JINSEI STORIES

滞仏日記「三四郎を預けた父ちゃん、高度1万メートル上空からの熱血宣言!」 Posted on 2022/10/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、三四郎としばしのお別れをした。
椅子の修復士、マントふみこさんに三四郎を預けに行った。
待ち合わせはいつもの公園であーる。今回は、仮弟子の長谷っちに同行してもらった。
マントさんは、日記を読んでいるので長谷川がどんな人間かなんとなくわかっているようだった。一目、見た瞬間、
「まあ、あなたさんなんじゃね。仮のお弟子さんじゃと聞いとります」
と言った。(マントさん、70代半ば、どすのある声なんです。ごめんなさい。岡山出身?憧れます)
ここはちゃんとご紹介をし、ぼくがいない間の仲介を長谷っちにやってもらわないとならないので、その辺のことも含め、三人で、あ、いや、三四郎も含め、三人と一匹で、カフェーで話し合いとなった・・・。
「至らなぬところもあると思いますが、一生懸命、先生とマントさんとの間をつなぐメッセンジャー・ボーイをやらせて頂きます」
いちいち堅いのだけど、そこは長谷っちのチャームポイントなのか。(どんなチャームポイントやねーん。ま、真面目で硬いのはいいことである)
ぼくが不在時に、どうやって三四郎の受け渡しをするのか、その辺が焦点となった。
マントさんは、ずっと面倒みますよ、ということだったが、気分転換やご自身のこと、椅子の修復作業もあるだろうし、とりあえず、ウイークデイの日中は長谷っちが事務所で三四郎の面倒をみながら事務仕事をこなすことになった。
朝、8時半、三四郎を散歩の途中、公園で受け渡し、夕方、18時半、長谷川の仕事終わりで、再び、散歩の途中、公園で受け渡し、という流れ・・・。
「8時半、早くないですか?」
とぼくが訊いたが、二人とも5時には起きているということで、あはは、早朝問題は解決。
三四郎がいない間、マントさんはご自身の仕事をする、という段取りである。週末、土日は48時間、マントさんが三四郎を預かることになった。
ということで、三四郎とは一月ちょっとのお別れ。ぎゅっと抱きしめたが、遊びと勘違いしたさんちゃんは、パパしゃんの腕を甘噛みしてじゃれておった。
おお、みにょーん。(可愛い、の仏語)
「大丈夫ですよ、三四郎ちゃんは、ぼくとマントさんとできちんと面倒をみさせて頂きますので、先生は、しっかりと映画を完成させてきてください」

滞仏日記「三四郎を預けた父ちゃん、高度1万メートル上空からの熱血宣言!」



タクシーに乗って、シャルルドゴール空港を目指した。
すでに、三四郎ロスだったが、ブルーになっている暇もない。
数日前から、福岡の助監督やプロデューサーから次々に質問が届いていた。
映画音楽を担当する息子に電話をした。
「あのね、今朝、君が作った音楽を聴き直したんだけど、ちょっと、違うんだよね。昨日はいいかな、と思ったのだけど、新しい気持ちで映像にあわせてみたら、違っていた。最後のテーマ曲はよかったよ。もうちょっと頑張ってみようか?」
「おっけー」
音楽プロデューサーのロブソンにも電話をした。
「さっき、11曲、全部聞いたんだけど、ぼくはアローンのギターソロがあまり好きじゃないんだ。ごめんね、はっきりと言って。でも、納得できないものは発表出来ないから、わかってほしい。バイオリンのマリオに、そこを演奏して貰ったらどうだろう? とにかく、やり直してもらいたい。ギガファイルで送ってくれ、チェックする」
「もちろんだよ。おっけー」
それから、映画のプロデューサーにも苦言を呈した。中身は言えないけど、ぼくは厳しいのだ。でも、どっかで妥協した作品はいつも結局、もやもやが残ってしまうのだった。
「あと三日なんだ。厳しいことを言うようで申し訳ないが、プロの仕事をしてほしい」
グループLineなので、オッケー、とは聞こえてこないが、ぼくが怒ったことに対し、録音のジフクさんから、「お気をつけて来福してください。笑顔で会いましょう」とコメントが戻ってきた。じわ~。
父ちゃんは仕事の鬼だから、こういうコメントにいろいろと気づかされる。
よっしゃー、熱血だぁ。
そうだ、ここから一月、コロナで中断していた映画が3年ぶりに復活し、完成をするのだ。倒れても撮りきり、完成させないとならない。福岡の人たち、中洲の人たちとの約束なのだ。気管支炎からの肋間神経痛だが、やったるで~。熱血!!!

滞仏日記「三四郎を預けた父ちゃん、高度1万メートル上空からの熱血宣言!」



飛行機の搭乗ゲートの手前で、航空機会社の現地スタッフさんが、
「辻さん、オランピア劇場、ぜひ、成功させてください。実現させてください。応援しています」
とおっしゃってくださった。
いや、まだ、確定じゃないんです、と心の中で、言いかけた父ちゃんだったが、ここは気合いを入れた。
「はい、がんばります」
と答えてしまったのだ。(すいません。勢いで言いましたが、まだ、わからないの、とほほ。だんだん、近づいてはいます。もう少し待っていてください)
でも、フランス在住の日本の方が、そうやって、こぶしを握り締めてくれたのだ。ぼくは期待にこたえたい。日本を盛り上げたいじゃないかぁ。
人生の最終コーナーを派手に曲がってみせたいのであーる。えへへ。
やったるでー。
ということで、もうすぐ、当機は博多に到着なのであーる。
まずはクランクアップに向けて、全力疾走じゃあ。気管支炎も治り、肋間神経痛もおさまった。人生は一度しかないやん。
今、やらんで、いつやるとや。63歳の父ちゃんよ!

滞仏日記「三四郎を預けた父ちゃん、高度1万メートル上空からの熱血宣言!」



つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
高度、1万メートルから失礼いたします。三四郎も息子もそして応援してくださるみなさまにも、ぼくは元気でなきゃいけないんだな、と思っています。ステロイドをひと月飲んでましたから、ちょっと顔がむくんでいますが、心は元気です。まもなく、九州入りしますので、博多の皆さん、よろしくっす。明太子パワーもらいます!あはは。

地球カレッジ

滞仏日記「三四郎を預けた父ちゃん、高度1万メートル上空からの熱血宣言!」



自分流×帝京大学