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滞仏日記「あなたがいつも心に持っているものはなんですか?」 Posted on 2023/02/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ジャーナリストのマチューさんの取材を受けた。といっても、質問がメールで届き、ぼくがそれにこたえていくというコロナ時代形式のインタビュー。
小説が出るたびに取材に応じてきたけれど、ミュージシャンとしてはフランスで取材を受けるの、初めてだった。
「ひとなり、という名前を選んだのはなぜですか? 」
という質問もあった。
「親に聞いてください」
と回答しておいた。
仏語を頂き、これを翻訳機にかけ、細かくリライトし、それからマチューさんに送りかえすのである。手間がかかった・・・。
deeplという無料の翻訳機、なかなかセンスがいい。ピエールやベルトランとのやり取りも全部、deeplなのだ。
「ECHOESのバンド名はピンクフロイド由来でしょうか?」
というマニアックな質問もあった。
「あなたの声は、ステファン・イーチャーやマノ・ソロを思い出させます。フランス語圏のアーティストはお好きですか?」
というのもあって、この二人がどんなアーティストか知らなかったので、ごめんなさい、勉強不足で知りません、と答えた。慌ててYouTubeで調べたら、有名な人たちで、確かに、この、マノ・ソロという人の声は似ているかも・・・。笑。だけどね・・・。
マチューさんはぼくのことを知らないから、実に多岐にわたって質問を繰り出して来る。
「フランスからどんなインスピレーションを受けましたか?」
ぼくは考えて、こう返事をした。
「一番インスピレーションを受けたのは、フランスのデモ。しょっちゅうデモしていて、そこが人間的です。次が、バケット、あと、セーヌ川かな。ノートルダム寺院にも少し影響受けました・・・」
こんな回答でいいのだろうか、と悩みながら、15質問を答えた父ちゃんであった。
あはは。オランピア、ほんとうに、大丈夫だろうか。

滞仏日記「あなたがいつも心に持っているものはなんですか?」



ともかく、作家のぼくについては、ちょこっと知られているようだけれど、ミュージシャンのTSUJIは誰も知らない。だから、こういう取材が続く。
でも、だいたい、昔受けた小説のインタビューと似ていた。
なぜ、パリに移住したのか、フランスをどう思うのか、小説、音楽、映画という表現方法を持つのはなぜ? 
今日は、悩みながら、多くの時間をこのやり取りに費やしてしまったのである。
つまり、フランスでミュージシャンとしては無名のぼくが、オランピア劇場にどうやって人を集めていくのか、が大事なのである。
ぼくは参加しなかったが、今日は全スタッフが、事務所で作戦会議をやった。
屋根裏部屋でサクレクール寺院を見ながら、ぼくは一人、歌の練習をやった。
足元には三四郎が・・・。
パリにも、関西ウオーカーやぴあのようなイベント情報雑誌があって、そこと連動をして、広めていくのがベストらしい。ほほー、そうなんだ。
ベルトランが中心になって、この辺の調整をしている。
広報担当のサラはマチューさんのようなジャーナリストにぼくの情報を伝えていく係だ。
その中で、ぼくのこと、気になった人たちが取材をしにくる。

滞仏日記「あなたがいつも心に持っているものはなんですか?」

※ 今日、父ちゃんの部屋の窓から見えたサクレクール寺院だよ~、美しいね。「不可能というものは、不可能と思った瞬間に生まれます」



果たして、こんな感じで、フランス人がライブにやって来るかわからないのだけれど、笑、とにかく今は、熱血で、全部、やるしかない。
ぼくにできることは、オランピアで最高のライブをやること。
不可能だと思っていたライブが決定し、チケットが売り出され、フライヤーが出来、ディープフォレストのゲスト出演が決まり、取材が始まった。手ごたえはある。
なんだかわからない日本人がオランピアでライブやるらしい、というのを、この春、パリで広めるべく、ベルトラン一味は今、必死で暗躍しているのだ。がんばれー!!!
「あなたがいつも心に持っているものはなんですか?」
「熱血です。不可能というものは、不可能と思った瞬間に生まれます。ぼくは不可能という壁を今日までずっと乗り越えてやってきました。熱血の精神がぼくの創作の根底にあるんだと思います」

滞仏日記「あなたがいつも心に持っているものはなんですか?」



「熱血というのは、誰もが持てるものじゃないですよね? あなたはどうやって、持ち続けているのでしょう?」
「人間はどうやって夢の扉を開きますか? 夢を持ったから動くという人がいます。ぼくはその逆で、まず、動いて、その扉を必死で開けるタイプなんです。熱血というのは、まず行動があって、それから夢を手に入れることだと思ってます。じっとしていても無名の日本人がオランピアでライブなんかできませんよね? 有名になったら出来るだろうと思って、そうやって、時が流れていく。フランス人でさえもできないんだから、じっとしていたら、それこそ夢は夢で終わります。ぼくはまず必死で動いて、オランピアの扉を開けたんです。熱血があれば、夢は必ず手に入れることが出来ると信じています」

滞仏日記「あなたがいつも心に持っているものはなんですか?」



今日も読んでくれてありがとうございます。
人間って、エスカレーターに乗っているような人生だから、キャリアを積んでいくと、その場所では約束されて、自動的に出世し、年相応に偉くなっていくんだけど、父ちゃんはそういうエスカレーターには最初から乗ってないので、いつも、裏にある非常階段をコツコツと昇っていくタイプでした。あはは。でも、それのいいところは、63歳にもなって、まだ新人でいられるということなんです。大御所になって自慢とか昔話とか説教とかしているのは、自分らしくないので、新人で、いたいですね。もうちょっと・・・。

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滞仏日記「あなたがいつも心に持っているものはなんですか?」



さて、父ちゃんの5月29日のオランピア劇場でのライブ、直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。FNAC(フナック)でも買えます。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/

そして、新作「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分) 放送時間のお知らせです。
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送
さらに、
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」の再放送が決まりました。
【NHK BSプレミアム】 2月12日(日)12:30〜13:29
(初回放送 2022年9月23日)
お知らせ多すぎますね・・・。メモしておいてねぇ。えへへ。

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