ地上階はとくに大事にされてきた箇所ではないだろうか。
パリ市の規則に反すれば罰金、そして刑事手続きの可能性…など、かなり厳しめのルールがあるものの、目に映る美しさには代えがたいものがある。それに実は、美しいだけでなく「入りやすい」「見やすい」「スタッフとのコミュニケーションが取りやすい」といった、物理的な快適さも備えている。
現在のパリに残るオスマン建築は、およそ60%。この数字からも、19世紀のパリ改造がいかに大規模だったかがうかがえる。同時に、「150年以上の建物がまだそれほど残っているのか」と、驚くべき数字でもあるのだ。(コ)


