JINSEI STORIES

退屈日記「21世紀監視塔から、20世紀監視塔を見つめる。ロシア人写真家からの手紙」 Posted on 2022/05/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日、英語のメールが届いた。
普通だったら、迷惑メールだろうと思って即ゴミ箱行きなのだけど、dearDesignStoriesという書き出しだったので、目を落とした。暫く書かれていることの意味が自分の中で繋がらなかった。
けれども、次第にそのメッセージが7年前のあの日と接続されはじめる・・・。
ぼくはBBCの熱心な読者で、その英語記事を読んでいた時に、奇妙な一枚の写真に出会ったのだ。
それは雪景色の中に廃棄された第二次世界大戦当時の戦闘機や軍事施設の残骸だった。
ぼくはデザインストーリーズの創刊に向けて必死で情報を集めていた時だったので、この若いロシアの写真家の試みは面白いと思い、ネットで調べてコンタクトをとることになった。
「ぼくは日本の作家で、あなたの写真に感銘を受けた、その写真を使わせてほしい」
というお願いだった。
まもなく彼から返事が来て、ぼくらは若き写真家の特集を創刊号の最初の記事にするために編集作業に入った。
特に政治的な意図もなく、本当に素晴らしい写真だと感じたからの依頼だった。
その若いロシア人写真家は1986年生まれだった。
そんなに若い人が、第二次世界大戦の負の遺産に関心を示すのは興味深いことだった。
そして、昨日届いた彼からの手紙には、
「自分は今、外国に逃げている」
と書かれてあった。
「ロシアのウクライナ侵攻に抗議して、クレムリンの近くでウクライナの色、青と黄色の発煙筒を炊いたんだ。そのせいで、今、残された家族や友人が厳しい監視下に置かれている」

退屈日記「21世紀監視塔から、20世紀監視塔を見つめる。ロシア人写真家からの手紙」

※ これはぼくの作品、「世界地図A」若きロシアの写真家にささげたい。



そこで、ぼくは慌てて、若い写真家を特集した記事を探し、読み直した。
2016年にその記事はデザインストーリーズから、配信されていた。
色褪せない、むしろ、今だからこそ、大きな意味を伴ってその写真たちはぼくらに訴えかけてくる。
7年前のしかし新しいこの人の着眼点を確認してもらいたい。
今だからこそ、眺めて貰いたい記事なのである。
下のバナーをクリックして貰えると、私たちは2016年の若き写真家のメッセージを受け取ることが出来る。

https://www.designstoriesinc.com/jinsei/hitonari_tsuji-d_tkachenko/

この青年は、今、何処の国でレンズを通してこの不条理な世界を眺めていることだろう。
彼が目撃し続けるものをもっと眺めてみたい。

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