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パリ最新情報「星の王子さま原画展、パリで初の開催へ」 Posted on 2022/03/22 Design Stories  

2月19日より、フランス初となる『星の王子さま』の原画展「À la rencontre du petit prince」がパリ装飾美術館にて開催されている。
星の王子さまは、聖書を除き世界で一番多くの言語に翻訳されたフランスの書籍である。
「大切なものは、目に見えない」をはじめとした数々の名言が登場し、メッセージ性を持った図書として初版から80年近く経った今でも愛され続けている。

作者のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリはイラストも担当しているのだが、彼が挿絵も描くに至った経緯はあまり知られていない。
パリ装飾美術館で開かれた原画展では、サン=テグジュペリの半生や、採用されなかった挿絵についても触れられており、星の王子さまの誕生秘話を深く掘り下げた内容となった。

パリ最新情報「星の王子さま原画展、パリで初の開催へ」



原画展の中盤までは、作者の出身地であるリヨンでの体験や、飛行士としてのキャリアが紹介されている。
実は、彼の母親はアマチュアの水彩画家だったそうだ。
サン=テグジュペリは母の影響を受け、幼少期から絵を描き始める。
会場では母に送ったイラスト入りの葉書や、飛行士時代に描いたデッサンも展示されており、彼が絵とともに人生を歩んでいたことが分かった。

パリ最新情報「星の王子さま原画展、パリで初の開催へ」

星の王子さまの冒頭では、主人公である「僕」が砂漠で王子さまと出会う描写がある。これは作者がサハラ砂漠に不時着した実体験に基づくもので、原画展でも遭難時の写真や当時の新聞記事が並んでいた。
サン=テグジュペリの他の著書も、飛行士としての経験が元になっている。
原画展では至るところに飛行機をかたどったライトが灯され、大空を愛した作家へのオマージュが捧げられていた。

パリ最新情報「星の王子さま原画展、パリで初の開催へ」



そしてメインは、公開されることのなかった星の王子さまの挿絵案であった。
なかには挿絵に沿った手稿も残されており、「もしこれらが本に採用されていたら世界観が変わっていたかもしれない」と、想像力を掻き立てるものが多く存在した。
例えば、王子さまが二番目に立ち寄った惑星の住人「自惚れ屋」がピエロのような描写であったり、主人公の僕が飛行機を直そうと、王子さま越しに修理道具を持っている描写であったり。
また王子さまに名言を残すキツネが、当初はカタツムリであったというデッサンもあり、なかなかに楽しい発見があった。

パリ最新情報「星の王子さま原画展、パリで初の開催へ」

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星の王子さまは子供に読ませたい本として有名だが、これらの挿絵案を見る限り、大人に向けられた風刺画でさえあるような気がした。
作中に登場する6人の大人たちも特徴的だ。
王様は権力を、自惚れ屋は人気を、実業家は財力を示しており、人々が人生で溺れがちな物事を象徴している。

しかし、一番心を打つのは王子さまが大切に育てた一輪のバラの描写ではないだろうか。
バラのモデルとなったのは、サン=テグジュペリの妻コンスエロであった。
原画展の最後ではコンスエロ作の風景画と自画像が展示されている。彼女も画家であったという。

王子さまは気位の高いバラと仲たがいをして星を出てしまうのだが、後に地球に咲いていた五千本の花よりも、自分とっては星に残した一輪のバラが大切であり、その花に対して責任があったことに気づく。
バラがかけがえのないものとなったのは、王子さまが彼女に費やした時間があったからだ。
サン=テグジュペリの飛行士らしい、物事を俯瞰した視点が挿絵案から伝わってきた。

パリ最新情報「星の王子さま原画展、パリで初の開催へ」



星の王子さまは、作者の亡命先であるアメリカで執筆された。
第2次世界大戦のさなか、飢えと寒さに苦しんでいたユダヤ系の友人を思って書かれたものであったという。今この本を読み返してみると、心に響くものがたくさんある。(内)



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