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滞日日記「友だちとは言い切れない仲間がいる。仲間に支えられて今日がある」 Posted on 2022/08/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、クレモンティーヌのマネージャーを長年やっている河合ルミというパワフルな女性がいる。
この人との関係はマジ長い。
つかず離れず、気が付けば、30年近い付き合いになった。
途中、大喧嘩を何度もやった。土下座をしたり、殴りあったり、罵り合ったり、した。
音楽関係者って、ちょっと変わった人が多い。(ぼくが一番ね、えへへ)
マダム・ルミはシャンソンを日本に広めた人の一人である。
シルヴィ・バルタンのプロモーターなども手掛けてきた。
京都の人なので、大阪の人とはちょっとまたノリが違うのだ。
面倒くさい奴ですよ~、とお互い言い合ってきた。笑。
でも、気が付くといっつも仕事をしている。(今は、三四郎が繋いでいる。ルミさんは保護犬活動をしているのだ。そういう財団を運営している)
とくにパリに渡った20年前から、ぼくのフランスでの音楽活動には遠からず近からずつかず離れず応援をし続けてきてくれた。
仲がいいのか悪いのかわからないけど、絶対に、離れられない仲間の一人である。
今回のライブを仕切っているサウンドクリエーターの中原さん(バリバリの大阪人)はECHOESのデビュー前(1983年頃)からの付き合いになる。
彼とは喧嘩したことがないけれど、打ち上げ以外で飲んだこともないし、ライブだけの付き合いで、40年・・・。
そういうつかず離れずの人がこと音楽関係には多い。
逆を言うと、ぼくが動く時にはどこからともなくはせ参じてくれる人たちがいる。
大きな意味では友だちなのだけど、「仲間」という方が正しいかも・・・。
この違いはなんだろうね。

滞日日記「友だちとは言い切れない仲間がいる。仲間に支えられて今日がある」



マダム・ルミはダイナミックなプロモーターで、見た目も迫力がある。
「辻さん、やりましょう」
とはっぱをかけるのが上手だけど、ちょっと雲行きが怪しくなると、なんとなくいなくなる。
これは中原さんも一緒で、中原さんは、俯いて、悩んだあげく、消えていく。しかし、二人とも音楽が凄く好きなのが分かる。ぼくはよくわかっている。
今や音楽業界は主流産業ではなく、小さな愛好家の寄り合い所帯のような場所である。
レコード会社というが・・・、CDもほぼ意味をなくしつつある時代に、この呼び方もどうかと思うけど、レコード会社はいったいどうやって利益を上げているのか、と心配になる。
さらにコロナが追い打ちをかけ、風前の灯火の中、それでもなんとか持ちこたえているのが世界の音楽業界の今であろう。
でも、それは、焼き鳥屋さんとか、居酒屋さんとかも一緒だし、旅行業界も一緒だ。どの業界も苦しい時代、コロナで大変な世の中なのである。
それでも、マダム・ルミも、ムッシュ・中原もこの業界を守っている。
「辻さん、どうですか?」
久しぶりにマダム・ルミから連絡が入った。
「いい感じですよ。慎重にやっています」
「用心に用心を重ねて、いいライブをやってくださいね」
「もちろんです」

滞日日記「友だちとは言い切れない仲間がいる。仲間に支えられて今日がある」



実は、すでにビルボードライブのリハーサルは始まっているのだ。
パーカッションのノブさんは、夏木マリさんの夫ぎみ、そして、言わずと知れたパーカッション界の重鎮の一人。黒いサングラスを外すと、実はめっちゃ可愛い目をされている。
怖い感じの人を想像していたけど、会った時、あまりに腰の低い優しいムッシュだったので拍子抜けした、笑。
ピアノのキョンさんは同時代に「ボ・ガンボス」で大活躍されていたが、当時は接点がなかった。今は佐野元春さんのバンドでライブ活動をされている。
まぁ、この人も巨匠だけど、やはり腰の低い好奇心旺盛な人で、日々、じわじわと、ノリと気が合っていく。
ベースは長年、一緒にやってきたトキエさん。超テクベーシスト、クール・ビューティなマダムだけど、音楽活動以外で連絡をとりあうことはない。まさに、スタジオかステージの上でしか会わない人である。そういう人が多い。
ともかく、初めての二人のおじさまが気になる。
今のぼくは型にはまった音楽が苦手で、自由過ぎるくらい自由な人だから、キョンさんとノブさんがどこまで受け入れてくれるか、最初は心配だった。
でも、今日、とある曲のあと、二人が興奮気味に、いいね、すごくいい、と盛り上がってくれた。ぼくの音楽には楽譜もアレンジもないのだ。
いつも、その時の空気が大事になる。決まり事を音楽に持ち込みたくないので、最後までフリースタイル。
それに付き合える人しか、一緒にステージに上がることが出来ない。
フランスのミュージシャンたちは世界中から集まった兵たちだから、このフリースタイルがお得意なのだけど、日本人はどうなんだろうね・・・。
そしたら、ノブさんが、
「面白い、いやあ、面白い、こういうスタイルのないスタイル好き」
と目を撓らせて言ってくれた。
「うんうん、カッコイイ」
とキョンさん。おお、ボ・ガンボスに褒められた!!!
コロナ禍のライブなので、ほぼほぼ、アンプラグド・ライブである。
ジャズやブルースやシャンソンの要素をふんだんにいれた2022年の父ちゃんの音楽なのである。
こぶしを振りあげることもないし、汗をかくような音楽じゃないけれど、動き出す絵画のような感動をお届けできるはず・・・。
ともかく、いいメンバーと出会えた。友だちではないけれど、すでに、素晴らしい仲間たちなのである。
だから、つい、笑顔になってしまうのだ。

滞日日記「友だちとは言い切れない仲間がいる。仲間に支えられて今日がある」



ECHOESの「友情」というバラードを今回、ぼくは歌う。
静かなピアノとギターのみのバラードである。25歳のぼくが作った歌だけれど、何も変わっていない。音の光の中で、静かに歌い上げて見せたい。
この時代に、生きている証を、かすれたぼくの声で、お届けしたい・・・。

つづく。

今日も読んでくれて、ありがとう。
大阪ビルボードも横浜ビルボードにもそれぞれ違うジャズ・トランペッターが飛び入りをしてくれます。ぼくが20年間、フランスで築き上げてきた自由な音楽の光を浴びてくださいね。

地球カレッジ

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