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滞仏日記「辻家最新情報、ロシアが海底ケーブルを切断したら辻家はどうなる?」 Posted on 2022/04/09 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今、ぼくが一番、恐れているのは、ロシアが海底ケーブルを切断した場合、辻家(とくに欧州の人々)の生活がどうなるのか、ということ。
海底ケーブルは世界に447本存在し、世界の大陸をつないでいる。
欧州に限って言えば、このうち、特定の10本を切断すると、インターネットが欧州全域で通信不全になると言われている。
ATMでお金をおろすことが出来ないし、飛行機も離陸できず、メールも出来なくなる。
今、現在、日本のプロバイダーと契約しているぼくは(アノニマスによるロシアと取引をしている日本企業への攻撃で)送信機能が使えない状況下にあるのだが、いやいや、こんなの比較にならない、もっとすごい事態が起こる。
とにかく今世界で何が起きているのかという情報やニュースが手に入らなくなるのだ。
孤立しているロシアにとっては世界を同じ状況に引きずりおろす最高の手段となる。
フランス海軍によると2014年から欧州海域でロシアは海底調査をしていた可能性がある、ようだ。
重要なケーブルがアイルランド沖とポルトガル沖から世界に伸びているようで、というか海に沈んでいる丸裸の状態で設置されており、どこを攻撃すれば欧州が終わるか、ロシアの海軍はよく心得ているという恐ろしい状況にあるらしい。
(ロシアは一度、ウクライナのケーブルを切断したこともある・・・怖)
ケーブルを各国の海軍が守るにしても、海は広いな大きいな、で不可能。
じゃあ、対抗策は?

滞仏日記「辻家最新情報、ロシアが海底ケーブルを切断したら辻家はどうなる?」



対抗策はない。
フランスにおけるドコモみたいな会社、オランジュ社の社長さん、
「もしも、切断されたら、終わりだね、ネットはもう見れないよ」
と力説。
デザインストーリーズなんてやってる場合じゃなくなるし、ツイッターも、インスタも、何もかもが使えなくなる。
もちろん、メールも、ありとあらゆる通信機能が動かなくなる。
オランジュ社の社長さん曰く
「フランスは、99%の通信が海底ケーブルに頼っているからなァ」
ということであった。
終わりじゃん・・・。

実は2007年に、ベトナムで漁師が間違えて数本の海底ケーブルを切ってしまったことがあった。
その結果、ベトナムの通信が世界と3週間途絶えている。
ケーブルをつなぐことは不可能で、引き直さないとならないらしい・・・
えらいこっちゃ。

滞仏日記「辻家最新情報、ロシアが海底ケーブルを切断したら辻家はどうなる?」



そういう世界を想像したことがなかったが、ぼくはとりあえず考えてみた。
まず、ぼくのような海外在住の日本人は、日本からの送金が出来ない。
いや、待って、海外在住じゃなくても、フランス人だって、送金がそもそもできなくなる。じゃあ、家賃はどうすればいいのか、ネットでの家賃引き落としは出来ないだろうし、ATMの引き落としも出来ない。
大家さんに、事情説明しようとしてもメールが打てない。
もっとも、それはぼくだけじゃないので、みんな家賃が払えなくなるのだから、大家さんも待ってくれるかもしれないな、と思い直した。いや、銀行まで行けば送金できるかもしれないけれど・・・。行くのが面倒くさい。
ともかく、現金だ。
今のうちに現金を引き落としておかないとまず生活ができなくなってしまうのじゃないか?
西側が経済制裁を行った直後のロシアの人々がATMに殺到したような状況が・・・。



とにかく、あまりにSF的な出来事なので、ぼくには何がどうなるのか、ちょっと混乱中でわからない。
ロシアがウクライナに侵攻した直後、ウクライナはイーロン・マスクにスターリンク(高度約550kmの低軌道上に多数の人工衛星を打ち上げて、宇宙からブロードバンド通信サービス、つまりインターネットを提供する)の使用を懇願し、マスクさんはその数日後、ウクライナの人々が無償でスターリンクを使えるようにした。
その結果、ウクライナはロシアにある程度情報戦で有利に立つことが出来ている・・・。
だとすれば、スターリンクがあれば、欧州もいずれ復活することになるかもしれない。

だいたい、海底ケーブルはあまりにも旧世代的で、無防備過ぎる。
そのケーブルに頼っていたこの世界も、信じられないくらいに古めかしい? 
となると、イーロン・マスクは今でも大金持ちだけれど、もっと凄い存在、世界を牛耳れる存在、になってしまうかもしれない。
(ところが、調べてみたけど、衛星ではぜんぜん、まだまだ、カヴァー出来ないのが現状らしい)
マスクさんはプーチン大統領と戦うと宣言していたので、その点はめっちゃ頼もしい。
逆を言えば、ケーブルが切断されたら終わる欧州って、情けない・・・。仕方ないのか。
ロシアが2014年から海洋調査をしていて、おかしい、と思っていたのであれば、何もしなかったフランスの海軍とか、英国の防衛相とか、職務怠慢ではないのか・・・。
バイデン大統領が、早く、なんとかしろ、と世界各国に訴えているようだけど、切断された海底ケーブル、・・・引き直すのに3週間かかるのか・・・あはは、その3週間で世界は混乱し、ミサイルを撃たれ、終わるかもしれない・・・。



ともかく、現代はネット社会なので、ネットが動かなくなった世界に何が出来るのか、ぼくのようなろーとるには、想像が出来ない。
光ファイバーとか、4Gとか当たり前だと思っていた自分が恥ずかしい。
核戦争が勃発する前に、情報が根絶され、世界は孤立することになる。
もっとも、このケーブル切断攻撃もある種の時間との闘いというのもあるだろう。
最初はパニックになっても、迂回路がやがて充実し、なんらか解決できる別の手段が登場する気もする。
ともかく・・・
月曜日、ぼくはまず、銀行に行き、現金を下ろす。
欧州にいる日本の皆さんも、ちょっとは現金を持っていた方がいいかもしれない。
とりあえず、二週間分の準備は必要かなァ。
もしかすると、日本の海底ケーブルも狙われている可能性が十分にある。

つづく。

滞仏日記「辻家最新情報、ロシアが海底ケーブルを切断したら辻家はどうなる?」

ということで、今日も読んでくださって、ありがとう。

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