JINSEI STORIES

滞仏日記「三四郎の弁償代1週間で4万円超。どうなる辻家の家計!?」 Posted on 2022/05/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、遅い午前、散歩の途中でいきつけのもじゃ男のカフェに立ち寄る。
「ちょうどチーズパイが焼きあがったところだよ」、ともじゃ男が言うので見たら、うまそう。思わず、お持ち帰り用を買ってしまった父ちゃんであった。
三四郎を連れて公園に行き、ちょっと昼には早いけど、今日は中島君(エリック)がお昼から掃除に入る日なので、公園で三四郎を相手にピクニック。
広場の真ん中に座り、チーズパイを頬張っていると、ん? なんか、サンシー静かだなァ。ふり返ると、リードの番のところを噛み噛み(シガシガ)していた。
「サンシー、ダメだよ。さっき、ごはん食べたばかりでしょ? それ、また、つかえなくなっちゃうじゃないか?」
慌てて、取り上げた父ちゃん。このリードですでに3代目なのである。
ともかく、このような三四郎のベティーズ(おバカ)がとまらない。
いや、ますます、激しくなっている。

滞仏日記「三四郎の弁償代1週間で4万円超。どうなる辻家の家計!?」

滞仏日記「三四郎の弁償代1週間で4万円超。どうなる辻家の家計!?」



とにかく、あらゆるものを噛むのだ。
一週間ほど前に、息子の部屋に忍び込んで、息子の超大事なヘッドフォンのケーブルを根元で噛みきったのは、先の日記でお話した通り。
息子がかわいそうなのでAmazonで買ったら、130ユーロもした。
その翌日、スタッフさんらのミーティングに連れていったところ、その中の一人のライターさんの携帯ケースを、ちょっと目を離している隙にボロボロにしてしまい、今日、弁償をした。70ユーロであった。
そして、昼前、掃除にやってきた中島君(エリック)のカバンのチャックを噛みきり、カバンの用途が不能となったため、その弁償をした。
中島君は、いりません、と言ったけど、そうはいかない。彼の移動道具なのである。
彼がネットで買った金額を聞き出し、100ユーロ支払った。
ついでに、ボロボロになったリードをネットで再注文したので、その合計は、日本円で4万5千円くらいになってしまった。
ぼくは何も悪いことしていないのに、4万5千円がわずか一週間で消えてなくなる。どう思いますか? 
しがない作家なのに、やってられないだよ~。

滞仏日記「三四郎の弁償代1週間で4万円超。どうなる辻家の家計!?」

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しかし、彼のベティーズはそれだけではない。
たとえば肘掛け椅子はすでに穴ぼこらけだし、三四郎が我が家にやって来た時に購入した彼のベッド・マットはふたつともズタボロなのである。
中の綿を引っ張り出したり、チャックを破壊して、使い物にならなくしたり、ちょっと目を離すと何か悪さをやっている。
もはや何もそこには置けなくなり、すべてを別の部屋に移動させたのだが、ついに噛むものがなくなって、三四郎は部屋の白壁を齧りだした。
白いペンキが剥がれ落ち、中の木が露出している状態である。
「サンシー。何やってるんだよ」
と文句を言うと、一応、視線をそらし、反省をして小さくなって、肘掛け椅子の下へと逃げるのだけど、そこから、上目遣いでぼくをちら見している・・・。
反省しているようだから、そこを離れて、しばらくしてから様子を見に戻ると、壁の端とか椅子の脚とかを、シガシガしているじゃないかァ!!!!
「三四郎!!!!」
怒られると、ぼくを振り返り、やば、という顔をして、こそこそと逃げる、の繰り返しなのである。どう思います? 
毎週、4万円の被害って、やばくない?
辻家の家計に与える影響は甚大なのである。

滞仏日記「三四郎の弁償代1週間で4万円超。どうなる辻家の家計!?」

※ この椅子の写真、よく見て。縫った痕跡があるでしょ? なんとか修復を試みているのだけど、追いつかないのであーる。こんにゃろめ。



犬の世話をお願いしているライターのマントさんに相談したところ、(この方は昔、ミニチュアダックスを16年も育てた経験がある)
「いやあ、辻さん、歯が生え替わっても、2年くらいは、安定するまでに時間がかかったような記憶があります。私の子も、いろいろと噛んでました」
「ちょっと待って、2年?」
少なく見積もって毎週4万円として、ひと月で16万円。一年で、ええと192万円、ひやあああ、じゃあ、二年だとその倍、384万円の被害額ということになるじゃないか。算数苦手の父ちゃんにしては凄い計算が出来たと喜んだのもつかの間、これはあかん・・・・。どないしよ、ワインが飲めなくなる。
「それにしても、三四郎ちゃん、うちの子よりも、かなり激しいです」
「え、そうなんですか?」
「私、その前はヨークシャーを、その前にフレンチブルドッグを飼っていましたが、こんなにシガシガする子ははじめてよ」
マントさーん。そんなお母さんみたいな笑顔で言わないで・・・。
いやいやいや、このペースで2年はまずい。何か対策を考えなきゃ。
そこで、ドッグトレーナーのジュリアにメッセージを送った。どうやって躾ければいいのか、という相談である。
「ムッシュ、ご無沙汰です。夏に預かる時に、私が躾ますから安心してください」
という返事だったが、日本に行くのは7月だから、まだ、結構時間がある。
「それまでは、噛まないように、気を付ける。噛まれて困るものは周りに置かない。近づく人にも最初にそのことを通達し、身の回りのものとか噛み切られないようにしてもらう。息子さんの部屋は鍵を付ける。とにかく、出来るだけ一緒にいて、遊んで、気を反らさせる。犬は退屈が一番の敵なんです。対策としてはそんな感じでしょうか。特に、かわいい、とか言って無防備に三四郎を抱きあげに来る人は危険です。ネックレスとか携帯ケースとかやられますから、気を付けて」
とアドバイスをもらった。
父ちゃんは、ため息・・・。

滞仏日記「三四郎の弁償代1週間で4万円超。どうなる辻家の家計!?」



三四郎は、とにかく、なんでも齧るし、食べる。
ちゃんと餌を与えているのに、である。
というか、美味しいはずの餌を残して、椅子の脚とか、壁を食べているのだから、お手上げなのであった。
「その、壁とか、美味しいわけ?」
ぼくは素朴な疑問をサンシーにぶつけてみた。
三四郎、壁を噛みながら、ぼくをふり返る。
「ごはん残して、壁齧って、おかしくない? どうすんの? あのごはん」
ぼくが餌を指さすと、あ、という顔をして、思い出したかのように、スタスタと餌のところまで戻って、また食べだす・・・、歯が気持ち悪いにしても、明らかに枝とか葉っぱとか草とか落ちてるものをかたっぱしから試食する三四郎から目が離せない父ちゃんなのであった。
2年か・・・。

つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
そんな三四郎とも夏は離れ離れ、こういうベティーズを思い出しては日本で寂しい日々を過ごすのであろう、と思うと、泣きそうになる・・・。
でも、頑張らないと、生きていくために。
ということで、父ちゃんからのお知らせです。

辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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【ビルボードライブ大阪】(1日2回公演)
8/8(月)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ大阪: 06-6342-7722
〒530-0001大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2
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【ビルボードライブ横浜】(1日2回公演)
8/12(金)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ横浜: 0570-05-6565
〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通5 丁目57 番地2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F
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発売日
Club BBL会員、法人会員先行=6/6(月)12:00正午より
一般予約受付開始=6/13(月)12:00正午より

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