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退屈日記「世にも奇妙な犬仲間たち。犬を飼う人の不思議な連帯」 Posted on 2024/04/11 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランス人の友だち、仕事関係者、事務所スタッフ以外で、ぼくの人生に不思議な連帯を持ち込んでいる、しかも、毎日必ず会う人たちがいる。
通称、犬仲間、である。
三四郎は、朝、夕方、夜の三回、散歩に連れ出している。
彼は外で、ピッピ(おしっこ)とポッポ(うんち)をするようにしつけてきた。
なので、雨が降っても、散歩は、欠かせないのだ。
やれやれ、と思いながらも、犬がいるかぎり、この生活習慣は必須なのである。
同じように犬を飼うご近所の方々にとっても、犬との散歩は欠かせない。なので、必ず、犬公園で、会う人たちがいる。
おおざっぱにわけて、だいたい、二種類の人たちに区別できる。
犬が好きだから犬を通じて交流を求めてくる方々、もう一種類は、たとえば、妻が犬好きで犬を飼うようになったが、犬の散歩は自分もしないとならず、仕方なく、犬を連れて公園にやってくるような人たちだ。
この人たちは、すぐに、わかる。
犬同士興味があって近づいてくんくんやっていても、挨拶もしない人たち。犬は犬、私には関係ないわ、という人たち。
なので、こちらも挨拶をしないように、なった。犬がほかの犬から離れるのを、私にはかかわらないで光線を出して、無表情で見下ろしている人。(そういう人たちの中には、ペットの散歩アルバイト君もいる)
途中で、リードを引っ張って、もう行こうか、さんちゃん、とぼくはそそくさとそこから離れるようにしている。笑。

退屈日記「世にも奇妙な犬仲間たち。犬を飼う人の不思議な連帯」



一方、犬を家族の一員だと思って家族同然に育てている人たちは、必ず、飼い主同士のコミュニティにかかわってきて、笑顔の挨拶があり、交流がある。(普通はこのような人ばかり)
朝、9時くらいに、犬公園に顔を出すと、ミニチュアダックスのウッディ、ミニ柴のゆず、同じくダックスのルル、プードルのリリーがいた。
いつものメンツ。うしろにいつもの飼い主がいる。
「ボンジュール」
みんな笑顔で集まって来る。ウッディの飼い主はゲイのカップル、お父さんが二人。ゆずのお母さんはかなり高齢のおばあさん(時々、ゆずはおじいさんと散歩している)、ルルのお母さんは一人暮らしのマダム、リリーは若い女性が飼い主だけれど外国人なのだ。
共通点は、毎日、必ず、会う人たちで、多い時は一日、三回、挨拶しあうことも。
でも、この人たち、立ち話するのだけれど、誰一人、名前を知らない。
職業が何か、どこに住んでいるのか、国籍も年齢さえも、知らない。
犬を通してだけのつながり、である。
会話も、犬のこと、ばかり。
「ブルドックのケサックが人を噛んで、警察に通報されたみたいよ」

退屈日記「世にも奇妙な犬仲間たち。犬を飼う人の不思議な連帯」



犬たちは、必ず匂いを嗅ぐために集まるので、親たちも引き寄せられる。犬は相手の匂いを嗅ごうと必死にくるくるやりだすから、必然的にリードが絡まる。
「あ、あ、あ、ちょっと」
とか、親たちはみんな言いながら、リードの下に手を入れ、こんがらがるリードの修復に必死になる。ま、これはこれで、楽しいのだけれど・・・。
あと、PTAやご近所の集まりと大きく違うのは、犬の飼い主たちは仲が良くても、深く人生に介入してこない点である。
あくまでも犬が主役なので、飼い主たちは黒衣(くろご)に徹している。犬が幸せなら、どうでもいい、という感じだ。
犬たちが次の目標に向けて動きだす、ほんの数分の立ち話となる。
この会話も、餌はどこで買うのか、いいドッグトレーナーがいるわよ、などなど、犬関連の情報交換となる。
犬以外の話題になることはめったにない。

退屈日記「世にも奇妙な犬仲間たち。犬を飼う人の不思議な連帯」



でも、やはり、ミニチュアダックスを飼っている親同志だと、共通項が多くあるので、他の犬種の親たちより、親近感を感じるし、会話もちょっと長くなる。
ウクライナ人とロシア人のカップルが雌のミニチュアダックスを飼っていた。ラブという名前だった。
犬公園で、数か月前に出会ったが、彼らは明日、アメリカへ向けて旅立つので、お別れです、と自分たちの素性を語りだした。
彼らはビジネスマンで、この戦争に反対をしていた。
それで、海外を転々としているのだった。ラブちゃんも一緒に。
こういう話しをすることは非常に珍しいことだ。
でも、彼らは誰かにこのことを伝えたかったのだろう。
「戦争で、幸せになる人なんて基本、どこにもいないですよ」
ムッシュの方がそういった。
「私たちはすくなくとも、心で繋がっているんです」
とマダムが言った。
ラブと三四郎がお互いの匂いを嗅ぐものだから、リードが絡まってしょうがなかった。
この人たちとはもう、会えないかもしれないな、と思った。
この世界が、平和であってほしい、と願いながら、絡まったリードを元に戻すのだった。

退屈日記「世にも奇妙な犬仲間たち。犬を飼う人の不思議な連帯」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
三四郎がぼくに与えてくれていることがあります。それは、癒し、です。そして、三四郎を通して知ることのできた世界があります。今まで、ぼくには見えていなかった世界が、三四郎を育てている中で見えるようになってきたことです。そこは、これまでぼくが知っていた世界とはちょっと異なりますが、大切で、いとおしい、もう一つの世界なのでした。

さて、日本公演は、これでしばらく、見納めになりそうです。
・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00

Design Stories先行
受付期間:4/6(土)10:00~4/19(金)23:59・抽選

https://w.pia.jp/s/jinsei24ds/
※デザインストーリーズ先行発売でーす。一般発売は5月です。

さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(詳細、待って)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator

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