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滞仏日記「息子くんに、パパはおじいちゃんにならないで、とつぶやかれた、の巻」 Posted on 2024/04/27 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ということでここのところ、息子くんが、よくやってくる。
前回は、パパのことを心配して、ごはんを作りに来てくれた。
何をするわけじゃないが、言うわけじゃないが、きっと、どこかで心配なのであろう。
また、来た。
「何、食べる?」
「うん、なんでもいいけど、昔はさ、よく、ごはんできたよー、って呼んでくれていたからね、この間、懐かしいなァ、と当時を思い出した」
ああ、そうだった。
NHKの「パリごはん」でよく、その場面が使われたものだった。
「ごはん、出来たよー」
あれ、たしかに、言わなくなったなァ~。
「あの言葉、思い出すと、ああ、なんかパパのごはん食べたいなーって思うんだよ」
「OK、なんか、作ったろうか?」
「うん。いいね。何があるの?」
「ハンバーグなら作れる。トンカツもできる。スパゲッティサラダとか」
息子が笑いだす。また? 
「いつも、だいたい、同じだね。これに、餃子とか、ペペロンチーノ・・・」
「あはは」
ということで、赤ワインがあるので、赤ワインで煮込むハンバーグ、にした。
キッチンで料理をしている間、ずっと、息子がそばにいた。壁に背中をついて、三四郎を抱きかかえ・・・。
次のライブを最後に、やはり、日本でのコンサート活動をやめることにした、と伝えてみた。
「ずっと?」
「たぶん。何年も、もうやらない。80歳過ぎて戻って来るの、かっこ悪いから、引退というのとも違うけれど、静かにフェードアウトする感じ」
「へー、もう、歌わないの?」
「歌をやめるわけじゃないけど、日本でのコンサートツアーとかやると、パパが責任おわないとならないから、難しいんだよ。移動も大変だし。コンサートがキャンセルになったら、賠償とかできないし、若くないからね」
「そりゃあ、本末転倒だね、じゃあ、パリでやればいいじゃん。無理しちゃだめだよ」
あはは。
「でも、ぼくが今、一番心配しているのは、パパのことなんだ」
息子が真剣な顔で言った。
「パパは元気だよ。引退って言っても歌をやめるわけじゃないし」
「そうじゃない。おじいちゃんになったパパを想像できないし、ぼく、おじいちゃんになったパパを想像したくないんだ。おじいちゃんになるのかなぁ、パパも、いつか・・・」
「ま、なるだろうけれど」
「パパは、おじいちゃんになっちゃいけないと思う」
真面目な意見であった。前にも言われたけれど・・・。

滞仏日記「息子くんに、パパはおじいちゃんにならないで、とつぶやかれた、の巻」

滞仏日記「息子くんに、パパはおじいちゃんにならないで、とつぶやかれた、の巻」



「え、でも、いつか、なるでしょ?」
「年齢的になったとしても、その、絵に描いたようなおじいちゃんになってほしくないんだ。パパは、ステージの上でかっこつけておいてほしい」
「あ、わかる。それ、そこよ」
ぼくは、ガスを止めて、息子と向き合った。
「あのね、若いとか、そういうのじゃなく、パパは、ずっとこのままでいたいんだよ」
「そうそう、パパが、老後とか考えて生きているようなおじいちゃんになってほしくないのは、ぼくのわがままなんだけれど、でも、パパは可能な人だと思う」
「あのね、実は自撮り禁止になった」
「自撮り?」
ぼくは説明をした。
でも、あの自撮りは、パパを若く保つために、大事な訓練なんだ、と息子に、バカにされることを覚悟で、言ってみた。
「いい年して、あんな自撮りを日記に載せちゃダメだって、みんな言うんだけれど、あれが、実は、パパの青春なんだよ。わかるか?」
「パパ、あのね」
息子が、手でぼくを制した。
「パパの気持ちはよくわかる。パパから、そういう部分をとっちゃうと、パパらしくなくなって、老けていく速度が爆上がりすると思う。スタッフさんの気持ちはよくわかるけれど、パパは、自撮りをして、それをこっそり、SNSに上げていった方がいい。誰かがパパの悪口を言っても、それは誉め言葉だよ。だって、そんな年齢で、なかなかできることじゃないじゃん。パパが普通になる方がぼくは嫌だ。ぼくは、はっきり言うけれど、パパには、おじいちゃんになってほしくない。おじいちゃんになるの禁止令というのを作りたい。年相応という日本語、パパにはむいてない。パパは、自分で年齢を決めてバンパイヤーみたいに生き続けて、別に大ホールでライブやらないでいいし、引退してもいいけど、昔みたいに、その辺の路上で歌って人を集めてほしい。ぼくはそういうパパを誇りに思う」

