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滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」 Posted on 2023/08/23 辻 仁成 作家 パリ

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」

某月某日、ということでぼくは飛行機に乗って、九州へと向かった。
福岡でのライブを控え、その前に、ぼくはどうしてもしておきたいことがあった。
今回、体調を悪くしたぼくを救ってくれたのが、なんとなく、先祖の方々じゃないかな、と思っていた、感じていた、ピピっときた瞬間があったのだった。
めっちゃ体調崩していた時、ふっと、おじいちゃんの淡い何かを枕元に感じたので、思わず、ライブを中止にはできないとですよ、力を貸してください、と拝んでしまったのだった。すると、おばあちゃんもいたし、父さんまで、出てきた。
で、その日、お盆の日に、なんと、映画「中洲のこども」が8週目のロングランにはいる知らせを受けた。
お盆じゃん、と改めて祈った父ちゃん。
おもいは通じたのか、その翌日くらいからもの凄い勢いで、奇跡的復活へと仁成の人生は傾斜していくのであった。☜さすが、作家や、なんやしらんけど、ただの復調が奇跡になってる! 
どこまでもドラマティック~、どこドラ父ちゃんと呼んでくれ。
ということで、どこドラ父ちゃんなのだが、その体調の悪い時期に、墓参りにだけはいかないけん、と心に誓ったのは、事実であった。そうそう、お盆の日であった。
そういう勝手な約束を果たすため、ライブの二日前に博多入りした。
弟と母さんが空港でぼくを待ちうけてくれていた。
三人で、両親の故郷、大川市大野島を目指したのだった。
「兄貴、ここ、福岡国際会議場だよ」
「ええええ、どこ? わ、ここか、でけぇー」
大川を目指し、高速道路に乗った途端、目の前に明後日のライブ会場が見えたのだ。奇跡だ、奇跡じゃあああああ。
「兄貴、ただの通過地点だよ」
「しかし~、福岡国際会議場って書いてある。呼ばれてる~ゥ」
「兄貴、最高だぜー」
ドラマティックな兄弟である。母さんは後ろの席で、微笑んでいる。
家族だぁ。

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」

※ こちらが、高速道路よりも高くそびえる、福岡国際会議場なのだった。ここのメインホールで、24日に、ね。



「兄貴、大宰府、通過したぜー」
「おお、弟よ、大宰府通過~」
「兄貴、吉野ケ里遺跡、通過しているぜー」
「おお、吉野ケ里~」
なんと、両親の故郷、大川市は、吉野ケ里遺跡のすぐそばにあったのだった。
ひゃああ、原始人だぁ。父ちゃんの先祖は、吉野ケ里~原始人~。
「兄貴、最近、吉野ケ里遺跡から卑弥呼の墓らしき赤い土葬跡が見つかったっていうぜー」
「なんだとー、ということは、父ちゃんは卑弥呼の末裔ということになるとかー」
「兄貴、めでたいぜー」
「めでたい兄の弟よ、大野島はまだか~」

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」



「この橋を渡ったら、大野島ったい」
寝ていたのか、と思っていた母、恭子さんがむくっと後部座席からぼくら兄弟の間に割って入り、言った。座敷童の恭子!!
「あのね、でも、どうしてこの道ば通ると、あっちの道に行かないけんとやないと」
「いいんだよ、母さん。新しい道が出来たったい」
「あのね、おにいちゃん、ここまでが久留米市で、ここからが大川市になるとよ。ここがね、この店がね、昔は酒問屋さんで、あそこが銀行で、みずま銀行よ、大川にあった唯一の銀行で、つぶれたとやけど、建物は重要文化財になっとります。んで、あそこらへんに、ゆきちゃんが住んでたったい。でも、今は引っ越してね、ほら、ほらほら、見える? あそこの黄色い煉瓦塀の家があるでしょ、あそこにおるとよ、今はあそこ、それが、みんな忙しくしてなさっとらす、やけん、今日は寄らんでもよかかね、寄らんで、あとで怒られんかね、恒ちゃん、どうすると?」
「母さん、運転の邪魔だから」
「あら、そうね。でも、もうすぐ、大野島でしょうが、久しぶりだから、お兄ちゃんがここらへんにおるだけで、わたしにはわかるとよ。なんか、みんな喜んどらす。だけん、ほら、空がきれいかでしょ? 青々としているとでしょ。もうすぐ、みんなに会えるけんね、あら、あらあらあらぁ~~~」
「どうした?」
弟が運転しながら、母さんを振り返った。
「ジュージュ、忘れた」
「じゅーじゅ? ああ、数珠?」
「じゅーじゅ、わすれたぁ、えらいこったぁ、ご先祖様におもいが通じんくなる~、じゅーじゅ・・・」
「大丈夫、今日は特別になくてもいい日だよ」
「そんな日があるとか?」
「兄貴が一緒だから。それで十分、通じるよ」
「そげんね、はぁ、そりゃあ、そうたいね、なら、よかったったい」
ということで、騒がしい母・・・。
ともかく、ぼくらは勝楽寺に到着したのであった。

