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パリ・カルチャー情報「セーヌ川のほとりに、38棟の小さな家。水上シャレーを訪ねて」 Posted on 2026/10/24 Design Stories
セーヌ川に浮かぶ「船の家」、これを見たことがあるという人は多いと思う。パリ周辺では、レストランやバーとしても使われている。これは平底船を住居用に改装したもので、不動産でも紹介されるほど、フランスの川沿いの地域ではメジャーなものだ。
しかしパリ郊外には、船ではない「水上のシャレー(小屋)」も存在している。

※船とはまた趣の異なる水上のシャレー

※こちらがセーヌ川に浮かぶ船の家
パリから電車で西に行くこと約45分、カリエール・スー・ポワシー(Carrières-sous-Poissy)の人工池“ラ・ガリオット池”に浮かんでいて、フランスではとても珍しい存在だという。10月第三週の週末に開催された、「全国建築デー」に合わせて特別に内部が公開されたので、実際に訪れてみた。


水面に浮かぶ、可愛らしい木製の小屋。まるでカナダのような光景だが、パリからそう遠くないところにこんな場所があるとは思ってもみなかった。この池は、もともとは採掘跡地にできた人工池だそうで、1950〜60年代ごろから釣り人たちが“休憩場所”として小屋を建てたことが始まりなのだそう。やがて彼らの家族も訪れるようになり、テラスやキッチン、太陽光パネルなどが加わって、滞在するための空間へと変化したのだという。

※快適な屋内

※テラス席にはここで釣れる魚の種類が貼ってあった
唯一、バスルームが存在しなかったので、泊まるには少々不便かもしれない。ただそれ以外は十分すぎるほどの設備で、暖炉もあって、冬場でもほとんど問題なさそうだ。逆に春夏はテラス席の居心地がとてもよさそうで、これは川や湖といった水辺ならではの特権だと感じた。

※本格的な暖炉も

※気持ち良さそうなテラス席
さらに小屋は、建築家が設計したわけではなく、住民らが自分たちの手で作り上げたものだそう。小屋そのものは住民が所有(土地は貸借)していて、彼らが組合を組織し、いろいろな問題への対応を行ってきたらしい。
水上シャレーの建築方式はというと、意外とシンプルだった。まず、いかだ状の基礎部分をつくる→壁の骨組みを組み立てる→屋根を取り付ける→断熱材を入れて完成。しかもプロではなく、すべて自分たちの手作業で、ということだった。

※ドラム缶を浮体として利用

また、「インフラから独立した暮らし」というのも興味深い。小屋では太陽光発電や蓄電池、水タンクやガスボンベなどを使っていて、公共のネットワークはまったく使用していない。こうして数十年をかけて、約38棟の個性的な建築群ができあがったのだ。
ところが、水上シャレーはいま、大きな問題を抱えている。
県は自然環境の保全などを理由に、シャレーの撤去をすすめる方針だという。一方で住民たちは、自分たちで作り上げた建築と、ここにしかない水辺の風景を残そうと活動を続けている。池周辺の生物多様性を守るか、それとも地域ならではの建築文化として残すか。争点はそこにあるそうだ。

※同じ設計の小屋は一つもなく、それぞれに個性があった

※池は白鳥やガチョウの繁殖場所でもあるそう
これまで訪れてきたのは保護された文化遺産だったが、今回は「失われるかもしれないもの」を目の前にしている実感があり、非常に貴重な機会となった。
しかも、ラ・ガリオット池のまわりは、遊歩道としてかなり綺麗に整備されている。通常は小屋の中までは入れないものの、自然に恵まれた美しいところで、散策するにはこの上ない場所だ。
パリのセーヌ川沿いで見かける平底船は、船を利用した水上生活。しかしこちらに並ぶのは、手作りの水上シャレー。同じ水辺の住まいでも、船を住居にする文化と、水面に家を築く文化では、成り立ちや空気感がまったく異なることが分かった。(こ)


