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退屈日記「おせちはどうするか? 今この瞬間を生きるぼくの偉大な悩み」 Posted on 2022/12/29 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今年のおせちは「どうしよう」か、悩んでいる。
息子は31日の夜から1日いっぱい、いつものウイリアムやアレクサンドルらとカウントダウンからずっと一緒に過ごすようで、早くから「正月は帰らない」宣言! 
どうやら、新年を三四郎と二人で迎えることになりそうなのであーる。
しかも、暦的には2日が月曜日だから、大学も世の中も早々とスタートするフランス。わずか、一日のために「おせち」を作るのも、どうなんだろう・・・。
長谷っちも事務所をやめたし、スタッフの皆さんは海外とかに行くだろうし、引っ越したから、ピエールやアドリアンの家からちょっと遠くなったし、田舎に行く手もあるのだけど、あそこ、冬はめっちゃ寒いし・・・。あはは。
2023年用「おせち」問題が勃発しているのである。「ひとりおせち」でも作ろうかな、と構想中の年の瀬なのであった。
さて、今日はパーカッショニストのジョルジュを夕食にお招きした。実は、ちょっと問題があって、そのことを話しあう必要があった。

退屈日記「おせちはどうするか? 今この瞬間を生きるぼくの偉大な悩み」

退屈日記「おせちはどうするか? 今この瞬間を生きるぼくの偉大な悩み」



ジョルジュは三年前、コロナが始まる直前のライブで初共演をし、意気投合。バンドに参加してもらった。
その後、コロナがありフランスの音楽シーンはストップしたが、コロナ禍でもオンラインなどでぼくらの活動と友情は続いた。
ところが、今年、彼はフランス音楽アカデミーの2022年度最高パーカッショニストに選ばれてしまう。
米国の奇跡のジャズボーカリストと呼ばれるメロディ・ガルドーに気に入られ、数か月の全米ツアーに出たり、欧州や米国、南米などで引く手あまたの人気者になってしまい、ぼくとの活動にかなりの時間的制限が出てしまった。
その上、彼のギャラが跳ね上がり、その高額のギャラをプロモーターのベルトランは払えない、というのだ・・・・。
でも、ぼくにはどうしても必要な存在なのだった。
彼には音楽の神様が宿っていて、ステージに上がれば、オーラが凄い。
一瞬、調子悪いな、と思う瞬間も、ジョルジュを振り返ると、そこには燦然と輝く笑顔が待ち受けていて、不調は一瞬で好調にかわる、のである。マジ、すごいんだよね。メロディー・ガルドーも同じことを言ったらしい・・・。
そんなミュージシャンはなかなかいない。唯一無二のパーカッショニストなのである。
ぼくは日本の唐揚げが好きなジョルジュのために、いつものごとく、居酒屋スタイルの料理を作って、ふるまった。
三四郎はアドリアンにも負けないほど、ジョルジュに懐いていた。
もう、彼がやってきたその瞬間からピタッと寄り添い離れないのである。
この子犬は何か見えるのかもしれない。ぼくが大好きな人間には同じような行動をとる。ジョルジュの膝の上、背中、足元から動かなくなった。あはは。
交渉をするためにマネージャーのMMがやってきた。
ぼくらは、食事を中断し、一瞬テーブルにつき、真剣な話し合いを行った。
ジョルジュはぼくのために、5月29日のスケジュールをあけてくれた。リサーサルは2回、ということだった。やってくれるだけありがたいのだけれど、ぼくにとってとっても大事なオランピアでのライブ、たった2回の練習ではどうにもならない。
びっしり、10日間ほど、朝から晩までリハーサルをやってもらう必要がある。
そのことを、ぼくの語彙力を駆使して、彼に説明をした。

退屈日記「おせちはどうするか? 今この瞬間を生きるぼくの偉大な悩み」

「ギャラに関しては、プロモーターが出せないなら、それはぼくがなんとかする。でも、お金じゃなく、時間と情熱がほしい。君は最高のパーカッショニストだから2回でも十分だろう。でも、ぼくはボーカリストで、オランピアははじめて。最低でも一週間、七回はびっしり練習をしなければならないんだ」
真剣な目でぼくを見ている。彼の膝の上には三四郎が乗っていた。
MMがスケジュール、予算に関して、かなり突っ込んだ話をしはじめた。
彼の前には美味しい唐揚げが、鮭のおにぎりもある。他に牛肉のパスタとか、ジャガイモのサラダとか、ええと、焼き枝豆とか、いろいろと作った。その料理をじっとジョルジュは見降ろしていた。
MMがオランピアライブの成功を足掛かりに欧州で展開をしたいという長期プランを必死でジョルジュに説明している。仏語が難しくて、ぼくにはわからない。わかったふりをして、おにぎりを食べていた。
「ツジー、カラアゲ、オイシイデース」
とジョルジュがいきなり日本語で言った。
「オニギリ、サイコウデース」
彼が知っている数少ない日本語であった。
「わかった。ぼくは辻をリスペクトしている。なんとか一週間びっしりスケジュールをあけるように調整してみる。ぼくのスタジオと相談をしてみる。ツジー、心配するな。ぼくは君の横にいるから」
ぼくは、その言葉に力強い安心を手に入れることが出来た。
「一つ、聞いていいかい? 君は何が将来の目標なんだね?」



ぼくは答えるのだった、拙い仏語で・・・。
「ジョルジュ。君もぼくもいつか死ぬ。成功やお金や勝利は意味が少ない。意味があるのは永遠にある現在なんだよ。この日々の瞬間瞬間を最大限に生き切ることだけが、生き物の本当の目標なんだ。その瞬間の連続が永遠を作っている。ぼくにとってオランピアまでしか、今この瞬間、頭の中にはない。そのイメージが今を作っていて、明日へと向かうエネルギーになっている。その先にあるものはその先にしかわからないのが、ぼくの人生なんだ。先々を考えず、ぼくは全力で創作をする。創作をし終えないと、その先のことは見えない、永遠の現在に生きているからだ。将来というのは今日を精一杯生きた時にだけ心に宿る安心なんだよ」
年の瀬の28日、大事なミーティングになった。一週間を彼が確保してくれた。
ぼくは前進をする。
最高のライブにして、オランピアのステージの上で輝きになるのだ。
合言葉は熱血、そして、愛、なのである。

退屈日記「おせちはどうするか? 今この瞬間を生きるぼくの偉大な悩み」

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つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
こういうあまり、大きな声では言えないような小さなトラブルが父ちゃんの周辺にはごまんとあります。ジョルジュは故郷ブラジルに家を買いました。フランスで仕事をすると忙し過ぎて頭が爆発しそうになるから、この先は奥さんとブラジルに戻り、そこを拠点に世界と向き合うそうです。彼とも、一緒にやれるのは数年でしょう。先のことはわかりませんが、ぼくは彼にいいました。「今日はありがとう、忘れられない日になったよ」と・・・。
さて、次の地球カレッジは、来年の1月29日、日曜日になりました。参加を希望される皆さん、以下をご参照ください。
「エッセイの書き方教室、第1回」
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ



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父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、実は、炭火焼き鳥との相性も抜群なんです。このアルバム聞きながら、喰らいつく焼き鳥はもう、超・ソウルフルですからね。ブレス鳥の弾力に負けない、父ちゃんの音楽、跳ね返りますよー。
焼き鳥屋が成功しそうな野本が羨ましい父ちゃんですけど、ジャパニーズソウルマンも、がんがん聞いてもらいたいものです。


https://linkco.re/2beHy0ru

それから、来年、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。
パリ・オランピア劇場公演のチケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/

自分流×帝京大学