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」

※ 夫婦の今の姿であーる。父さんのお墓、祈る恭子さん。



さっきまで寝ていた母さん、地元に戻って来た途端、先頭を切って歩きだし、ぼくに、いちいち、説明しはじめた。
祖父、今村豊がなぜ、ここに骨の仏を建立したのか、について・・・。
でも、ぼくはそのことを小説に書いているので、今は誰よりも、なんでも知っているのだけれど、母さん、もう、その辺の記憶が、ね、曖昧なのであーる。
「おにいちゃん、これが白仏やけんね、よー、見ときなさい、拝んでおきなさい」
「母さん、兄貴はそれ本に、・・・」
「恒ちゃん、いいんだよ。もう一度、最初から聞けばいいんだから」
母さんは、白仏をおじいさんが作った時代のことを語りだした。なぜ、数千柱の骨で仏を作ろうと思ったのか、などなど・・・。
「んで、おじいさんの骨は、ちょうど頭のあたりに入ってる。完成した日に亡くなったったい、呼ばれたとよ。みんなに、呼ばれて、命のはなし・・・」
「うんうん」
ぼくと恒ちゃんはお線香を灯し、手を合わせた。
何かをお願いする、というのがいつもこういうタイミングでは難しい。ただ、手のひらをあわせて、祈るだけだった。
それで想いは通じるものだ。
多くの先祖の想いが淡い光となって、御堂の中で広がっていた。
ああ、来てよかった。
心が洗われる・・・。清々しい風がお堂を流れていく。
ぼくはきっと、いい歌を歌うことになるだろう。
いい気を頂いた。
ロンドンまで持っていかなきゃ。

滞日日記「ご覧あれ。こちらが実物の白仏じゃあ!大野島に立ったどこドラ父ちゃん」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ずいぶん久しぶりの「白仏」との再会でした。母さんがぼくに語った話は、拙著「白仏」(集英社文庫)に詳しく書かれています。実に、スピリチュアルな世界ではありますが、実物は、穏やかで、優しい光をまとっているのです。いつも読んでくれてありがとうございます。
さて、明後日、24日に迫った福岡国際会議場メインホールでのライブ、来たよー、いよいよ、父ちゃん節がさく裂しますよー、奇跡だよ。お楽しみに!!!

8/24(木)福岡国際会議場メインホール・チケット発売中です。
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https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/

8月24日、福岡国際会議場メインホールでのライブ
8月25日、中洲大洋映画劇場での舞台挨拶。子役の古賀兄弟と3人で!
8月29日、名古屋ダイヤモンドホールでのライブ、
8月30日、東京EXシアターでのライブ、
9月3日、京都劇場でライブ
9月1日、辻村(tsujiville)開村
9月16日、NHKBS、新作「パリごはんSP」その一週間前から連日過去作一挙再放送。
2024年2月末、伊勢丹アートギャラリーにて絵画初個展「les invisible」開催。

●「ボンジュール!辻仁成の春のパリごはん」
【BSP】9月11日(月)午前6:15~7:14
※初回放送 2021年6月18日

●「ボンジュール!辻仁成の秋のパリごはん」
【BSP】9月12日(火)午前6:15~7:14
※初回放送 2021年10月30日

●「ボンジュール!辻仁成の冬のパリごはん」
【BSP】9月13日(水)午前6:15~7:14
※初回放送 2022年2月23日

●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022春」
【BSP】9月14日(木)午前6:15~7:14
※初回放送 2022年6月17日

●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022夏」
【BSP】9月15日(金)午前6:15~7:14
※初回放送 2022年9月23日

●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022秋冬」
【BSP】9月16日(土)午後1:00~1:59
※初回放送 2023年2月17日

●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2023春」
【BSP/BS4K】 「パリごはん2023SP」(9/16土曜20:00~21:29)
今回が、初回放送になる、新作です!!!!!



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