PANORAMA STORIES
サンルイ島の貴婦人 Posted on 2026/08/22 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
そういえば、岸恵子さんがお亡くなりになったというニュースをネットで読みました。
今から何年前でしょうか?
フランスにおける日本大使をやっておられた斎藤大使に招かれ、日本大使公邸で当時のフランスの文化大臣と食事をするという会がありまして、こう書くと大事に感じますが、基本ぼくはパーティとかに顔を出しませんので、その時は、斎藤さんだったから、行ったというのはあります。震災の時に、日本のことをフランス国民に伝え続けた優しい大使でした。
それは、いつだったかなぁ、ぼくが50歳くらいの頃じゃなかったか、と記憶していますが、実は、そこに岸恵子さんが同席されたんです。
「わ、岸さんだ」
と思いました。ぼくの母の世代のスターで、フランス人の映画監督さんと結婚されていたので、もちろん、みなさんご存じでした。
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控え目ですが、あの通りの印象の方で、初対面でしたが、母よりも2歳も年上なのに、絵になる貴婦人でしたよ。
岸恵子さんがフランスのサンルイ島で暮らしているというのは、当時の在仏日本人ならだいたいみんな知っていました。岸さんと言えば、サンルイ島でして、あそこに行くと、なんとなく、岸さんが歩いていないか、気にしたものです。セーヌ川の中ほどに位置するサンルイ島は三四郎も大好きで、よく今も遊びに行きます。友だちもいます。
中ほどに、ベルティヨンという美味しいアイスクリーム屋さんがあるんですよ。
在仏日本人はとにかく、お隣のシテ島の警察で滞在許可証の更新をしないとなりませんでしたから、ぼくも警察で何時間も並び、疲れたら、そのついでに足をのばして、ベルティヨンのアイスを舐めたものです。笑。
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下の写真はサンルイ島の写真です。


話しがそれましたが、大使公邸でお会いした岸さんとは、何の話をしたのか、ちょっともう覚えてないんですが、でも、はっきりとした意見があり、穏やかで、気遣いもあって、居心地のいい時間を過ごすことが出来たのでした。
帰り際、持っていた本を渡したのです。「ダリア」という作家生活20周年を記念してだした本でした。文芸誌新潮で連載をした連作短編のような作品ですが、自分にとっては作家生活20年の節目に、精一杯書かせてもらった作品なのでした。
記憶が曖昧で、なぜ、「ダリア」を持っていたのか、よく覚えてないですし、どうして渡そうと思ったのか、それも、よく覚えてません。もしかしたら、岸さんが来ることを斎藤大使から聞かされて、サンルイ島の貴婦人がいらっしゃるなら、ここで渡さねば、と思って、あらかじめ用意していたのかもしれませんね。きっと、そうでしょう。サンルイ島の貴婦人ですからね・・・。
自分の作品の中では、どこに出しても恥ずかしくない、と思っているものの、数少ない、実に希少な一冊なんですが、だからこそ、岸さんにお渡ししたんでしょうね~。笑。
きっとぼくのことだから、そうだった、と思います。
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そしたら、翌月、なんと、岸さんからお手紙が事務所に届くことになるんです。
丁寧な少し長い文面で、書評のようでした。こういう作品をもっともっと書いてほしいです、と締めくくられていたんです。
ぼくはだいたい、誰かに褒められるということの少ない人間ですからね、・・・。
岸恵子さんに「こういうのをもっと書いてほしい」と言われたことは、大きな励みとなりました。
でも、「ダリア」のような作品はその後、生まれていません。
しかし、今年、春ごろに、この「ダリア」のスペインでの出版が決まったのです。小説というのは、実に気の長い仕事なんですよね。岸さんとお会いしてから、16年以上もの歳月が流れているんですから・・・。
岸さんと同じように思ってくださった方がスペインにもいた、ということで、出版化が決まったのだと思いますが、その時、ふと、「そう言えば」と、岸さんのことを思い出しました。まだ、書いてない・・・。
ああ、書かなきゃ、と思ったところだったのに、一昨日くらいに、岸さんの訃報をネットニュースで読みました。人のご縁というのは、不思議ですが、午後のひと時、大使公邸でのあのひと時の邂逅であったのに、今でも、深いところで大切に記憶されています。
岸恵子さんのご冥福を祈りたいと思います。

父ちゃんの独り言、&、近況のようなもの。
そうそう、思い出しましたが、「パリ情景、動かぬ時の扉」という画集の中に、「動かぬ時の扉」という小説が入っていますが、それがサンルイ島を舞台にした唯一の作品となります。なんで、あの画集を岸さんに送らなかったのか、そこですね、そのことすっかり忘れておりました。絵も、見て貰いたかったですが、人生というものはなかなか慌ただしく、そして、叶わないものです。
さて、本日、土曜日、日本時間の19時から、インスタのサブスク「となりのヒトナリ」開始します。ちょっと前に、20時から、と言っていたのですが、自分お昼ご飯を作りながら、おしゃべりをしたい、と思いつきまして、19時スタートにさせてください。笑。
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9月4日、新刊小説「泡」、集英社から発売となります。
10月22日から25日までパリ、コンコルド広場で行われるモダンアートフェアで6メートルの壁がぼくに用意されます。ぜひ、パリにお立ち寄りなされる皆さま、立ち寄ってください。時期が近づきましたら、簡単に中へと入れるQRコードをここにアップします。それがなくても入場は出来ます。ただ、手早く、関係者のように、すっと入れるらしいです。笑。
11月5日より、リヨンで、個展もします。

Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。



