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滞仏日記「プロモーターでお父さん仲間のベルトラン、独特の子育てについて語る」 Posted on 2022/12/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、「ちょっと、時間変更できるかな。前のランデブーが早く終わりそうなんだけど、よければ15時半に」
プロモーターのベルトランからメッセージが入った。
急いで着替えて、指定されたカフェに顔を出すと、すでに、ベルちゃんはいて、机の上にパソコンやノートを広げている。まるで自分の事務所みたいになってるじゃないかぁ。
「ごめん、時間変更」
「いいよ。忙しいしね」
「いや、子供たちをモンパルナス駅までおくって、早い電車に間に合ったからちょっと時間ができちゃったんだよ。すまん」
「え? お子さんたち、田舎に住んでいるの?」
「いや、元妻の家が・・・村にある」
ベルトランが、ぼそっと告げた町の名は、ぼくが住んでいる村のすぐ隣にあった。観光地・・・。マジか!
「ベルトラン、ぼくの家、すぐ隣村にあるんだだよ、びっくりした」
ベルトランは離婚をした元奥さんとの間に17歳の男の子と14歳の女の子がいる。
元嫁さんは田舎でブティックを経営しているのだという。写真を見せてもらったけれど、かわいいアフリカ系の小物を売っている。ベルちゃん、カメルーン人なのである。
「どのくらいの頻度で会っているの? 子供たち」
「一週間交代だよ。今週はぼくが担当だった」
実は、おとといベルちゃんと約束をしていたのだけど、風邪ということですっぽかされた。実は子供たちの面倒をみていたのだな、とぼくは察した。まぁ、いいよね。
フランスは離婚をしても、子供が18歳になるまで共同親権で、親が交代で子供の面倒をみるというのが一般的だ。親権を奪い合うなどということはない。
自分のことをちょっと考えてみた。ぼくが親権を持っている。でも、本来、子育ては両方の親がそれだけの時間を割いて、受け持たないとならないはず。フランスの法律は、子供たちの権利を守っている。
「じゃあ、子供たちは田舎とパリを毎週行き来しているの? それ大変じゃん」
オランピアの話には、なかなか進まない。あはは。

滞仏日記「プロモーターでお父さん仲間のベルトラン、独特の子育てについて語る」

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ぼくらは子育ての大変さについて、語り合ったのであーる。
「いやいや、今回は子供たちが少しのあいだ、元嫁の実家に行くというのでモンパルナス駅までおくったんだけど、普段はそうじゃない。ちょっとうちは複雑な仕組みで暮らしている。実は、パリ市内に、小さなアパルトマンがある。息子と娘はそこにいる。彼らは移動しない。移動するのはぼくら、親なんだ。ぼくが一週間そこに行き、ぼくが終わると、元嫁がそこに行って彼らと暮らす、そういう生活」
「マジか、大変だね。え? ということは、君と元嫁さんはそれぞれ別に住んでいる家があるってこと?」
「その通り。合計、三か所あって、ぼくの家、元嫁の家、子供たちの家。子供たちは学校があるから、移動させるわけにはいかないので、ぼくらが移動している」
「うわ・・・」
ニコラとマノンの場合、両親が離婚して以降、彼らは一週間おきに父親、母親の家を行き来しているのだ。だから、離婚をしても、そう遠くないところで親は生活せざるをえない。これがフランスの離婚の実態だけれど、ベルトランたちは、子供たちの家を借りて(買ったのかもしれない)そこに子供たちを住まわせ、二人が行き来している、というのである。それだけ、負担も大きい。でも、子供たちは気が楽だ。
「大変だけど、子供たちは雑音を感じないで、今まで通り親と過ごせるので、このスタイルが気に入っている」
なるほど、そういうことか・・・。つまり、ベルトランにも元嫁さんにも新しいパートナーがいるということだ。
ニコラとマノンは、両親の新しい相手とも毎週会わないとならない。それが嫌だと、マノンが愚痴っていたっけ・・・。

滞仏日記「プロモーターでお父さん仲間のベルトラン、独特の子育てについて語る」



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十斗の場合、日本の法律で離婚が成立したので、というのも、フランスの法律で離婚をする場合はもの凄く時間がかかるのだ。裁判になると何年も離婚が出来ない。でも、日本の法律だと離婚届けにサインをすればすぐに成立する。ぼくは離婚に反対をしたのだけど、・・・。親権はその時に決まった。
どっちの法律がいいのか、ぼくにはよくわからない。
「ベルトラン、じゃあ、一週間おきにお父さんをやってるんだね」
「そうなんだ。すまない。だから、いろいろと迷惑かけてるよね」
「ぜんぜん」
そこに遅れてマネージャーのMMがやってきたので、ぼくらはオランピア劇場でのライブについての話し合いへと話題を変えた。
MMは主に音楽と映像の方を担当している。
「ちょうどよかったです。今、アップルミュージックで視聴が出来るようになりました。ほら」

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「へ、すご」
ぼくのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」がまず先陣を切って、iTunesでの視聴がスタートしたのである。そこはカフェだったが、ベルトランのパソコンで訊いた。どの曲も無料で1分半ほど聞ける。知らなかった。ほとんど、聞けちゃうじゃん、と思った父ちゃん・・・。あはは。
SpotifyとかiTunesに加入している人は購入しないでもただでフル聞き出来るし、もちろん、アルバムを買って携帯に入れて好きな時に聞くことも出来るのであーる。
CDがない世界がついに到来したのだ。ってか、とっくに到来していたのだった。えへへ。
今の子供たちはCDを知らない子もいる。ニコラとか・・・。
「全世界の音楽配信プラットホームで12月10日に訊けるようになるんですよ」
「いいね。オランピアが見えてきた」とぼく。
「ああ、なんか、迫って来たな。がんばろう」とベルちゃん。
このあと、音響さんや、別のスタッフさんも合流してツジ・オランピア会議がスタートしたのであった。よっしゃ~。
さ、皆さん、ご一緒に、
「合言葉は熱血~」
父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン(11曲)」を聞き齧りしたい皆さん、こちらの再生ボタンをどうぞ~。※アルバムの予約も同時にはじまっています。



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、先陣を切ってItunesで無料視聴がスタートしています。せっかくだから、聞いてください。ECHES時代の曲、アローン、友情、東京、ZOO、シルビアなどは、時代を超えて蘇っていますので、お楽しみに!
さて、12月22日はいよいよ、今年最後の地球カレッジ。今回はスペシャル版で、パリ市内中心部からぼくが暮らすカルチエ(地区)まで、ブラツジ散歩をさせてもらいます。とくに仕掛けもなにもない、冬の散歩道です。行きつけのカフェに立ち寄ったり、マーシャルの八百屋で野菜を買ったり、ケーキ屋さんでクリスマスケーキをピックアップしたり、何もおこりませんが、ぶらぶらしたいみなさん、生配信での散歩お楽しみください。詳しくはこちらの地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ



滞仏日記「プロモーターでお父さん仲間のベルトラン、独特の子育てについて語る」

※ オランピア劇場ライブ、チケット発売中でーす。フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

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