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退屈日記「近づいた(だんちゅうでござる)料理会、25人分の料理を総点検の巻」 Posted on 2022/11/17 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝からガンガン電話とラインが飛び込んできた。いよいよ明後日になっただんちゅう(dancyu)の料理会の準備に関する連絡であった。
「辻さん、何時入りされますか?」とスタッフさん。
「ええと、18時からだから」とぼく。
「ちょっと尾身さんに確認してみます」
すると今度は尾身さんから、「電話いただけますか?」というメッセージ。尾身さん、かなりスピード感のある人なのだ。もの凄い勢いで話されるので、遮るのが大変なのだった。
「辻さん、辻さん、辻さん」
と三回、必ず、会話の前に名前を呼ばれる。ですですです、みたいな速度感である。
「はいはいはい」
とこたえた。昨日、映画が終わったので、のんびりしていたので、不意に、嵐。
「ジロール茸は栽培農家さんからゲットできました。400g。それからヒラタケも400g、北関東のシェフの手作り玄米パスタ、シェフさん喜んでいらっしゃいました。あと豊洲に行って剥き栗のいいやつをゲットできました。ウイキョウも最高級をゲット。他何か季節野菜必要なものがあれば、今すぐ、言ってください」
今すぐか、なにかな、と悩んでいると、
「白イカ2,5キロ、豊洲市場から届きます。そのほかの具材も辻さんの指示のものはだいたい揃いました。何かほかに必要なものがあったら、今すぐおっしゃってください」
「ええと」
・・・かなりのプレッシャーである。
「あ、辻さん辻さん辻さん、明日、何時に入られます?」
「あ、ぼくは、ええと、会は、何時からでしたっけ?」
「18時からですから、準備もろもろ、辻さんの指示がないと私たち動けませんので、そうですね、2時入りでどうでしょう? 17時にはお皿を並べないとならないし、6皿ですからね、2時かな。他に何か必要なものがあったら、今、おっしゃってくださいね。なんでも、迅速に動いて、辻さんを少しでも楽にさせられるよう、尾身チームベストを尽くさせて頂きますので、それでは!!! 」
電話が切れた。
10年来の友人で、なんとNHKの料理の先生でもある尾身さん、ぼくのイベント、たとえば前回のだんちゅう祭りの豚汁500皿作ったのも尾身さんチームなのであった。何度も、ディナーライブでぼくを支えてくれている。
父ちゃんも相当な熱血マンだけれど、尾身さんには敵わない。千馬力のスクーター。
ということで明後日、2時入りが決まった。

退屈日記「近づいた(だんちゅうでござる)料理会、25人分の料理を総点検の巻」



いつまでも病人でいるわけにはいかないので、明後日までには顔の腫れもなんとかする。(冷やしてはいけないのである。理由はわからないけれど歯科衛生士さんに言われた)
今日、明日、ちょっと準備をする。パリからこのために持ってきた各種スパイスの調合とか、味をよりおいしくするための実験を重ねるつもり。薔薇のエキスを手に入れたので、これも使いたいなぁ、と思って、キッチンでごそごそ研究を始めた父ちゃんであった。
「辻さん、歯の状態は本当に大丈夫なんですか? 土曜日、大丈夫なんですか?」
今度は、植野編集長からラインが飛び込んだ。
「大丈夫です。あの、赤いエプロンありますか? ぼくは熱血の赤で勝負したいんです」
「わかりました。赤いだんちゅうのエプロンがありますから、それを持参させて頂きます」
よし、目標ができると、やる気が出てくる。
人間、やる気が出てくると元気になる。これは、人生の鉄則なのである。
目標を持つこと、そこへ向かう喜びをかみしめること、するとやる気が湧き出て、元気になる、という運気アップ流転の法則なのであった。
どんどん、目標を作ったらいいと思う。大中小、様々な目標を持ち、一つがダメでも、次へシフトし、モチベーションをアップ維持させていくこと。
目標がある時は、人間誰もが、ウキウキする。成果よりも、達成へと向かうまでのこの途中経過こそが人生の醍醐味なんだとぼくは思っている。
オランピア劇場でのコンサート、プロモーターのベルトランから、ぴたっと返事が止まってしまったが、それでも、この待っている時間には未来がある。でしょ?
ダメでした、となると、もう希望がなくなってしまうが、返事がないのはいい証拠である。可能性が0じゃないかぎり、希望はある。
結果が出るまで、誰もが未来を持っている。
いくつもの目標を持てばいいのだ。そこに向かって、努力をすることが、未来、なのである。希望、なのである。
過程を楽しんでこその成功だとぼくは考えて、いつもウキウキ、ワクワクを大事にしている。今、ぼくはスイッチが入った。よーし、明後日やったるで。
暗くなって凹んでいても誰も助けてくれないので、ぼくは自家発電で明るめに生きるのだ。
とりあえず、映画が終わった。次は19日のだんちゅうの料理会ということになる。25名のお客さんに、感動を届けたい。
合言葉は熱血!

退屈日記「近づいた(だんちゅうでござる)料理会、25人分の料理を総点検の巻」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。

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