JINSEI STORIES

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」 Posted on 2023/06/20 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、辻ゼミの授業が終わってから(学生たちの作品のレベルの高さに、驚いた父ちゃん先生!笑)、ぼくとサンシーはパリから一時間ほど離れたイブリン県の友だちの家まで行ったのであったぁ~。
田舎の、なんにもない場所に、1ヘクタールの土地を持っている~、羨ましい~。
こちらのご夫婦は仕事がある時はパリに、ない時は、この田舎の家で暮らしているのだった。
もう、知り合って20年になる。
先日のオランピア劇場ライブを観劇され、ぜひ、御馳走したい、と誘われたのだ。
ぼくは出不精だし、ちょっと迷ったのだけど、敷地の中にツリーハウスを作ったから見てほしい、と言われ、え? 行くことにした。
実は、ツリーハウスは、ぼくの幼い頃からの夢のひとつだった。
ぼくは小学生の頃、福岡の高宮に住んでいたが、ここに渡辺別荘という木々で覆われた、古墳のような個人所有の山があったのだ。
タモリさんが近くに住んでおられた。
うちの社宅はその横にあり、ぼくはガキ大将で子分(弟たち)を引き連れては、その一帯で暗躍していたのだった。
あんやく~、えへへ。

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」

※ 父ちゃんは昔、手の付けられないガキ大将であった。あはは。

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」



ある日、落ちていた木材を集めて、中腹に聳える一本の木に見張り台を作った。
ベニヤ板を太い枝の上に置いて、ロープで縛りつけただけのものだったが、そこに上って、敵を監視したのであーる。
その頃、捨ててあった鉄の兜に電池をくっつけて、電波妨害装置も作った。
大きなゴムを利用して、石を遠くに飛ばす中世の武器、カタパルト(投石器)を作っていた。ぼくは天才だったのだ。
え?
それで何をしていたかって?
決まっているではないか、大人を攻撃していたのだった。あはは。
母さんに見つかって、こっぴどく叱られたこともある。叱られる時は、耳をひっぱられ、こら、ひとなり、なんばしとるとか~、と怒られたものであった。
ともかく、10歳の頃からぼくはツリーハウスをいつか所有したいという夢があったのであーる。
友人のブリュノは、そんな男の子の夢を実現させてしまった。
う、羨ましい!!!!

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」



1ヘクタールの土地のど真ん中に、ツリーハウスがあった。
普通、インドネシアなどのツリーハウスは一本の木を支柱に、中段に家を拵えるが、安定性が悪いので複数の木の方がいいのだ。
ブリュノのツリーハウスは、なんと4本の高木を利用しているので、もの凄く安定性のある家であった。
100%手作りではないが、設計に参加し、一部建築もやったのだとか・・・。
ぼくが小淵沢に家も持っていた時、ツリーハウスを作ろうと計画したことがあった。
でも、その木が安定しておらず、大工さんに、これじゃあ、ダメですよ、と言われて断念をした。
結局、台風の多い日本、高木は危険だと、管理組合に勝手に切られてしまった。
「ひとなり、中を見るかい?」
ブリュノに案内されて、ツリーハウスの中に入ると、うっとりするような静かな世界が広がっていた。
もしも、ここで小説を書くことが出来たら、もしも、ここで曲を作ることが出来たら、今までにはないうっとりする世界を創出できたかもしれないな、と思った。
羨ましい、実に、羨ましい、ではないか~。

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」

※ 羨ましい限りのツリーハウスの書斎!!!

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」



ブリュノが料理をしてくれた。
アスパラガスのグリル、ブラータチーズのサラダ、パテドカンパーニュ、etc・・・。
三四郎は広大な敷地を走り回っていた。
池には鯉がいて、ジュリエットという名のガチョウがいて、ミツバチの養蜂箱がありそこで出来たハチミツを食べることできて、ポタジェと呼ばれる家庭菜園の小さな畑があって、そこで出来たバジルがブラータチーズのサラダには使われており、いやはや、なんて、理想的な生活なのだろう。
ひたすら、羨ましい~。
「いいなぁ、こんな暮らし。憧れる~」
「でも、隣人はいない。パン屋まで歩いて一時間半」
「ぼくなら、住めるな」
「ええ、ひとなり、あなたなら大丈夫。隣人がいないから、歌の練習し放題よ」
奥さんのアリスが横から割り込んで来た。
大きなスピーカーがあって、ブリュノが大音量でぼくのアルバムをかけた。おお~!
「この曲、空、が大好き」
アリスが躍りだした。三四郎は野原を走り回っていた。
まるで、野外フェスのような・・・。
ブリュノとアリス、幸せな年齢の重ね方をしているのであった。
う、羨ましい~。

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」

滞仏日記「フランスの田舎で、ツリーハウスのある暮らし。男の子の夢がここにあり」



人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
パリから一時間で、誰もいない世界にたどり着くことができるんです。ぼくは海がないとダメなんだけど、ブリュノとアリスは森が好きんですね。鳥がシンフォニーを演奏しているので、けっして寂しくはないです。窓が開いているので、風がどこまでも自然にそよいで心地よく、文明がないのだけれど、文明に邪魔されない素敵な人生でした。憧れます。
さて、次回のエッセイ教室のお誘いです。エッセイを書いてみたい、書いているけれど、もっと上手に書きたい、と思っている皆さん、今年、3回目のエッセイ教室を開催いたしますよー。参加をご希望される皆さん、地球カレッジのバナーをクリックしてみてくださいね。めるしー。

地球カレッジ
自分流×帝京大学