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滞仏日記「おせちの残りもの弁当が実にうまそうなのである」 Posted on 2023/01/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、元旦の夜に息子がやって来たので、大晦日に用意していた食材を総動員して、笑、簡易おせち重二段重ねを作ったのだった。
簡易おせちとはいえ、そこは父ちゃんですもの、なかなかの本格派なのであーる。
今年「おせちは作らないよ」宣言をしていたが、息子が来る、というのであれば、家庭の味を与えてやりたいじゃーあーりませんか、の親心一心であった。
「最近、マックしか食べてない」
と言い張る息子君である。かわいそうだけど、学生付き合いもあるし、マックのフィレオフィッシュ、ぼくは好きだよ。
先月はカードのハッキングにあい、(カード被害はほぼなかったのだけど)2週間近く、切り詰め生活を強いられた息子くん。(その期間、父ちゃんに泣きつかなかったのは、偉い。息子をきちんと褒めるのが父ちゃん主義。褒めて育てる。えへへ)
で、重箱の下段は「チラシ寿司」にした。お弁当にして翌日も食べられるので、これは便利であった。
重箱の上段には「昼間にNHK用に作った新作ローストビーフ、ガンバス(巨大海老)、黒豆、蓮根、野菜」などなど、縁起物を詰め込んだ。
黒豆は日本から持ち帰ったのだった。どんな時も、どんな時も、♪、いつも準備を怠らない父ちゃんなのであーる。
どうじゃあああああ! 祖国の味である。

滞仏日記「おせちの残りもの弁当が実にうまそうなのである」

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滞仏日記「おせちの残りもの弁当が実にうまそうなのである」

※ 焼く前のお肉。表面に胡椒類をまぶす。フライパンで焦げ目がつくまで焼いて、オーブンにいれて、10分から15分!

滞仏日記「おせちの残りもの弁当が実にうまそうなのである」



しかし、こんなにあるのに、だいたい食べきった息子と父ちゃん。残ったのはお弁当に詰めたので、食品ロスなし。酢飯が美味しく出来ると、嬉しいですね。
「久しぶりに美味しいご飯を食べたよ」
と息子君に、褒められて、天にも上りそうな父ちゃんだったが、その時、息子が最近、自分で作ったという「とんかつ定食」の写真をみせられた、おおおお、すごい!!!
「これ、自分で作ったの?」
「作った。ポテトサラダもパパのを思い出しながら、見様見まねで」
「すげ。とんかつ、美味そうに揚がってる」
「豚肉に、ハチミツを塗って揚げてみたんだ」
「は~? ハチミツ?」
「うん。ハチミツが大量にあまっていたので、衣をつける前にハチミツを塗ってから、衣をつけたの」
「なんで?」
「なんでって、甘味が合った方が美味しいかな、と思ってさ」
「で?」
「めっちゃ美味しかった」
辻家のBTSがこのようなことを言った。
髪の毛を綺麗にカットして、さらにBTSっぽくなっていた。昔から通っている(前の家の横の)馴染みの美容師さんにカットしてもらったのだとか。KPOP、フランスでも大ヒットしているからね・・・。
「どんな味か、想像できない」
「いや、味噌だれを作ろうと思ったんだけど、味噌がなかったのね。で、味噌だれって、ちょっと甘いじゃない?(甘い? ううむ) で、ハチミツを塗って揚げたら甘いに間違いないでしょ? そしたら、めっちゃ美味しかった」
おお、蛙の子は蛙なのであった。
「ポテトサラダも美味そうだね」
「うん。食後は、パパに貰ったコーヒーマシーンで、美味しいコーヒー淹れた、最高」
おお、なんだか、ちゃんとやっているじゃないか。
そうかそうか、自立出来てきているのね・・・。
「安心したよ」

滞仏日記「おせちの残りもの弁当が実にうまそうなのである」

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ということで、今日は二日目、ちょっとだけ自分の分のチラシ寿司とお肉を残しておいた。父ちゃん弁当を作っておいたものを、昼と夜に頂いたのだった。
おせちの残り物を正月の2日に食べる、これぞ、「一人おせち」の醍醐味であった。
で、ご覧いただきたい。この一人飯弁当のなんとみすぼらしいけれど、美味そうなことか・・・。
どうじゃああああ!

滞仏日記「おせちの残りもの弁当が実にうまそうなのである」



だいたい、大海老というのは人気がない。若者は剝くのが嫌いなのである。ちなみに、父ちゃんも嫌いだ。
でも、こうやって前の日に剝き剥きしてお弁当の中心にどんと置くと、ほら、めんどうくさくないし、食べたいでしょ? 
ちなみに、チラシ弁当。肝心の刺身はごはんの中に混ぜこんである。掬うと、中からいろんな刺身が出てくる、仕組みである。
ちょこっと残ったお肉とかごぼうとか、この残り物のなんと美味しそうなことであろうか・・・。チラシおせち、これは正解なのである。
長旅に出る前に、冷蔵庫の中のものは、全部、始末をしないとならないので、明日は本格的に整理してから、旅立つことになるでしょう。
まもなく、パリを離れ、一人と一匹旅に出る父ちゃんと三四郎なのであった。珍道中、お楽しみに!!!

つづく。

読んでくれてありがとうございます。
結局、おせち、作ったんじゃないか、とそこで嘲笑中の皆さん、いいでしょ? 日本の心、おせちですからね、縁起物ですからね、2023年は飛躍の年にしないとならない父ちゃんと息子君なんでした。めでたし。息子くん、7日の夜に200人くらいを前に歌うらしいので、そのイベント、行ってもいい、とさりげなく聴いたら、迷惑そうな優しい微笑みで、スルーされてしまったのでした。蛙の子は蛙~、息子よ、熱血でいけ。

そして、地球カレッジからのお知らせです。
今月の文章教室は1月29日になります。この前には長旅から戻り、きちんと準備をしますから、ご安心ください。
皆さんから届いたエッセイは旅先で少しずつ、楽しく読んでいきますね・・・。

「エッセイの書き方教室、第1回」
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ

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続いて、音楽のお知らせです。
父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はこちらです。ほとんど無料に近いですので、思う存分楽しんでください。音楽が危機的な状況ですけど、ミュージシャンたちは頑張っています。いえー-す!


https://linkco.re/2beHy0ru

それから、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。
パリ・オランピア劇場公演のチケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

5月30日 辻仁成 オランピア公演記念 『感謝!Merci!』 トーク&ランチ会 《追加設定》


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