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滞仏日記「サイバー攻撃をうけて大慌ての父ちゃん。出動、チャーリーズエンジェル!」 Posted on 2021/09/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は、大変な一日であった。
起きたら、いっぱい、ラインのメッセージが入っていて、覗いたら、パリのスタッフさんからだった。
「デザインストーリーズにアクセスできません」
と書かれているので、慌てて、起きて、パソコン開いたら、フォーッビドン! 
東京スタッフから、え? 何の話しですか、という返事だったが、英国やスペイン、イタリア、ドイツなどのライターさんに連絡をすると、サイトが見れない、というのである。何かが、起きている、フォーーービッドーーン!

滞仏日記「サイバー攻撃をうけて大慌ての父ちゃん。出動、チャーリーズエンジェル!」



そこで、デザインストーリーズ・サイトの運営管理会社「バロッコ」の石橋チャーリー氏に電話をかけた、出たとたん、お騒がせしております、という返事。
状況を分かっているような口ぶりであった。
「何があったんですか?」
「それが、海外からサイバー攻撃を受けています」
「ええええ? バロッコが?」
「いいえ、デザインストーリーズが、です」
「ええええええええええ? うちが? 何もしてないですよ。マジですか? そんな悪いことしてないし、外国を批判したことも一切ないのにー」
「そういうの、関係ないんです。読まれているサイトを順番に攻撃するんですよ」

サーバー攻撃って、日本政府とか、金融機関とか、防衛庁とか、フランスだと最近、マクロン大統領(も先月、彼の携帯が攻撃された)とか、そういう凄いところが狙われるものだと思っていたので、まさか、こんな弱小サイトなんかに、いじめか・・・。
「日本側はまったく問題ないので、ご安心ください。ただ、海外からアクセスできないように、現在、こちらで対応し、海外の方が一時的に閲覧できないよう、制限をかけています。同時に、回復作業を行っております」
衝撃の朝であった。ひとなり、しゅん・・・



しかし、心強い石橋チャーリーのことを、改めて、見直したのだった。
一度、間違えて「チャーリー石橋」とスタッフ欄に掲載したら、速攻で文句がきて、「関西では、チャーリーと言えば、チャーリー浜さんなんです。ぼくは石橋チャーリーなんです」とわけのわからない注文を受けた。

ぼくらの出会いは、西麻布のバルのカウンターなのである。
ぼくの斜め横で、一人、猫背で、呑んでる若いおっさんがいて、へらへら笑顔のナイスガイなので、なんとなく、目が合って、仲良くなった。
目が合うって、その、気持ち悪い感じではないです。なんとなく、オス同士の出会いとはそんなもの。えへへ・・・。
ぼくは日記でもいろいろと書いた通り、友達や仕事仲間はみんなバーで知り合っている。
サヨナライツカの表紙を手掛けるデザイナーの新妻さんとは西荻のワインバーで知り合った。出版社のYさんとか、映画業界のLさんとか・・・、みんなバー。
わきが甘いので飲んだ勢いで仲良くなり、そのまま仕事をしている人が多い。
飲むと、その人の本性が出るので、悪い飲み方をしている人には近づかない。持論。
「何やってるの?」
「あ、一応、ウェブデザインとかウェブの管理運営などやってます」
「へー、名前聞いていいすか? ぼくは辻です」
「あ、自分はチャーリーです」
「チャーリー?」
変な奴だな、と思ったけど、折り目正しいのが、気に入った。
べろべろに酔っているのに、暴言をはかないし、悪口とか余計なことを言わない。
なので、信用できるな、と思って、その場でラインを交換した。
2016年、3月のことである。
「実は、ぼく、これから自分の文学のプラットホームを作りたいと思ってるんだ。小説が売れないとか言って出版社が継続的に文学を応援しなくなったので、だったら自分でプラットホームを作った方がいいな、と思ってね。いつか、仲間の物書きたちもそこに集結させたい。今は、賛同してくれる人もいないから、自費で、やりたいんだけど、つまり、お金ないんだけど、力貸してくれないかなって、相談なんだけど、どう???」
「かしこまりました」
たぶん、それが、最初の、かしこまりました、であった。



