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退屈日記「親がこんなに心配をしていても、その心、子には届かず?」 Posted on 2022/09/15 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、夜ご飯食べに帰ってもいい、と電話をかけてきた息子のことが心配だった。
箱入り息子状態が長かったせいもある。
不意に、大学生になり、アルバイトもはじめたし、一人暮らしするようになったので、生活が大激変し、そのギャップに、心が追い付かないのであろう。
母親がわりの親戚のミナのところにも、「一人暮らし寂しい」とメッセージが届いたようだ。
ママ友やミナちゃんから届く情報で、息子の心模様を察知している父ちゃん・・・。あはは。
親というのは、子供が道を外さないように、遠くから見守らないとならない生き物だ。
でも、どんなに見守っても、心をくばっても、それはある意味、当たり前のことだから、その愛情を、子供は気が付かない。
やれやれ。

退屈日記「親がこんなに心配をしていても、その心、子には届かず?」



そんな息子は、
「パパはぼくと話をしてくれない」
と周囲に言いふらしているようだ。
ぼくはぼくなりに、話しているつもりなのだけど、・・・。
というのは、フランスは親と子がめっちゃわかりやすく親密なのである。
とくにお父さんは子供たちのいい話し相手になる。
アレクサンドルのお父さんのロベルトしかり、田舎のシェフをやっているチャールズもそうだ、どこのパパも、わかりやすいくらいに、子供たちと体当たりで向き合っている。
PTA参観には、お父さんの方が多いくらいで、音楽プロデューサーのロブソンしかり、ご近所のピエールしかり、本当に、こっちのパパはみんなわかりやすく、子供のために一生懸命にふるまうのである。
いや、ぼくだって、一生懸命なのだけど、フランスのパパたちのような絵に描いたようなかっこいいパパを演じることができなかった。
フランスのパパたちは、子供を迎えに行くと、校門前で抱きしめ、キスをする。そのキスも奥さんにするよりももっと愛情が籠っているのだから、いやになる。
ぼくはというと、日本人だし、人前で息子を抱きしめたり、ましてや、キスなどできるわけがない。
こっちでは、お父さんが息子にも普通にキスをするのだ。キス文化が違い過ぎるので、息子にキスをしてやったことがない。
いや、映画のように、抱きしめてやるようなことさえ、正直、出来なかった。
「パパは日本人だから、そういうのがうまくできないんだよ」
と言い訳をしたこともある。

退屈日記「親がこんなに心配をしていても、その心、子には届かず?」



しかし、フランスで生まれた息子からすると、そんなこと知ったこっちゃないのだ。
他の子たちのように、自分もハグされたり、キスされたかったのかもしれない。肩を抱きしめて、歩きながら、たくさん、話をしてほしかったのだろう。
確かに、ぼくは出来なかった。
ぼくが出来たのは、息子にご飯を作ることくらいだ。
いつかは、それがどんなに大切なことだったか、気が付いてくれるだろう、と思ってきたのだけど、どうも、やはり、目に見える、肌で感じる温もりが必要だったのかもしれない。ぼくの反省すべきところでもある。
何人とか、関係ないし、ぼくはぼくなりに、ベストを尽くしているつもりだけれど、父親として、頼りないと言われればそれまでのことであった。
今日、息子に、
「大丈夫か?」
とメッセージを送ったけれど、返事はなかった。
知り合いのママ友から、
「十くん、昨日までネットが使えなかったから寂しかったみたいね。今日、工事が終わって、ファイバーが繋がって、ネットでみんなと話が出来るようになったから、もうあんまり寂しくないみたいだよ」
と連絡があった。
「大丈夫か?」
に返事がないのは、
「大丈夫だよ」
の証拠なのかもしれない。



つづく。

今日も読んでくださって、ありがとうございます。
ということで、親というのは、いつまでも、子供に気を揉む生き物なのですね。体調が悪くても、忙しくても、大変でも、どのような状況であろうと、いつも、頭の片隅には息子のことがあって、心配をしている、のですから、・・・やれやれ、疲れます。でも、息子が幸せだったら、嬉しい父ちゃんでもあります。はい。
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