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滞仏日記「おフランスのマダム軍団を我が家にお招きするときの心得。気取らない編」 Posted on 2024/02/05 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、おとついのことである。
日本の駐在員さんが離パリとなるので、我が事務所のサロンで、送別会をやったことは先の日記で触れたが、今回はフランス人のママ友(お子さんもいる)数名が集まり、軽い食事会をやったので、ご報告なのであーる。
前回はオール日本人だったので、フレンチっぽい料理をふるまったが、今回はオール・フランス人だったので、日本人が家庭で食べるような大衆料理を中心に作って、面白がらせてみようと企んだ父ちゃんなのであった。
最近のフランス人は、日本の食、とくに家庭料理に大変関心が高い。(漫画などの影響も大きいのだ)
とはいえ、本格的な和食を出すのは手間暇がかかるので、今日は大衆食堂編・・・。ふふふ。
やはり、マダムたちはおしゃべりが大好きなので、アペロからスタートする。
これは、前回の在仏日本人の皆さんも同じで、泡系のライトな飲み物で喉を潤しながら、パテをパンにつけて、つまんだり、でも、主役は、おしゃべり~。
今日は、トマのワイン屋で買った、栗と豚のパテをパン・ド・カンパーニュに塗って、マイユ社の根セロリのマスタードを付け、齧るアミューズにした。
父ちゃんが主催者なので、あまり、席を離れることができない。そこで、フランス人マダム受けする巻きずしとサラダスパゲッティをあらかじめ用意しておいた。ぬかりなし。
気の置ける仲間たちなので、豪華なものを出さないでいい。
普段の日本の味でいいのだ。

滞仏日記「おフランスのマダム軍団を我が家にお招きするときの心得。気取らない編」

※ こういうパテが瓶詰めされているので、こっそり、器に盛って、出せば、まるで作ったかのようなゴージャス感! 実は、買ったもの、えへへ。盛り付け後の写真、忙しくて、撮り忘れました。

滞仏日記「おフランスのマダム軍団を我が家にお招きするときの心得。気取らない編」



で、おしゃべりの合間を見計らい、いつもの一人用のフライヤーで、衣をつけて準備し終わっていた豚を、ちゃちゃっと揚げていく。
赤い線のところが適温になるので、その様子を見ながら、10分ほどで、10枚くらいを揚げてしまう荒技~。
ここは熟練の腕の見せ所で、マダムたちがしゃべっているあいだに、料理をテーブルに並べながらの、ワインを時々、注ぎに行きながらの(その時、ちょっと話題にちゃちゃを入れるのがポイント! そうよねー、わかるわー、みたいな感じ。おほほ)、ダッシュでキッチンに戻ってからの、火の入り具合を確認しつつーの、
「はい、皆さん、ア・ターブル!(着席~)」
という流れなのじゃ。
で、ぼくは減酒中なので、ぺリエなどを飲みながら、お子さんたちの教育論とかに、合流するのであーるぬーぼーるぺん
「そうよねー、うちの子も、今、勉強が大変で~」
「あそこの学校は差別があったりするから、ちょっとねー」
「留学先はやはりアメリカかしら~」
みたいな、流れに、さりげなく潜り込んで、ほんとよねー、それが人生だものね、がんばらなっきゃ~、と笑顔を振りまく父ちゃんなのだった。(ここまで完璧な接待術であーる)
みんなが着席をしたら、
「ぼなぺてぃー」
と号令をかけるの、お忘れなく!
「まあ、おいしそう、これなーに?」
フランス人マダムに受けるのは唐揚げだが、辻家の唐揚げは、ぜったい二度揚げしないとならないので、意外と手間暇、時間がかかる。
そこで、唐揚げに負けないくらい仏人に人気のとんかつを作ることになった。
普通のとんかつだと面白くないので、名古屋の八丁味噌を存分に使った味噌カツソースで、いただく!
一工夫なのだ。いえーい!

滞仏日記「おフランスのマダム軍団を我が家にお招きするときの心得。気取らない編」



「名古屋の名物料理なのよー」
ちょっと、ぼくの仏語が二丁目風になっているのは、ご愛敬であーる。
「まー、ヒトー、すごい、おいしそうじゃないー?」
「そりゃあ、そうよ、ソフィー、あたたかいうちに召し上がれ~」
「わ、おいしい~。何、これ、食べたことない。MIZO~?」(フランス人は味噌の発音ができない、みぞー、となる)
ちなみに、ダンチューイベントでも大人気だった、辻家名物のトンジール(豚汁)も大好評なのであった。
「これは、何、パスタ? ごはんとパスタを日本人は一緒に食べるの?」
「そうよ、炭水化物をおかずに炭水化物を食べる高等な文化が我が国にはあるの~」
「ひゃあ、おいしい。なによ、このパスタ、なにが入っているの~」
「きゅーぴーまよねーずよ。知らないでしょ?」(あくまでも、ひらがな感で、発音をします。きゅーぴーーーー。ついでに、小指は立たせるのよ!)
ということで日本を代表するマヨネーズを、そこで、持ってきて、見せびらかす父ちゃんなのであった。
一同、舐めて、驚愕!!!
「ずるい、フランスで生まれたマヨネーズをこんなにおいしくしてしまうなんて~」
「やだー、ヒトー、全部、おいしいわ」
ということで、野本にもらったマグロのいい部分とべったら漬けを使った海苔巻き~最高、カニの爪を買って、中の身をほぐして作った海苔巻き~最強、それから卵焼きとかエビとかいろいろぶちこんだ太巻きも大好評なのだった~。
「やだー、ほんとね、炭水化物で炭水化物おかずにして食べるの、日本的食感って、わかるわ~、面白い」
「日本人には、無敵のラーメン・ライスもあるのよ。ラーメンをおかずにして、ライスを食べる人がいる一方で、ライスをおかずにしてラーメンを食べる人もいるの。そのくらい奥が深い文化なのよ、わかる?」
一同、おおお、と唸った。
ビクトリアが、太巻きの上にスパゲッティサラダを載せ、その上にマヨネーズをかけて、どうよ、という顔をしたので、苦笑、の父ちゃんだった。
食後は、オペラにある日本のパン屋「アキ」さんで買ったショートケーキを出したら、絶叫のあと、一瞬で消えてしまった、ママともの会なのだった。
フランソワーズが最後に言った。
「でも、カロリーが心配だわ」
ふふふ。
ぼくは食べてるふりをして、ほとんど食べないでダイエットに専念をしたのでありました。さすがやね。ライブ近いから・・・。

滞仏日記「おフランスのマダム軍団を我が家にお招きするときの心得。気取らない編」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、友だちのおもてなし、とくにフレンチ・マダムたちには、シングルファーザー時代に本当にお世話になったので、こういう形で時々、かえすのでした。えへへ。

滞仏日記「おフランスのマダム軍団を我が家にお招きするときの心得。気取らない編」



さて、今年の父ちゃんのスケジュールのお知らせです。
●小説「十年後の恋」集英社文庫版が1月19日全国発売。
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rizzoli社から刊行されました。
●2月28日から、新宿伊勢丹のアートギャラリーで個展(詳しくまたご報告します)
●3月3日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。(検索ください)
●3月6日、ツジビル・ライブ(SOLD OUT)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator

●6月30日、パリ・ライブ決定(詳細、待って)
●7月3日、リヨンでライブ!!!
以上です。

滞仏日記「おフランスのマダム軍団を我が家にお招きするときの心得。気取らない編」

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