JINSEI STORIES

滞仏日記「オオオ、朝陽に染まる黄金色のモンサンミッシェルが凄すぎる~」 Posted on 2023/03/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、爆睡し、瞼をノックする何者かによって、ぼくは夢の中から呼び戻された。
それはモンサンミッシェルの朝陽なのであった。
おおお、眩い!!!
カーテンの隙間からもの凄く眩い光の筋が、ぼくの目を直撃していたのだった。
飛び起き、カーテンを思いっきり、開いてみたのだ。すると、目の前に広がる黄金の世界が出現した。おおお!!!!!
昇る太陽がモンサンミッシェルを黄金色に染めていたのである。
これは、すごい。撮影に行かなきゃ・・・。
朝陽はまったなしなので、寝ている三四郎を起こし、もたもたしている暇もなかったので、とりあえず、ぼくはとるものもとらず、カメラと携帯だけ掴んで、一人、部屋を飛び出したのであった。
「え? どこにいくの? パパしゃん」
という顔を三四郎がしてみせたが、起き上がる気配はない。足を延ばしてあくびをしている。
「すぐに、戻る。待っとけ、さんちゃん」
言い残して、ホテルを飛び出した。
朝の6時半であった。
石段を駆け下り、石の回廊を突き抜けると、モンサンミッシェルを囲む城壁に出た。
そこはサンマロの城壁と同じような構造で、城壁の上に行き来できる通路があった。
ところどころに鉄砲を撃つための四角い見張り用の穴があいていた。
ぼくはモンサンミッシェルの真正面の城壁道へと出た。
目の前に太陽が昇ろうとしている。
うわああ、すげ~。
カメラを構え、シャッターを次々に切っていった。

滞仏日記「オオオ、朝陽に染まる黄金色のモンサンミッシェルが凄すぎる~」

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こればかりは、島に泊らないと撮影できない。
もちろん、早朝に陸地側のホテルから渡って来ることも出来るのだけれど、朝が早いので、まだ、誰も島にはわたってきていない。
遠方から荷物を積んだ(多分、日常品、食料など)トラックが一台、やって来た。
ぼくは石の階段を駆け下り、正門を抜け、モンサンミッシェルを見上げることが出来る渡し橋の方へと飛び出した。陸地側からの訪問者はまだ誰もいない、一番のりである。
撮影をしているとまもなく、島に宿泊している同じような旅人が一人、二人、と出ていて、橋の上で撮影を始めたのである。
「凄い朝陽だね」
年配のカメラおじさんに英語で声をかけられた。
「いや、ほんと、すごいです。どちらから?」
「ロサンゼルスだよ」
「おひとりですか?」
「ああ、君は?」
「ぼくは愛犬と」
「あはは、いいね。もしかして、日本人?」
おじさんは日本製の凄いカメラでかなり本格的にモンサンミッシェルを撮影していたのである。
「ええ、日本人ですけど、ぼくはパリに住んでいました。今は、ノルマンディ在住なんです、コロナで人生いろいろとあって」
みたいな話になり、おじさんが、モンサンミッシェルに魅せられて来たというので、ぼくはこの橋が昔は道路だったことなど、知っていることを教えてあげたのだった。
「そうなんだね」
「二十数年前、ここをはじめて訪れた時は、車も往来できたんだけど、要は道にしてしまうと、潮の流れを変えてしまうから、そこに砂がたまったり、地形学的に問題が生じたので、或る時、海の流れをとめない、計算された渡り橋になったんですよ」
「へー」
「海をせき止めないので、この方が自然にはいいんです」
ぼくが渡仏したばかりの頃はまだ道があって、車で中まで入ることが出来た。
今は、荷物を島に運び入れる業者のトラックやシャトルバスだけになっていた。
観光客は陸地側の巨大な駐車場に車をとめて(ホテルに滞在する人はP3駐車場)、そこからバスか徒歩で島を目指す必要があるのだった。

滞仏日記「オオオ、朝陽に染まる黄金色のモンサンミッシェルが凄すぎる~」

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「それにしても綺麗だ」
「綺麗ですね~」
中年のマダムがやってきた。
「ハロー」
スペインからやってきた人であった。
みんな、口々にモンサンミッシェルへの思いを語っていた。
そこに陸地側からやっと一人、渡って来たフランス人が合流したのだ。
「いやあ、朝は気持ちがいい。最高ですよ」
片言の英語で、ぼくらの輪に参加してきた。旅先だからこそ、共有できる気持ちというものがある。
見ず知らずの人と、美しいモンサンミッシェルの輪郭を見上げながら、思い思いのモンサンミッシェル愛について語ったのである。

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ぼくは一時間以上、撮影に夢中になっていた。
すっかり、三四郎のことを忘れてしまっていた。
何せ、モンサンミッシェルの城壁を端から端まで移動し、撮影をしていたのだから。
ありゃ、忘れとった、相棒のことを・・・。
慌てて、ホテルに戻ると、ドアの下で、ぼくを見上げて待つ、忠犬ハチ公ぬらぬ、愛犬三四郎がおった。
ぼくを認めると、尻尾をふってまとわりついてきたのであった。
モンサンミッシェルの夜があけ、一日がはじまった。
さ、サンシー隊の活動開始なのである。
とりあえず、朝ごはんを食べに食堂に向かうことになった。
熱血~。お楽しみに!!!!



滞仏日記「オオオ、朝陽に染まる黄金色のモンサンミッシェルが凄すぎる~」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
いやあ、それにしても美しい朝陽ですよね? これ、もちろん、陸地側からも拝むことは出来るのだけど、この時期は、陸地側の奥から太陽が昇るので、また、見え方が違うのです。島の中に宿泊すると、夜中に島の中を冒険することも出来るし、早朝、すぐに散歩することも出来るので、特別感が増して、ドキドキしますね。
島には住んでいる人もいて、6時半くらいに、家々の窓が開きはじめ、島人が動き出す瞬間に遭遇することもできて、いやあ、実に素晴らしいのであります。
さて、そんな父ちゃんからのお知らせですよ。4月16日に「カフェ飯教室」、そして、5月7日に「小説教室」を開催いたします。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。
そして、人生に負けそうな皆さんには、元気が出る一冊「自分流」をぜひ、手に取ってみてくださいませね。光文社刊。えへへ。良い一日を。

地球カレッジ

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それから、もう一つのお知らせ。
オランピア劇場ライブの翌日、日本からお越しの皆さん、JALパックさんがパリの(父ちゃん推薦の)レストランでランチ会を開催します。父ちゃんも、ライブの翌日ですがちらっと顔を出しますので、パリ旅行を計画されてる皆さん、チェックしてみてください。

エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

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ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

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自分流×帝京大学