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滞仏日記「エリック・サティが生まれた家まで行ってきた。空も海もシュールな」 Posted on 2023/05/11 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、パリの仕事がひと段落したので、いったん、自宅へと戻った父ちゃん。
今日は昨日の日記にも書いた通り、エリック・サティの生家へ行ってみることにしたのだ。
三四郎を海で遊ばせた後、オンフルールを目指した。
ここにエリック・サティのミュージアムがあるというのだ。ここ最近、サティばっかり聞いているので、ちょっとどんな人なのか興味がわき、足をのばした。
オンフルールは可愛い町だし、ここに出るマルシェが大好きなので、何度も足を運んだが、サティの生家があるとは知らなかった。
で、どこにあるかわからなかったので「サティの家」とググったら、一瞬で、出た。「サティの家」とそのまんま。笑った。有名過ぎる。
彼はそこで6歳まで過ごしたのだけど、母親が急逝し、けっこう、その後、転々。いろいろと大変な人生を生きたようであった。
オンフルールの中心地から徒歩でいける範囲にあり、思ったよりも立派な建物だった。
しばし、ここか、と見上げてしまった。落ち着いていて、そのファサードはサティが生きた時代を想像させてくれた。(三四郎は車の中で、お留守番。でも、サティの家の前に停車出来たので、ま、よかでしょう)

滞仏日記「エリック・サティが生まれた家まで行ってきた。空も海もシュールな」

滞仏日記「エリック・サティが生まれた家まで行ってきた。空も海もシュールな」



ただ、グーグルのコメントはすごくいいのだけれど、ぼくは期待が大きすぎたせいか、がっかりした。
というのは、彼がここで生まれた(1866年)のは事実でも、6歳でそこを一度出ているので、というか、建物の中は、手動メリーゴーランドっぽい機械とか、ロボットのような人形とか、解読が難しい誰かのポエムとか、苦心だけが在った。
ここの方々が彼の世界を勝手に空想したアミューズメントパークみたいになっていて、もちろん、シュールな世界なのだけど、それはサティへのある種の冒涜みたいな違和感をぼくに連れてきた。
白い部屋に真新しいYAMAHAの白いピアノがぽつんと置いてあって、自動演奏でジムノペディを弾いてくれた。(運指がわかったのがよかった。けっこう、難しい。どうやって実際にピアニストがそれを弾くのか、謎だった) 
ぼくが一番、その美術館で興味を持ったのは、二階にいくつかあった窓だった。
19世紀の窓枠ではないが、そこから見える景色は当時の風情を今にも残していた。
もっとも窓はけっこう高いところにあったので、6歳の子には高すぎて見えなかったかもしれない。
でも、ともかく、サティはそこで生まれた。
ちなみに、ぼくは東京のはずれの日野市の多摩平団地で生まれてやはり5歳の時に福岡に引っ越し、円龍幼稚園に入った。
しかし、多摩平団地での記憶がけっこう残っている。
夕方、家に帰るのがいやで、団地の駐車場の街灯の下で、奇妙な雲の動き、ちょっと赤く染まった空なんかをいつまでも見上げていた。母さんが必死な顔で探しに来るまで、ずっと・・・、ぼくは胸がきゅんとなって、切なかった。
あの切ない気持ちだけは今も失っていないのだ。
たぶん、3歳とか4歳の頃の記憶なのだけど、あの不思議な空のせいで、胸がしめつけられるような感じになって・・・。
あの年齢で、ぼくはいつも切なくてしょうがなかった。

滞仏日記「エリック・サティが生まれた家まで行ってきた。空も海もシュールな」

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サティの家のどこかの部屋に、彼が洋服好きだからか、彼が買った服をイメージしたオブジェがくるくると回る装置があった。
サティはお金が出来るとスーツを買いにいったりしていた、というところを強調していた。子供がないし、妻がいなかった、と強調されていた。
なんだよ、そこかよ、とぼくは思った。
ジャン・コクトーの家にも十数年前に行ったことがあった。ジャン・コクトーに関しては、ぼくは彼がどのくらい好きなのか、わからなかった。
でも、その家はサティの家よりも、コクトーの世界をよく伝えていたように思う。
こういうのは、本人が生きていたら、どう思うのだろう、と思った。
ただ、番地を確かめるためグーグルを再び覗いたら、サティの家、という字の下に「あなたが最近立ち寄った場所」と記されていた。ゲッ、監視されてるじゃん、グーグルに。
そのことで、今、聞いているサティの音楽が何かちょっと違ったように聞こえるのは不思議だった。
コクトーの古い映像を彼の家で見た後にコクトーの詩を読むとやっぱり何か違った風景が見えた。ここにいない彼らがここにいるぼくらに届ける何か。

滞仏日記「エリック・サティが生まれた家まで行ってきた。空も海もシュールな」

滞仏日記「エリック・サティが生まれた家まで行ってきた。空も海もシュールな」



滞仏日記「エリック・サティが生まれた家まで行ってきた。空も海もシュールな」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
でも、サティが奏でる旋律が、ノルマンディの海や空にもよくあっているのは確かだな、と思うのです。帰り道、オンフルールを出たところに、菜の花畑が広がっていました。画家が描く、黄色い絵のようでした。空も、世界も、サティの右手の旋律のようでした。
さて、5月29日のオランピア劇場ライブに向けて、毎日、父ちゃん歌の練習を重ねています。近くにいる皆さん、どうぞ、お越しください。これは生の父ちゃんです。
さて、オランピアの席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

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5月29日 辻仁成 パリ・オランピア劇場 ライブコンサ-ト!


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地球カレッジ



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