欧州最新情報

欧州最新情報「どうなる? ドイツの混乱する大学入学資格試験」 Posted on 2021/04/10 Design Stories  

誰もがコロナ禍によって辛い思いをしている現状だが、若い学生達、特に今年大学入学資格試験(Abitur)を控えている学生にとってはかなり厳しい状況にあるのは間違いないだろう。

Abiturというのはドイツで日本の高校に該当するギムナジウム卒業時に受ける試験で、このAbiturに合格し資格を取得すると大学に入って学ぶことが出来る。そして、Abiturの成績次第でどの大学のどの学部に行けるのかが決まるので、学生にとってはその後の一生を左右すると言ってもいいほどの重要な試験である。ランキングの高い大学の人気のある学部に行きたいと思ったならば、Abiturでかなりの高得点を取らなくてはならないし、Abiturの結果を含めたギムナジウムの卒業成績は就職活動の履歴書にも記載される。



そんな重要な試験であるにも関わらず、ドイツ最大の教員組合である教育学術労働組合(Die Gewerkschaft Erziehung und Wissenschaft : GEW)が、今年のAbiturをコロナのため必要に応じて中止するよう求めているというニュースが流れてきたのは4月6日のこと。Abiturを中止する代替案として、学校での平均の成績を使うことが提案されたとのことだが、この提案はかなりの批判を受けた。そもそも授業そのものが去年の春からほとんどまともに行われていないというのに、どの平均の成績を使うというのだろうか。Abiturに向けて長い間準備してきている学生たちにとって、このような提案は到底受け入れられるようなものではないだろう。

欧州最新情報「どうなる? ドイツの混乱する大学入学資格試験」

その後、ドイツの教師協会(Deutscher Lehrerverband)がGEWの提案を拒否。彼ら曰く、昨年2020年度のAbiturにおいてもGEWは最終試験の中止を要求したが、これは連邦州によって却下されたし、すでにコロナ禍が始まっており感染者数においても現在と大差ない状況であったにも関わらず2020年度のAbiturは問題なく実施されたとのことだった。

結局この問題は、4月8日に行われた連邦各州の文部大臣達による会議(Kultusministerkonferenz :KMK)でAbiturは実施されると決定されたことで一応の決着をみた。同会議後には、コロナ禍のこの困難な時期においても、教育政策は子供と若者が教育を受けられることを保証する責任があり、そのためにはできるだけ多くの教室での授業を提供することが共通の目標である、学校の授業についても可能な限り実施する、との声明が発表されたが、各州によってどのように授業を行うか対応が異なり、全国で統一された措置が取られることはないため、地域間でも格差が生じることになるだろう。

欧州最新情報「どうなる? ドイツの混乱する大学入学資格試験」



ギムナジウムの学生達の学校での対面による授業は、去年から激減している。学校によって異なるが、対面授業の代わりにオンラインによる授業が行われるか、クラスを2グループに分け、交代で登校して授業を受けている。オンラインで授業を受けるといっても、家で自分だけが使えるパソコンがない、もしくは授業を受けられるようなネット環境が自宅にない、という学生もいる。減った授業分は自分で補わなくてはならないが、親がドイツ語をほとんど話せないという家庭もあり、家で誰も助けてくれる人がいないという学生もいるだろう。コロナ禍で貧富の差がさらに拡大していると言われているが、教育においても格差が広がっているのは間違いない。そしてこの教育格差がさらなる貧富の差を生んでいくという悪循環が続くのだろう。

コロナ禍がいつ収束するのかは全くもって不透明だが、未来を担う子供や若い学生達には少しでも希望を持って過ごしてもらいたい。(マ)

欧州最新情報「どうなる? ドイツの混乱する大学入学資格試験」

地球カレッジ
自分流×帝京大学