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滞仏日記「ママ友と河岸のカフェで語り合う。自慢話を聞いてくれる友人に感謝」 Posted on 2023/07/09 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、夏の父ちゃんの生活は優雅なものであーる。
パリは観光客しかいない。フランス人は家族でバカンス旅行に出かけている。民族の大移動をやっている。
なので、シャンゼリゼなどの観光名所に行かなければパリ市はガラガラ。
つまり、夏のパリがいいのは、フランス人のいないパリを独り占めできるからだ。
これは、最高の皮肉、なのであーる。
父ちゃんはもうすっかり父ちゃんなので、普通なら定年退職の年齢だけれど、表現者に退職はないので、のんびりと生きておる。
たくさん創作物を抱えているが、生きる速度の歩は緩やかなのであーる。
父ちゃんはものごとを考えるのが好きだし、いろいろと計画をたてるのも好きなので、三四郎とパリの街を歩きながら、ああでもない、こうでもない、と考えを巡らせている。
みなさんに、まだお話はできないが、父ちゃんの未来は、なかなか面白くなりそうだ。
いろいろなことが舞い込んできて、ああしてやろう、こうしてやろう、と口元を緩めながら、計画をたてている。
人生は自分のものなので、何を憚る必要があるだろう。
そうだ、母ちゃんに教えられた「誰の人生じゃ」でいくのだ。
苦しい時代を乗り越えてきた。ここからは円熟期にしたる。
おもしろいことをもっと実現させていくのだ。
人間の限界に挑戦なのであーる。
こう書いたら、かっこよすぎて、おならが出そうになった。いひひ。

滞仏日記「ママ友と河岸のカフェで語り合う。自慢話を聞いてくれる友人に感謝」

滞仏日記「ママ友と河岸のカフェで語り合う。自慢話を聞いてくれる友人に感謝」



カフェに入り、テラス席で、軽く食事をする。
フレンチフライにはパルメジャーノチーズがたっぷりとかかっていた。
タラマサラダはカリカリのトーストに塗って食べるのだ。
道行く人々を眺めながらの、カフェでのおつまみ程度がちょうどいい。
父ちゃんは人生計画を練るのがたのしくてしょうがない。
あれをするぞ、これをするぞ、こんな作品を作るぞ、こんなライブやりたいぞ、などなど。
そうやっていると、自分自身が作品になっていく気がする。
でも、今は独身なのだ。☜独身貴族だ。
ずっとでもいいかな、と思っている。
伴侶というほどじゃないが、パートナーくらいはいたらいいよね、と思うこともあるが、今のところたくさんの人に支えられているので、孤独ではない。
ママ友で十分である。
ということで久々に、近くに住むレテシアを河岸のカフェに呼び出した。

滞仏日記「ママ友と河岸のカフェで語り合う。自慢話を聞いてくれる友人に感謝」

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「オランピア劇場よかったわよ。ミゲルが素晴らしいと絶賛していたわ」
「えへへ、ありがとう。10月にロンドンでのライブ、決まった」
「へー、あなた、ほんとうに着実に進んでるわね。バイタリティが凄いわよ」
こういうことを聞いて貰えて、自慢できる身近な人はいる。
ミゲルというのはレテシアの夫なのだ。大切な仲間だし、いい奴だけれど、父ちゃんから言わせると、ちょっと若い、しかも不良・・・。あはは。
レテシアはと言えば、夫は夫、友だちは友だちなのである。そこがパリジェンヌ。
若いミゲルとは違う感じでもう若くないぼくと向き合ってくれる。
こういう女友だちが数人いるので、十分、孤独は癒されている。友だちは大事だ。
ぼくは、来年の計画をレテシアに語った。来年、ぼくがやろうとしていることをすべて、掻い摘んで話してみた。
「身体を壊しそうな勢いね」
「ま、好きなことしかやらないから、ストレスはゼロ」
「それは素晴らしい。ビジネスの成功だけが人生じゃないからね」
「レテシア、聞いてほしい。昨日、気が付いたんだ」
「なに?」
「ぼくは経営者じゃないけれど、振り返るとそこに作品という資産があった。小説も、音楽も、映像も、詩も、油絵も」
「あなたの絵は好きよ。私たちの寝室に飾ってある」
「あのね、いま、ライブで歌っている曲は30年前の曲が多い。セトリの半分は昔の作品だけれど、ちっとも古くないんだ。凄くないか」
ぼくは自慢をした。聞いてくれるレテシアが嬉しい。
「なるほど」
「出版した本も100冊ほどあって、今、それを電子書籍とか、あ、今度、オーディブルで30年前に書いた小説を朗読したものを出す。自分で朗読した」

滞仏日記「ママ友と河岸のカフェで語り合う。自慢話を聞いてくれる友人に感謝」

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「凄いわね。自己再生産ね」
「うん。ミラクルという作品なんだけど、ノルマンディの寝室で収録した。自分と出会った。昔の自分だよ、わかるかい?」
「ひとなり、あなたにとって作品は財産なのね」
「ああ、振り返ったらもの凄い数の作品がぼくを支えていたんだ」
「よく生きたわね」
「そうなんだよ。どの作品も古さを感じないから、蘇る。自慢かな」
「楽しそうね」
「でも、たまに、こういう自慢話を聞いてもらいたい」
「わたしでいいなら、喜んで」
ミゲルによろしく、と言って別れた。夫のミゲルはメキシコの不良で、彼とは音楽で繋がっている。男って、こういう話が出来ない。だから彼とはたまにセッションをやる。
おっと、こういう話に付き合ってくれる野郎がいた、うどん屋の野本だ。あいつは、ぼくの自慢を自分のことのように聞いてくれる。
おっと、東京にも一人いた。経営者のシマちゃんだ。シマちゃんとは東京拠点計画を一緒にやっている。この二人、やっぱ、同世代なのだ。
若い友だちも欲しいね。あはは。
夢は尽きない。

滞仏日記「ママ友と河岸のカフェで語り合う。自慢話を聞いてくれる友人に感謝」



人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
父ちゃんが創作してきたすべての作品を生き返らせる作業をやっています。楽しいですよ。過去は振り返らないけれど、作品は未来にもなるんだってこと、知って驚いています。

そして、7月16日の地球カレッジは、エッセイのお勉強会になります。いろんな顔を持つ父ちゃん講師が文章教室を開催いたしますので、音楽も好きだけれど、文学も好きな皆さん、覗きに来てね、詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリック!!! めるしー。

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