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ロンドン最新情報「無限の宇宙。草間彌生の大宇宙とチューイング・ガム・マンの小宇宙」 Posted on 2022/04/06 Design Stories  

テートモダン美術館で開催されている草間彌生の「Infinity Mirror Rooms (無限の鏡の間)」展が2023年6月3日まで延長されることになった。
無限に反復し増殖する視覚的な幻覚を体験することができる。超人気展のためチケットは入手困難だ。

昨年11月にオンラインで追加チケットが販売された時、アクセスした段階で7万人が順番を待っていて、7時間後にようやくチケットを購入することができた。今後も追加でチケットが販売されるので、美術館サイトからメールアドレスを登録しておくと、発売日を知らせてくれる。
発売開始と同時にアクセスしないと、売り切れとなるのでご注意を。

ロンドン最新情報「無限の宇宙。草間彌生の大宇宙とチューイング・ガム・マンの小宇宙」

地球カレッジ

今回の展示は2つの「ミラー・ルームズ」のインスタレーションから構成されている。

1つ目は、2012年に同美術館で開催された「草間彌生回顧展」のために制作された「 Infinity Mirrored Room – Filled with the Brilliance of Life (無限の鏡の間―生命の輝きに満ちて)」。草間氏の作品の中で最も大きなインスタレーションだ。部屋に案内されると、反射する水面の歩道を歩き進む。心臓の鼓動のように脈打つ小さな光が、鏡や水面に反射し無限に繰り返される。

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Infinity Mirrored Room
– Filled with the Brilliance of Life
2011/2017
Mirrored glass, wood, aluminium, plastic, ceramic and LEDs
Tate. Presented by the artist, Ota Fine Arts and Victoria Miro 2015, accessioned 2019

2つ目は、回転するスワロフスキー・クリスタルのシャンデリアが鏡に反射され無限に広がる「Chandelier of Grief (悲しみのシャンデリア)」。
その美しさにアッとされるが同時に、無我の状態から悲しい感情が湧いてくる。部屋に入った時点で、草間彌生の「自己消滅」の作品の一部となっているのに観客は気づいているだろうか。

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Chandelier of Grief 2016/2018
Chandelier, steel, aluminium, mirrored glass, acrylic, motor, plastic and LEDs
Tate. Presented by a private collector, New York 2019

1990年代に美術学生であった頃、草間彌生氏のレクチャーに行ったことがある。今でも覚えていることは、草間氏が聴衆に尋ねたことだ。

「アートを創造することは楽しいと思いますか?」

何人かが手を上げた。__会場は静まり返った。
彼女は「私は創造するということは、飛行機が着陸しそうでしないような不安定な状態にいること」と言った。
おそらく我々の中には、アート活動は楽しい活動と信じているところがある。アーティストは自己を表現する、新しいものを生み出す、ギャラリーや美術館で展覧会を開催するなどクリエイティブで洗練された人たちというイメージがある。
一方で、極貧生活、差別や批判に耐え、健康を病み、長年、制作を続けるは厳しい現実だ。草間氏は自身の精神病と共存し、苦しみを乗り越えて、制作活動を続けてきた。
93歳のアーティストは一見、穏やかに見える。そして今の方が断然、輝いて見える。

なぜ草間彌生は時代を超えて、国を超えて、様々な人に受け入れられ、共感されるのであろうか。
もし彼女に1つだけ質問することができたら、「一番好きな、思い入れのある作品はどれですか? それはどうしてですか?」と、尋ねてみたい。

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Portrait of Yayoi Kusama in New York, circa 1964
Photo by Eikoh Hosoe



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ミレニアム橋とセント・ポール大聖堂

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ミレニアム橋の向こうにテートモダン美術館


余談になるが、セント・ポール大寺院からテートモダン美術館に向かう際、歩行者専用のミレニアム橋を渡る。
ミレニアム橋からはロンドン橋、シャードなどのユニークな建築群、テムズ川には公共水上バス、貨物船、ウーバーボートが行き交う様子がうかがえる。
テムズ側を挟んで元火力発電所のレンガ建築のテートモダン美術館とドーム型のセント・ポール大寺院の全体を眺める絶好のスポットでもある。
そして、すごくラッキーであれば、「チューイング・ガム・マン」に出会えるかもしれない。
カラフルな絵の具で覆われていて、地面に横たわっている人物を見かけたら、それが彼だ。

ロンドン最新情報「無限の宇宙。草間彌生の大宇宙とチューイング・ガム・マンの小宇宙」

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子供と一緒に近づいてみると、彼は何かを描いている。ミレニアム橋の路面に、無限の、いや、400個以上に及ぶ手描きのアートがあちこちにあるではないか。路面に散らばる小宇宙を子供達は見逃さない。目線が大人よりずっと低いからだろう、あちこちに描かれている絵を次々と発見していった。これらの絵は、ここに横たわっている、ベン・ウィルソン氏が1つ1つ、踏みつけられたチューイングガムの上に描いているものなのだ。

世界各国に1万個以上の絵をチューイングガムの上に描いてきたという。大きさは数センチ。一個の絵に2時間から3日かかるそうだ。
ウィルソン氏がその日に取り組んでいたのは、修復だった。富士山と津波の絵柄で、津波(Tsunami)のスペルを調べていた。

草間彌生が個を水玉とし、水玉を増殖させ、体や自然を消滅させることによって無限の「大宇宙」を表現しているとすれば、ウィルソン氏は現実の水玉(チューイング・ガムに描かれた絵)「小宇宙」の無限の可能性を示唆しているのだ。(ユ)

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