JINSEI STORIES

滞仏日記「パパは変わり者だから、面白いでしょ、と言われた。爆笑問題」 Posted on 2022/10/18 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、三四郎は十斗のことを、自分の下に見ている節があり、十斗が来ると、かなり高圧的なちょっかいを出す。
ぼくの方がよく知っているのだから、君はぼくに従ってね、みたいな行動をとるのだ。
靴下を噛んだり、ずぼんをひっぱったり、執拗に追いかけまわして、えらそうにしているのであーる。やれやれ・・・。
夕方、長谷っちがやってきた。しかも、奥さんのコリンヌを連れて・・・。
「ハジメマシテ」
コリンヌは、はきはきした日本語で、挨拶をした。
家の中で着物とか好んで着ている日本贔屓タイプのフランス人・・・。そういう人、けっこう、いるのである。着ている服も、着物の羽織をジャケットにアレンジしたようなものだったり・・・。
「先生、オメニカカレテ、タイヘンコウエイデゴザイマス」
「おおお。日本語上手ですね」
「はい、妻は外語大の出なんですよ。ぼくら学生結婚でして」
長谷川がのろけた。ぎゃあ・・・
なんか、幸せそうなオーラが半端ない。日本のことなら右に出るものがないくらい、日本愛にあふれたコリンヌさんなのであった。
お辞儀をした。楚々としている。
げげ、いるいる・・。でも、長谷っち、幸せそうだ。
そうか、この人、変わり者だけど、いい家庭を持っているんだな、と思ったら、ちょっと長谷川の株が上がった。お子さんはいないようであった。
ぼくらはみんなでメイライの中華レストランへと向かった。

滞仏日記「パパは変わり者だから、面白いでしょ、と言われた。爆笑問題」

※ またまた、三四郎やってくれました。かなり大事なケーブル。これで編集作業は中断中。



ぼくの好物の海老と蟹の入ったフーヨーを注文した。もちろん、他にもたくさん注文したのだけど、メイライのフーヨーが大好き。白ご飯に載せて、醤油をかけてかっこむ、美味い。(あ、写真撮り忘れました)
「もしも、何かある場合は、わたくしに連絡してね。ぼくがお父さんにかわって、対応するからね。大学のことなら、妻も動けるからね」
長谷川が頼もしい。息子が笑顔になった。長谷川が名刺を息子に渡していた。名刺?

滞仏日記「パパは変わり者だから、面白いでしょ、と言われた。爆笑問題」

※ なんか、長谷っち、写真はNGだそうです。ま、よくわかります。編集部のスタッフさんも皆さん、写真は勘弁してください、とのこと。ぼくのブログに名前が載ると、親戚からなんか言われるのだそうです。・・・。あはは。影響力ということでお許しください。あへ。



カフと呼ばれる、学生支援金の申請の仕方などをコリンヌが息子に仏語で教えだした。サイトでチェックすると、息子はフランス政府から月々、3万円貰える。学生にとって3万は大きいね、となった。
長谷っちが、先輩風をふかせて、十斗に大学生活の心得などを語りだした。その横で、コリンヌが笑顔で頷いている。
息子の今回の相談事へと話題が移った。コリンヌも学生時代、アルバイトしながら大学に通っていたようで、「途中で身体を壊してバイトはやめたのよ」と息子に語っていた。
「今は勉学に集中した方がいいわ」
「そうだね、少なくとも、1年、2年は慣れるまで大学に集中して、余裕が出てきたら、またやればいいね。夏休みだけとか」
長谷川ご夫妻の話は彼を励ますものでもあった。
なんとなく、いい関係が築けそうだ。
「長谷川さんはどういうお仕事をされているんですか?」
これはぼくが答えることにした。
「長谷川くんは、小説家を目指しているので、ぼくの元で勉強をしているんだよ。ぼくの仕事を手伝ったりもしてくれる。仕事をしながら、小説を書いて、ぼくがたまに作品を読んで、アドバイスしている」
「十斗さんが学校行きながら、アルバイトをしているのと似てますね。どっちも人生には役立つので」と長谷っち。
「長谷川さんは作家になるのが目標なんですか?」
「ま、そうですけど、もう50歳過ぎていますから、なかなか」
「じゃあ、何が最終的な目的なんですか?」と食い下がる息子。
「というのはぼくの大学、クラスメイトに40歳過ぎの人がいるし、法学のクラスには70歳、80歳の人もいるんです。ぼくの大学は年齢層が広くて。長谷川さんも、今から作家を目指すだけじゃないんだろうな、と思えたので・・・」
「あ、そうそう、それです。もちろん、作家になって本を出したいけど、むしろ、生きることを大事にしたいので、先生の下で、一生勉強かな、と思っています。一生勉強したいんですよ。死ぬまで学びたいんです。先生は作家だけど、ほら、普通じゃないでしょ? 変じゃないですか、独特の哲学が面白いでしょ?」
一同が笑った。え? ぼく、笑われてるのか? あはは。
「うん。パパは面白いです」
「あはは」
「あはは」
コリンヌだけが笑わなかった。



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
いやあ、和みました。長谷川君が目指すところもちょっとわかった気がします。ぼくの周りには最近、物書きを目指したい、という人が本当に集まってきます。でも、ぼくはベストセラー作家や新人賞狙いの作家を育てることはできません。人生を楽しんで、そこに文学があることをよしとする人、を導くのは出来るかな、と思っています。えへへ。

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