この人はいつも、かしこまりました、と折り目正しいことを言うのだけど、実は、元ボクサーなのである。
しかも、阪大医学部を出ていて、現在、阪大ボクシング部の監督さんである。凄い。
「阪大医学部って、東大、東京医科歯科大につぐ、入るのが難しい、あの有名医学部ってこと?」
チャーリーは照れていた。
「ほんとに、そこ出てるの? なんで医者にならなかったの?」
「いや、ぼくは医者を目指すコースじゃなかったんです」
そんなコースがあるの? どんなコースなのか気になったけど、聞けなかった。
「じゃあ、阪大のボクシング部って、有名な選手とか、いるの?」
「いません」←、きっぱりと言い張った。
「じゃあ、チャーリーは強いの?」
「はい」←きっぱりと言い張った。
実は、このやり取りの直後、ぼくらは大阪でもう一度会う約束をしたのだけど、朝起きたら、ぎっくり腰になり、申し訳ないですが、行けなくなりました、とキャンセルされたのだ。
「すいません。昔から、腰が弱いんです」
「マジか?」
昔から、腰の弱い人がボクシングって、どうなんだろう、と思ったけど、反論はしなかった。
しかも、阪大医学部だし、自分の腰事情くらいわかるだろう・・・。
しかし、面構えは強そうだ。時々、ファイティング・ポーズをとるけど、様になっている。
「チャーリーは強いの?」
笑っている・・・。かなり、強かった、と誰かが言っていた。この顔だものね。

滞仏日記「サイバー攻撃をうけて大慌ての父ちゃん。出動、チャーリーズエンジェル!」



話しは戻るけど、今日、サイバー攻撃を受けた直後、チャーリーは超珍しく機敏に動いていた。
ボクサーのように、蝶のように舞い、蜂のように刺す、感じ・・・。
普段はへらへら、ナイスガイなのである。
「とにかく、すぐに回復させて、読者の皆さんを安心させてください」
「かしこまりました」
「あと、どこからの攻撃か、どこからの侵入か、詳しい状況もすぐに報告ください」
「かしこまりました」
「二度とこういう事態にならないように対策もまとめてください」
「かしこまりました」
実はバロッコには優秀な社員さんがいて、その若い社員さんたちが実際はコントロールしている。
だから、ぼくは一応トップのチャーリーとやりとりをしているけど、現場のスタッフさん同士で、ちゃんと解決への道筋はできているのである。
チャーリーの優秀な部下の人たちを、ぼくは陰で、チャーリーズ・エンジェル、と呼んでいる!!!
おお、チャーリーズ・エンジェル!!!



でも、はじめてのサイバー攻撃だったので、チャーリーとちゃんと話をしておいた方がいいだろう、と思った。
そういうことは大事である。
管理運営を任せているけど、こうやって話しをするのは久しぶりだったから、ここで久々、チャーリーの本気度を確認しておきたかった。((´∀`))ケラケラ
でも、この人間関係は、すべては、西麻布のバルで隣同士になったことがきっかけであった。
子煩悩で、その時も、お子さんの写真を見せられた。
子供の運動会とかに付きっ切りで、いいパパさんなのである。
「辻さん、仕事より、子育ての方が大事なので、ぼくは東京本社は社員にまかせ、大阪にいるんです」
言い張った。よく、言い張る男だ。
でも、たまに、西麻布の隅っこで飲んだくれている。ぼくも一人で、チャーリーも一人で、そうだ、思い出した。息子談義に花を咲かせたのだった。
ぼくが、息子は可愛い。あの子のために生きたい、と酔って吐露したら、
「わかります。お父さん、頑張ってください」
と言ってくれたのが、阪大ボクシング監督の石橋チャーリーだった。
そして、小さなお子さんの写真を見せられた。
この人はいい仕事をするはずだ、と思った。人を裏切らない人だと思った瞬間であった。
「ぼくはウェブとか全く素人なんですよ。力貸してください」
「かしこまりました」
「多くの読者さんに愛される日本の父ちゃんのサイトにしたいです」
「かしこまりました」
「いいなぁ、その返事、もう一度お願いします」
「かしこまりましたぁ」
つい、先ほど、サイトはなんとか復旧し、再び海外からも閲覧できるようになった。どうも、外国語の大量アクセスがあった、ということだった。それは、この世界では、よく、あるものらしい。AIが勝手にやってるみたいな・・・。
「完全復旧しています。被害もありません。そもそも、デザインストーリーズ自体に個人情報はないので、大丈夫です。地球カレッジは運営が別の会社さんですから、全く関係ないですし。新しい気持ちで頑張ってください」
「おお、ありがとう。チャーリー」
こういう小さなウェブサイトでも心優しい人たちが縁の下の力持ちで、こうやって、支えてくれているのである。
がんばろう、チャーリーズ軍団!
「かしこまりましたー」

滞仏日記「サイバー攻撃をうけて大慌ての父ちゃん。出動、チャーリーズエンジェル!」

追伸。 この右側がチャーリーだけど、腰の引け方が若干気になる。チャーリー、あんまり、無理すんなよー。



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