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滞仏日記「貫禄がないから、と自撮り禁止令が出され、落ち込む父ちゃんの巻」 Posted on 2024/04/22 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日、事務所内で会議があり、自撮り禁止法案、が可決された。
芸術新潮7月号に父ちゃんの記事が出ることになり、今日は朝から、パリのアトリエにて撮影が行われたのだがけれど、そのあとで、会議があり、自撮り写真をこれ以上日記にあげると風格が損なわれるということになり、自撮り禁止法案が提出され、賛成多数、反対1,で同法案が可決されてしまったのだった。
議長でもあるマネージャーのMM曰く、
「先生は、先生のキャリアを貶めている自撮り写真をこれ以上日記に載せると、夏の個展に影響が出るし、引退公演にも泥を塗りかねず、さらには、芸術新潮さんの記事も薄っぺらくしてしまうので、すくなくとも、個展が終わるまで、秋まで、自撮りを禁止してはどうでしょうか」
と言われたのだった。
法務担当の岡っち、最近(週一のペースで事務仕事に)返り咲いた長谷っち、そして、重鎮のマント文子さんが出席をして、賛成3人、反対一人(父ちゃんです)という圧倒的多数により、自撮りが封印されてしまうことになったのであーる・ぱちーの。
とはいえ、夏の新生堂の個展が終わるまで、という期間限定法案なのであった。
「先生、これは仕方ないですよ。先生の自撮り、インパクトありすぎですし、ちゃら男キャラの写真、しかも、全部、ピースとかしているし、64歳の芥川賞作家の名が泣きます。ECHOESの歴史にも泥を塗りかねないので、封印しましょう、この際」
と言われた。
無口な岡っちまでも、
「わたしは個人的に嫌いじゃないんですけれど、先生は、帝京大学の特任教授でもありますし、ま、しょうがないですね」
と、全員に反対されてしまったのだった。
ぎゃふん。
「先生、とにかく、もう、立場的にも、ピースサインのかわいい雰囲気の自撮りは、ダメです。芸術新潮には、芸術新潮にふさわしい写真を掲載してもらいます」
ということで、今日の撮影、こういう写真となったのであーる・ぬーぼー。

滞仏日記「貫禄がないから、と自撮り禁止令が出され、落ち込む父ちゃんの巻」



しかし、納得がいかない。
「ダリはどうなんだ」
と言ってみた。
「先生、ダリは、あれがそのままですから」
「えええ、ぼくだって、あれがそのままじゃないか」
「いいえ、先生、あれには無理があります」
あれーーーー、と叫んだ父ちゃんだった。
「ピカソはどうなるの?」
「ピカソが自撮りしますか?」
「草間彌生さんは?」
「先生、草間先生だって、あのままですから」
「ぼくだって、このままじゃないか」
「いいえ、普段の先生は、かなり、その、いっちゃなんですが、ぼろぼろじゃないですか」
「ぼろぼろー???」
「自撮りは嘘をついてます」
「えええええ、言ったなァ~」
「先生、駄々こねるんじゃありません。芸術新潮ですよ」
「村上隆さんはどうなるの? あのかっこ、真似したい」
「先生、あれこそ芸術です。先生の場合は、違います」
「納得いかなーい」
と大暴れだったが、事務所内議会で、可決されたので、個展が終わるまで、自撮りが封印されることになったのだった。
落ち込む、父ちゃん・・・。
父ちゃんのあの笑顔がしばらく、日記から、消える。
日本での引退公演と個展に向けて、自撮りも封印、風格と貫禄の父ちゃんになれ、と言われてしまった、これは、きつい。
きついよー。

滞仏日記「貫禄がないから、と自撮り禁止令が出され、落ち込む父ちゃんの巻」



「いいですね、真剣なまなざしで、自分が描いた絵をじっと見てください」
カメラマンさんが言った。
「ちょっと顎を引いて、その絵をにらみつけてください。そうです。貫禄があります」
パシャ、パシャ、パシャ・・・。ふえーーん。泣。
ということで、すごい、老けたぼろぼろの爺さんのような父ちゃんの写真が次々、撮影されていったのであった。
もう、終わった、と思った。終わりじゃ・・・。
ぼくの時代はこれで終わりだ。ここからは、嘘くさい巨匠を演じていかないとならない。何が楽しくて、生きていけばいいのであろう。
自撮りができたからこそ、今まで、人生の日々にバラの花が咲き誇っていたのに、自撮り禁止で、いったいぼくの日記のどこに光が差すというのか・・・

滞仏日記「貫禄がないから、と自撮り禁止令が出され、落ち込む父ちゃんの巻」

※ 「け、つまんない」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
やれやれ、寂しいかぎりではありますが、ぼくのことを思って、スタッフが言ってくれたことなので、しばらく、自撮りからも、退なのであります。がんばります。こっそり隠れて、撮影して、老後の楽しみにすればいいですね。ふふふ。


5月から、ラジオ・ツジビルが、月3回、5のつく日に生放送されるようになり、月1000円に大幅値下げされます。こんなロートル父ちゃんのラジオですが、ぜひ、お聞きください。

さて、さて、日本での引退も決定したので、東京と大阪公演、これで当面、見納めになりそうですね。生涯、最高のライブにしますので、お付き合いください。
・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00

さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
☟☟☟☟☟
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)

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