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滞仏日記「爪が剥がれ、その爪が生えるのを待ちながら、ぼくは新たな人生を」 Posted on 2024/04/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ロンドンからパリへと戻って来た。
ロンドン側のセント・パンクラス駅はきれいな駅なのに、パリ側の北駅周辺はやや危険な地区にあって、正直、この周辺はかなり猥雑な場所でもある。
でも、パリに戻ると、なぜか、ほっとする。
ロンドンはとっても好きな都市で、ここ最近、一番行くのがワクワクする場所かもしれない。
今回と前回のライブを通して、仲間も増えたので、友だちの街と豪語しても問題なさそうだ。
次はいつになるか、すでに、それを考えるとウキウキがとまらない。
でも、それでも、パリはやはり22年も生きてきた街なので、観光地以外は汚くても、もう、故郷、と言ってもいいだろう。
ぼくの人生の3分の1はパリで生きたし、たぶん、ぼくの生涯で東京と並んで長く暮らしている街でもある。たぶん、あと、1,2年で、長さで言えば、東京を超えることになる。
ロンドンで暮らしたら、きっと、ロンドンっ子じゃないとわからない問題がいろいろと見えてきて、もしかすると、嫌になるかもしれない。
パリは、渡仏当初、仏人と喧嘩して、大嫌いになり、その後、長い年月をかけて、故郷のような思いが芽生えてきた、もはや、通過点ではないような街となった。
生活地であり、息子の生まれた街でもある。
そりゃあ、嫌なこともたくさん経験したし、もめ事もあった。それでも、パリがどんなに汚くても、やっぱり、帰って来たぞ、と思う街であることは間違いない。
ロンドンの公園で、空を見ていた時、夏目漱石はここでどんな思いで生きていたのだろう、と想像した。
あの時代、お金の送金もできないし、周りはみんな英国人だし、差別とかもあっただろうし、火星で生活しているような寂しさを覚えたことであろう。
今は、12時間くらいで、日本と行き来できるのだけれど、よく、夏目先生、ここまで来たよな、と思ったら、ため息がこぼれた。それはすごいことじゃないか。
当時、日本から世界に出た人たちが持ち帰った文化が、今の日本のいったんを生み出しているわけで、先人たちに感謝しかない。

滞仏日記「爪が剥がれ、その爪が生えるのを待ちながら、ぼくは新たな人生を」

※ セント・パンクラス駅

滞仏日記「爪が剥がれ、その爪が生えるのを待ちながら、ぼくは新たな人生を」

滞仏日記「爪が剥がれ、その爪が生えるのを待ちながら、ぼくは新たな人生を」

※ 北駅を出たら、こんな状態だった。唖然。



さて、昨日のライブで、爪が剥がれたので、あらたに、いろいろ大変がふりかかっている。
ぼくのギター奏法だと爪がどんどん削れるので、ジェルネイル、をしないとならなくなるかもしれない。えへへ。
もう、人差し指の爪がないので、ある程度、生えるまで待って、やるしかないが、6月末のフランスツアーまでに爪がある程度再生するのか、間に合うのか、という難問が新たに浮上した。
人生というのは、浮き沈みが激しい。次から次に問題がふりかかる。
ギターが弾けないことが一番、辛いかもしれない。
仕方がないので、ぼくは絵を描くために、アトリエにあがった。さっきまでロンドンにいたというのに、ヒデとロザンナと別れて、もう、パリのアトリエで絵を描いているのだから、あはは、なんという人生だ。
フランスで個展をやりたいので、とはいえ、まだ何も決まってないのだけれど、そこへ向かって、コツコツと作品を描くのが、今のぼくの次の目標なのだ。
出版やCD化のように、量産できない創作だが、ぼくは素晴らしいと思っている。
これは、ぼくにとって、呼吸のようなものだ。パリで感じる空気感を、カンバスに叩きつけることの中に、ぼくはぼくの存在理由を発見しつつある。
絵も、小説も、音楽も、あらゆる創作がぼくのアートなのだ。
映画も、舞台も、詩も、なにもかもが、ぼくは想像力の結晶なのであった。

滞仏日記「爪が剥がれ、その爪が生えるのを待ちながら、ぼくは新たな人生を」



ロンドンの人懐っこい新たな友だちたちと過ごしたこの数日を振り返りながら、誰もいない、静寂の中のアトリエで、ぼくはカンバスと向き合った。
窓をあけると、春の風が吹き込んできた。
夏目漱石はあの時代、苦しみながらも、ロンドンで小説を書いていたに、違いない。
ぼくは2024年にこのパリの屋根裏部屋で60号のカンバスに大作を描いている。
これを最初に見るのはフランス人になるかもしれないね。
彼らがぼくに何を言うのか、それがとっても楽しみじゃないか。
昨日のライブ後、たくさんの感想が主催者の手元に届いているようだ。
何かを、パッションを、ロンドンの人たちに届けることができたのなら、良かった。
それは、表現者である父ちゃんにとって、大いなる宝物になる。
ぼくが死ぬまでにこの世で生み出す創作物こそが、ぼく、自身なのである。
自分でも、こんな自分のことを理解することができないでいる。あはは。
しかし、それが、父ちゃんのアート、だ。
ぼくにもわからない、ぼくという厄介な人間が、面白ければ、それでいいじゃないか。
ぼくが何者か、生きている間に、あかしてみせたい。

滞仏日記「爪が剥がれ、その爪が生えるのを待ちながら、ぼくは新たな人生を」



滞仏日記「爪が剥がれ、その爪が生えるのを待ちながら、ぼくは新たな人生を」

滞仏日記「爪が剥がれ、その爪が生えるのを待ちながら、ぼくは新たな人生を」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
生きている間に、どこまで行くことができるのか、とっても楽しみで仕方がないのです。自分の中から、いろいろなものが生まれてくることが、実は、自分がもっとも不思議ではあります。昔書いた小説を読み返すと、こんなこと、なんであの時、考えたんだろう、と思うわけですが、今はもっとすごいことを考えているわけで、あはは、笑えます。自分がどこまで行くのか、どこに辿り着くのか、見届けることがもしかすると、ぼくの一生かもしれませんね。


さて、さて、日本での引退も決定したので、東京と大阪公演、これで当面、見納めになりそうですね。生涯、最高のライブにしますので、お付き合いください。
・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00

さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)

滞仏日記「爪が剥がれ、その爪が生えるのを待ちながら、ぼくは新たな人生を」



自分流×帝京大学