滞仏日記「息子くんに、パパはおじいちゃんにならないで、とつぶやかれた、の巻」

※ 25歳のデビュー当時の写真です。下のは、今、同じ人間なんですけど。(*`艸´)ウシシシ

滞仏日記「息子くんに、パパはおじいちゃんにならないで、とつぶやかれた、の巻」



なんとなく、息子はわかってくれているようだ。
スタッフさんたちが言う気持ちもよくわかるのだけれど、それは、結果が将来的に、全てを、変えてくれることなんだ。結果は、今が生み出す。
ぼくが死ぬとき、ぼくという作品は、ぼく自身、なのである。
ぼくがステージで歌い、ぼくが自撮りし、ぼくが書く日々の日記もそうだし、ぼくの小説や、エッセイ、ぼくの演出、映画、そういうもの全部ひっくるめて、辻仁成、という表現者が作っている作品なのである。あはは。
批判や陰口は上等だし、別にその人とぼくは関係ないからね。
でも、息子が、そこまで応援してくれるなら、ぼくはぼくのままで、生き続けていきたい、と思うのだった。
「パパ、もうそういう変なパパやめてよ」
と、今まで、一度も言われたことないし、今は、こういう変なパパであることを、彼が一番、応援してくれているのじゃないか、逆に、
「だからさ、そこらへんのおじいちゃんにはならないで」
と言われてしまったのだった。
「なるものか、パパは永遠にパパでいる。皺が増えて、髪の毛が抜けて、背中がちょっとまがっても、外反母趾の痛みを我慢して、ブーツ履いて、ギターを弾いて路上で歌ってるから、安心しろ。そのうち、パリのどこかの壁にバカでかい絵を描いてやる」
ぼくらは、おいしいハンバーグをつつきあって、豊かな夜を過ごしたのでありました。
めでたし、めでたし。

滞仏日記「息子くんに、パパはおじいちゃんにならないで、とつぶやかれた、の巻」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、明日も、息子くん、遊びに来てくれるみたいです。「おーい、ごはんだよー」と呼べば、「はーい」という声がずっとかえってきておりました。そこに、永遠の辻家がありました。いくつになっても、辻親子は、不変の最強コンビなのであります。

大切なお知らせです。

5月26日に、エッセイ教室をやります。正式募集は、5月1日ですが、課題は「お弁当」エッセイです。エッセイ好きなみなさん、今から課題取り組んでくださいね。
詳しくは、とりあえず、こちらをご覧ください。
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https://www.designstoriesinc.com/wp-admin/post.php?post=52012&action=edit

それから、それから、
月に3度、父ちゃんがお茶の間に登場し、熱血で語ります。ぐぐーんと値下げしました。えへへ。
ツジビル村営放送、ラジオ・ツジビルを聞くには、こちらからです。
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https://www.tsujiville.com/

さて、さて、日本での引退も決定したので、東京と大阪公演、これで当面、見納めになりそうですね。生涯、最高のライブにしますので、お付き合いください。

・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00

さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
☟☟☟☟☟
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)

滞仏日記「息子くんに、パパはおじいちゃんにならないで、とつぶやかれた、の巻」



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自分流×帝京大学