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退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」 Posted on 2023/04/04 辻 仁成 作家 パリ

退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」

某月某日、さて、3月5日の日記で、ノルマンディのシェフ仲間チャールズから、「味噌を20キロ、パリのアジア食材店で買ってきてほしい」と依頼された件、覚えているだろうか? 
ぼくはすっかり忘れていたのだ。
しらんわい、と思ったが人のいい父ちゃん、引き受けて、めっちゃ重かったが、買って、ノルマンディの彼のレストランまで運んだのだった。忙しくて忘れていたのだけど、昨夜、彼のレストランにふらっと顔を出したら、
「まだ、足、引きずっているね。大丈夫?」
と言われた。
階段からおちて、足首をねん挫し、ワインの製造元を回るチャールズ主宰の旅にぼくは参加できなかった。その時はすまなかった、落ちた直後はぜんぜん歩けなかったんだ、と言った。
「今日は、快気祝いだ。スペシャルメニューを出すがいいかね」
と言い出した。
「そりゃあ、いいね。でも、一つ残念な知らせがある。ぼくは禁酒した。怪我のあと、体調管理のために、決意して、ライブまで酒断ちをしている」
と言った。
でも、まだ、その時まで忘れていたのである。20キロの味噌のこと。
「オッケー、玄米茶を出す」
「玄米茶???」
つまり、彼が出してくれたのは味噌尽くしのコース料理だったのだ。
ご覧頂きたい。小さなポーションの小皿料理が5品、続いた。
一口食べて、わかった。
全てに味噌が使われているのである。あのぼくが抱えてノルマンディまで運んだ味噌である!!!

退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」

※ 覚えていますか? 3月5日の日記、味噌を20キロ抱えて、パリを離れる父ちゃんの勇姿・・・。



退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」

※ しめじの天ぷらと、味噌、ピーナッツなどのサテー風ソース。めっちゃパリパリ、中、しっとりでした。

退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」

※ 鴨の心臓と、鰻の燻製。

退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」

※ 和牛のタルタル、味噌仕立て。



退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」

※ 鴨とシイタケとモリーユ茸。

退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」

※ パンを味噌ソースで浸し、グリルした一品、実は、これが最高でした。食べたことがない味・・・。

退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」



食後、シェフがやって来た。
満席の店内、頻繁にぼくのところにシェフがやって来るものだから、(足元にはミニチュアダックスフントがいるし)、周囲の地元の人たちは、このロン毛男は何者、という顔をされていた。
というのもぼくの席だけ、シェフ自らが運んでくるからであった。
このレストラン地元の名士たちが集まる、有名レストランなのである。(ミシュランの星も持っている)
そして、シェフ自ら、ぼくに、いろいろと料理の説明をする。
しかも、みんなが食べているものとは違う器である。
ロン毛だし・・・、何者感、半端ない。えへへ。
「いやあ、びっくりした。全部、マジで、美味しかった。でも、これ、フレンチって言えないね」
「あはは、でも、美味しければいいんじゃないか」
「そうだね。信じられないくらい美味しかった。(どこぞの精進料理みたいな雰囲気)これ、メニューで出すの?」
「まだ、試作段階だけれど、近々、やろうと思ってる」
「受けると思うな。西洋とアジアがいい具合で混ざり合ってるもの。味噌が効いてる」
「ヒトナリのおかげだよ。ありがとう」
ということですっかりご馳走になった父ちゃんなのであった。
パリから離れて、フランスの田舎にいるのだけれど、どこの店も、レベルはパリよりも上なのだ。パリは観光向けのレストランが多いからかもしれない。
むしろ、こういう避暑地の方が、冒険が出来るのであろう。
ギャルソンを呼んで久々、記念撮影をすることになった。
「なに、あのアジア人」
という顔で、周囲のお客さんたちに怪訝な目で見られていた父ちゃんなのだった。
「きっとインドか中国の俳優よ、あの顔、見たことある」
と隣のマダムがご主人に耳打ちしていたので、帰りに、手を合わせてお辞儀をしておいた。あはは。
熱血~。

退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」

※ 仲良し二人組なのであーる。



退屈日記「味噌20キロを買ってきてとシェフ友に頼まれてから1か月後の巻」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
今日、ノルマンディの自宅に新刊「自分流」が届きました。実にシンプルな本で、掴んだ最初の印象は、ああ、これは地味だなぁ、でした。笑。でも、捲ってみたら、内容はとっても面白い。イラストはNHKの有馬嘉男アナウンサーの奥さんのなほみさんが担当されましたよ。売れゆきとか、とんと光文社から連絡がないので、わかりません。目立たないから、売れてないのに違いありませんね。ともかく、新刊が手元に届いて、嬉しいです。

さて、近づいてまいりました父ちゃんシェフによる「カフェ飯教室」、メニューは決まりましたので、今、リハーサル中です。ちょっと王道で行くか、新しい風を吹き込むか、悩んではいますが、いい会になりますよ。それと、5月7日は「敷居のめっちゃ低い、小説教室、基礎編」を開催いたします。小説を書いてみたいと思っている皆さんを対象にしたお勉強になりますので、お時間ある皆さん、、覗いてみてください。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリック!!!!

地球カレッジ

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近づいてきましたよ。5月29日、オランピア劇場!!!
エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス国内、もしくは周辺国、あるいは世界各地にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。旅慣れていない皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。

5月29日 辻仁成 パリ・オランピア劇場 ライブコンサ-ト!


ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

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自分流×帝京大学