JINSEI STORIES

滞仏日記「檻を嫌がる三四郎、仕方なく父ちゃんが檻に入ることになる」 Posted on 2022/01/30 辻 仁成 作家 パリ

滞仏日記「檻を嫌がる三四郎、仕方なく父ちゃんが檻に入ることになる」

某月某日、ぼくの寝室の扉がバカになっていて、閉めても、三四郎が軽く体当たりすると呆気なく開いてしまい、別々で寝たいのに、夜中であろうと勝手に入ってきて、ベッドによじ登ろうとするのだから、困った。
「いや、こら、待て、ここは父ちゃんのベッドだ、お前はあっち!!!」
とぼくが指さす方角に三四郎のハウス(サークル、ケージ)が見える。
『くううううーん・・(パパさん、ハウスって言っても、あれ、檻じゃないですか)』
と三四郎の抗議する声が聞こえてきた気がした。
確かに、ハウスとかサークルとかケージとかいうけど、檻だなぁ、と思った。
『パパさん、自分だったら、嫌でしょう?』
犬はそんなこと言わないのだが、三四郎は、入れると吠える。
いつかは鳴きやむかと思ってほったらかしていたのだけど、一向に鳴きやまないので、父ちゃん、根負けして、ハウスの扉は開けっ放しになった。ダメな飼い主なり。
ちょっと、話を進める前に読者の皆さんに辻家の間取り図をご紹介したい。これを頭に入れて頂くと「滞仏日記」がより面白くなるのであーる。笑。

滞仏日記「檻を嫌がる三四郎、仕方なく父ちゃんが檻に入ることになる」



もともと、三四郎の部屋は5つの部屋に囲まれていた辻家の玄関であった。
最初は父ちゃんの仕事場(机のある部屋)にハウスを置いたのだけど、あまりに狭いので、閉じ込めたらぎゃんぎゃん泣きわめいて、こりゃ、ダメだということになり、玄関へとハウスを移動し、玄関全体を三四郎の部屋と名付けた。
ところが、広い部屋に慣れた三四郎は、ハウスには入りたがらない。
とりあえず、食事だけはハウス内で食べる習慣をつけたが、彼はそこを食堂くらいに思っている。
そこで過ごすことはほぼなくて、部屋の中に置かれた三つのマットの上か、最近は父ちゃんのロッキングチェアを奪って、いい気になっている。
で、話しは戻るが、この玄関のドアを含めて6つあるドアのうち、ちゃんと閉まらないのが父ちゃんの寝室の扉なのであーる。
体当たりまでいかないまでも、すぐに空いてしまうので、鍵をかけて、寝ていたが、今度は鍵をかけると、前脚でドアをノックし続ける。
いつかは諦めるだろうと思っていたが、ぜんぜん、諦めない。
しかも、最後は、くうー--ん、と騒ぎ始める。(さすがに夜中は吠えない。そこは素晴らしい)
しかし、下の階のムッシュは、弁護士さんで、前に「ちょっとギターの音がうるさいですよ」と微笑みながら抗議しにきた人で、全然、いい人なのだけど、迷惑はかけられない。
とにかく古いアパルトマンなので、壁がめっちゃ薄いので犬の鳴き声は聞こえているはずだ。
そこで一計を案じ、ぼくが檻の中に入ればいいんじゃないか、ということを思いついた。

滞仏日記「檻を嫌がる三四郎、仕方なく父ちゃんが檻に入ることになる」

※ この椅子、三四郎が爪で引っ掻くし、なんかこぼすは、で、ぼろぼろに。でも、彼はこの椅子の上で寝転がるのが大好きなのであーる。今では「三四郎のベッド」と化している。



どういうことかというと、ぼくの部屋と三四郎の部屋の間に、大きめの柵をつけて、ドアを開けて寝れば(遮断された感じがしないはずで)、つまり三四郎は安心をし自分の部屋で寝てくれるのじゃないか、と思ったのであーる。
そこで、ネットで注文をしていたら、今朝、ピンポンが鳴った。
「あまぞーん」
はや、もう来た。
これが思ってた以上に頑丈で、3メートルも幅があり、自由に、5か所くらい折り曲げられる仕組み・・・。
しかも、真ん中にドアがついていて、そこから人間は出入りできるのであーる。
そこで、喜び勇んで、設置した。
三四郎も楽しそうにぼくの横で作業を見ている。
ふふふ、何も気づいてない愚か者め、と思いながら、父ちゃんは鼻歌交じり~。
設置したら、相当に大きくて、隣の仕事部屋のドアまでカバーすることが可能であった。
ということは、ぼくは柵を出ないで、隣の仕事部屋に入り、そこからサロンへ、サロンから食堂へ、食堂からトイレやキッチンやお風呂に行けるのであーる。
夜中、トイレに行きたくても鍵を開ける度に大きな音がして三四郎を起こしてしまう。
すると、その後が悲惨なことになる。ぼくは夜尿症気味なのに、毎晩、おしっこを我慢するのが辛かった。
これはさすがに身体に悪い。夜中、一回くらいはトイレに立ちたいものである。
ところが、この柵のおかげで、扉を開けっぱなしで寝ることが出来るじゃないか!
(犬は気づくとは思うが・・・)トイレに行くことが出来るじゃないか!

滞仏日記「檻を嫌がる三四郎、仕方なく父ちゃんが檻に入ることになる」



それと、三四郎は一応、獣なので、犬臭がうっすら・・・。
この匂いで眩暈を覚える神経質な父ちゃんなのであった。
しかし、この一か所を柵で封鎖することで、全ての部屋の窓をあけて、換気をすることが出来る。え? 無理か・・・。
じゃあ、食堂の扉のところには小型トランクでも置いて、中に入れないようにしたらいい・・・。
これで、ら換気問題も解決した。
そして、そうとは知らない三四郎は鉄の柵が気に入ったみたいで、写真撮影にも付き合ってくれた。
夜が楽しみで仕方がない。ゆっくりと寝られるかなァ、ひとなり~。

滞仏日記「檻を嫌がる三四郎、仕方なく父ちゃんが檻に入ることになる」



ということで、ドアは開けっ放しにして寝るから、柵の横に三四郎のベッドを置いた。
寂しい時はちょっとぼくの寝室を振り返れば、ぼくの布団からはみ出した足とか見えるはずで、・・・安心、というわけである。
果たして、そうなるのだろうか?
読者の皆さんが、そうならないことを期待していることは薄々感じとっている。
しかし、今度ばかりは、父ちゃんが勝利すると思う・・・。
乞うご期待。

つづく。

滞仏日記「檻を嫌がる三四郎、仕方なく父ちゃんが檻に入ることになる」

※ 「パパさん、遠いよー」
と首を傾げるサンシーであった。笑。

地球カレッジ
自分流×帝京大学