某月某日、田舎にやってきたのに、天気予報によると、今日から暫く降るらしい。
出鼻をくじかれた恰好の父ちゃんと三四郎である。
ざあざあ降りの雨模様、家から出るに出れられない。
犬にとって退屈が一番の敵らしいので、珍しく、わん、と吠えて「遊んでよ」と訴えている。
でも、不用意に吠えることはやっぱりなくて、めっちゃ優しい「わん」なのだ。
ちなみに、三四郎の犬吠えには大きく分けて３種類がある。
１，
ポッポ（うんち）を知らせる「わん」これは威勢がいい。「パパしゃん、ポッポ出来たよ。見て、大きいよ、立派だよ、ちゃんとシートの上でやったもん。褒めてよ」という胸を張ったわんなのである。わんだふる。
２，
ボールを棚の下の隙間に自分でわざと入れて、どんなにがんばってもとれない状態にしてから「パパしゃん、ボールがまた下に入ったよ。とってよ。とれないんだよ」と吠える。これが一番うるさい、耳障りな犬吠えだ。最初はなんで鳴きやまないのかわからなかったのだけど、やっと、分かった。で、よく観察をしていると、自分でそこにわざと入れている。入れて、とれないのを確認してから、「パパしゃーん！大変だぁ。やばいよー」と大騒ぎをする。つまり、遊んでほしい、かまってほしい、という合図なのであーる。わんだふる。
３，
で、ぼくが十斗と食堂でご飯を食べている時とかに柵のところにきて、「パパしゃーん、ぼくもそこに参加したいなぁ」と吠える時は、幾種類もの声色で吠える。注意深く聴き分けていると１０種類くらいバージョンがある。小さい聞こえないようなわん、ちょっと軽い呼びかけのようなわん、様子をみてどこまで吠えるべきか悩んでいるわん、なんだよぼくだって生きてるんだ参加させてくれよのわん、いい子にしているからそこにいたいよのわん。無視するのかよーのわん、ええい、どうにでもなれー、もうなんだかわからんぞ的なわん、と多種多様なのである。その吠え方で、だんだん、三四郎の言いたいことが分かるようになってきた父ちゃん。わんだふる。

で、今日は雨だから、遊んでよーの３番に近い種類の吠え方であった。
「でも、さんちゃん、ご覧、外は雨なんだよ。こんなに降ってちゃ、外は無理だろ？」
「わん」
「え？　カフェ？　そうだね。じゃあ、いつものカフェにでも行くかい？」
ということで仕事をやっつけてから三四郎を連れて、隣町の知り合いのカフェ・レストランを目指すことになった。ちょうどランチタイムだったからだ。
しかし、三四郎、カフェとかで吠えることはないのだけど、今日は体力を持て余しているのか、じっとしていない。
友だちのカフェオーナーが三四郎のためにソファの席を用意してくれた。
床でいいよ、と言ったのだけど、この子は大丈夫、と友だちが三四郎にベンチ・ソファをすすめてくれたのだ。ぼくのジャケットを下に敷いて、三四郎を座らせたのだけど、ダメ。
すぐに立ち上がって、下に降りたり、ジャンプしたり、いろいろと動きはじめた。
ちゃんとしたレストランだから、ぼくの左右にはちょっと品のいいおじさまとおばさまが陣取っている。動き回る三四郎をじろじろと見ている。
これはダメだ。お店に迷惑がかかる。
「三四郎、クッシェ（伏せ）！」
小さな声で命令をし続け、やっと諦めたのは、料理が届いた後だった。笑。
しかし、三四郎は一度納得すると、もう諦める犬なのである。わんだふる。
ご覧のように、ベンチの先っちょで、諦めて寝てしまった。

雨は降り続け、凄いことになったので、どこにも行けないまま、家に戻って、暫く二人で窓外を眺めて過ごしていたら、夕刻、あらら、なんか遠くの空に晴れ間が・・・。
天気予報を見ると、雨マークが消え、一時間だけ、曇りになっている。ここは海沿いなので、風が出て雲が散ったのだ。
「今だ」
「わん」
ということでぼくらは大急ぎ、海を目指した。
空を移動する雲の流れを見ながら、どの方角に行くと晴れ間に出会えるかを想像しながら、運転をした。隣村の浜辺の真上に晴れ間がちらっとあったのだ。
おお、凄い。エンジェルズ・ラダー（天使の梯子）だ！！！　わんだふる。

浜辺に降りて、三四郎のリードを外し、自由にさせた。
三四郎が波打ち際を目指して走って行った。なんと幸せそうな走り方だことか。この子はきっと今、ものすごく幸せなんじゃないか、間違いない・・・。
「三四郎！」
大きな声で呼んだ。
海に飛び込む勢いだったので、・・・。
「三四郎！！！」
三四郎がこっちを振り返った。ぼくが手を振ると、今度はぼく目掛けてダッシュで走って戻って来た。かわいい。
ぼくは犬用テニスボールをポケットから取り出し放り投げた。
一目散でかけていく三四郎。ぼくの周囲を何周も走り回る。わんだふる。
そこへ、子犬たちが集まってきた。
三四郎がその犬たちとじゃれ合う。今度は三匹の犬たちが、競争をするように海辺を走っていった。
すると遠くから黒雲が接近してきたのが見えた。みるみる青空を隠しはじめた。
「三四郎！　雨雲だ。雨が降るぞ。帰ろう」
ぼくは口笛をふいて呼んだ。
三四郎はまだ遊びたかったけれど、ぼくが帰るそぶりを見せたので、仕方なく戻ってきた。ぼくらが車に乗った途端、視界が見えなくなるくらいの土砂降りになった。
最悪の日に、最高の瞬間をゲットした父ちゃんと三四郎であった、とさ。
「わん」
「そうだ。よかった。ワンだ降る！」

つづく。

ということで、雨が続く田舎の浜辺の一瞬の快晴、わずか３０分だけの晴れ間でしたけれど、実にタイミングよく散歩が出来て、嬉しい父ちゃんでした。
こんなことで一日が幸せに感じられる、それは素晴らしいことですね。
ということでお知らせです。
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